
物事には順序ってもんがあるでしょうが
「初日」の記事を上梓したあと、大相撲五月場所を見ながら、「やっちまったなあ」と思っていた。オタクはとにかく相撲の面白さをわかってほしくて必死なあまり、連載初回にして恐ろしくマニアック(しかもなんか抽象的)に持論を展開する怪文書をブチ上げてしまった。少しでも相撲に興味を持って記事を読んでくれた人の多くをさっそく置いてけぼりにしてしまった。山都さん、ちょっと自分ついていけないっす。すいません…そんな去り行く背中が見える。自分の趣味に興味を持ってくれた一般人に、ついうっかり早口で捲し立ててドン引きさせてしまうという、オタクには避けられぬ、あの深い業…。あとで一人になったときに脳内で繰り広げられる猛烈な反省会…それによく似た「やっちまった感」に苛まれながら、私は五月場所の大波乱を見守っていた。
やっちまったのはそれだけではない。そもそも、私が最初に書かなければいけなかったこと、それは「どうしたら相撲が見れるのか」ではなかったか。普通の人は、相撲がいつ、どこで行われ、どの媒体で見ることができるのかを知らない。ひょっとすると「えっ、相撲って放送してるの夕方とかでしょ?そんな時間にテレビ見れないんだよねー」なんて、話に取り合ってもらえないかもしれない。あの「初日」の記事を読んで、よしんば「相撲を見てみたいな」と思ってくれた人がいたとしても、きっと見ることができなかったはずだ。オタクは忘れているのである。オタクが呼吸をするように、当たり前にやっていること―どうすれば、リアルタイムでなくても、家にいなくても、毎日相撲を見ることができるのか―は、普通の人にとっては、未知の領域である。相撲の妙味を知るのは、その先の領域でのことだ。まず見れなきゃなんにも始まんないじゃん!物事には順序ってもんがあるでしょうが!
というわけで、今月も大相撲七月場所が始まってしまった。本連載「2日目」のテーマはずばり、「相撲放送・配信観戦ガイド」である。もう「見たかったけど見れませんでしたね〜」とは言わせないぞ!
そもそも相撲っていつやってるの?
さまざまなスポーツに各種リーグ戦や大会が存在し、それぞれに開催スケジュールが設定されているように、それは相撲においても例外ではない。プロの相撲である「大相撲」、その公式戦は「本場所」と呼ばれ、奇数月に15日間の日程で行われている。各場所ごとに、15日間の勝利数で優勝力士を決定し、また、その成績をもって、各力士の次の場所での番付の昇降が決まる、というのが非常にざっくりとした大相撲のスケジュールである。さて、これだけでも初耳であるという方は多いのではなかろうか。なお、偶数月には地方巡業があり、各地でファンとの交流を深める。本場所がないからといって休めるわけではないのだ。本当に大変なお仕事である。
では、15日間のタイムスケジュールはどうなっているのだろうか。なんとなくだが、夕方におじいちゃんおばあちゃんがテレビで見てたような気がしないだろうか。ところが実際は、午前8時半ごろから相撲の取組(試合)は始まっているのである。大相撲における番付、つまり力士の順位には、順位によって階級が決まっている。Jリーグに1部から3部まであるように、横綱を含む最上位の階級である「幕内」から、一番下の「序ノ口」まで、6つの階級に分かれており、それぞれの階級ごとに対戦が行われるのだ。その「序ノ口」の対戦が始まるのが午前8時半ごろで、それからひとつ上の階級である「序二段」、さらに上の「三段目」―と徐々により高い階級の取組が行われていき、「幕下」、「十両」、「幕内」―とすべての取組が終わるころには、午後6時ごろになる。地上波でのテレビ放送はだいたい幕内あたりから始まることが多いので、夕方になるとおじいちゃんおばあちゃんがテレビで相撲を見ていたような気がするということになるわけだ。
大相撲の放送っていつから?配信もある?見逃し視聴は可能?
なんだかまとめサイトのタイトルみたいですね!
大相撲の放送や配信は、NHKとAbemaでおこなわれている。それぞれの放送・配信形態を比較してみよう。
| NHK | 【テレビ】 BS 13:00〜だいたい15:00くらい 総合テレビ だいたい15:00くらい〜18:00 BSプレミアム4K 13:00〜18:00 【ラジオ】 NHK AM 16:00頃〜18:00(※千秋楽のみ15:00ごろから) 【配信】※無料 NHK ONE リアルタイム配信、追っかけ再生・見逃し視聴可能 |
| Abema | 【配信】※基本無料、一部有料制 8:00〜18:00 リアルタイム配信、有料会員のみ見逃し視聴可能 |
ここからさまざまなニーズにお応えするため、それぞれの特徴をざっと説明する。
NHKの大相撲中継
言わずと知れた超名物番組であり、もはや他のスポーツ中継とは一線を画し、唯一無二の威厳をたたえる番組、それがNHKの大相撲中継である。その歴史は古く、ラジオでの中継が始まったのは1928年と、およそ100年前にさかのぼる。テレビでは1953年に始まった。
テレビ、ラジオ、配信などさまざまなプラットフォームで中継されているが、メインはテレビ放送である。テレビ放送は13:00からNHK BSで始まる。この時間帯は、三段目の終わりあたりから、幕下を経て、十両の途中までの取組が放送される。相撲超好き勢は、時間があればここから視聴開始である。幕下には十両から陥落した関取経験者(※関取とは十両・幕内力士のこと)や、将来有望な若手がごろごろいるので、白熱した戦いも多い。関取を目指し、ケガから這い上がっていく者の姿やスター候補の成り上がっていく様は、長い間この時間から見ていると感慨深い。いつか「あの関取の幕下時代を知っている」ということが大相撲という大河ドラマを見守っていくうえで深みを増していくのである。また、この時間帯の魅力といえば、引退して間もない力士が親方として初解説をすることも多く、これもまたファンの楽しみなのである。さて、もうおわかりかと思うが、初心者の方にとってはだいぶマニアックである。
NHKのテレビ放送は「だいたい15:00くらい」で地上波に移る。そのため、チャンネルを切り替えなければいけないのだが、取組の時間が差し迫っている場合は手に汗握る瞬間である。その「だいたい15:00くらい」というのが、地上波での中継の前番組の進行具合(おもに国会中継など)によってけっこう前後(だいたい後ろ倒しだが)するのである。だからどうってわけではないっちゃないんですけどね。
テレビ放送が地上波に移ると、映像がきれいになる。なぜならBS放送は画質が落ちるサブチャンネルでおこなわれているからである。ここからはだいたい十両の上位から放送されていく。時間がある人はこのへんからテレビで流し始めてもいいんじゃないかと思う。が、十両の途中から幕内の結びの一番(※その日の最後の取組のこと)までの放送でも約3時間ある。テレビ番組をのんべんだらりと流していてもHPが減らない人はぜひそうしてほしいのだが、しっかり見ると私のようにHPが貧弱な者はかなりくたびれるのでちょっと考えたほうがいいかも知れない。
ところで、NHKのBSまたは総合テレビにおける中継では、1時間おきにニュースが挟まれる。たいてい3分で終わるのだが、なにか大きなトピックがあると、急に解説が始まるなどして、なかなかニュースが終わらずやきもきすることもある。ただ、安心していただきたい。ニュースの間に行われた取組は後ほど番組内で紹介される。3分もあれば、取組が一つ終わっていることも珍しくない。しかしながら、やっぱり、ご贔屓の力士や注目の一番は落ち着いて見たいものだ。その点、うらやましいのはBSプレミアム4Kでの放送である。こちらはニュースが放送されないうえ、BSから地上波への切り替えもない。サブチャンネルの放送でないので、映像がずっときれい。4Kだから普通に地上波放送を見るよりきれいなのでしょう。設備がととのっている方は、ぜひともBSプレミアム4Kでの視聴をおすすめする。
ちなみに、先述のとおり、大相撲中継はラジオでも放送されている。相撲はある程度見慣れて、「左を差す」とか「右がのぞく」とか「前みつを取る」とか「うっちゃり」のような言葉から動きや技をある程度脳内再生できるようになれば楽しめるかもしれない。そう言う私もラジオの中継を恥ずかしながら聞いたことがない。ただ、ご贔屓の親方(?)が解説を担当するときは、例えばテレビの映像を見ながら聞いたらとっても楽しいだろうと思います。なお、ラジオ放送は「らじる★らじる」や「radiko」のアプリやWEBサイトからも聞くことができ、聴き逃し配信にも対応している。
NHKの中継を見たいけど今、家にいない。でもwifiは飛んでる。そんなときはNHKプラス
相撲の取組が行われている日中から夕方にかけての時間帯は、家におらんし見れんのだわ!という方もおられるでしょう。そんなときはNHKプラスのインターネット配信が便利ですね。リアルタイムで見ることもできるが、放送中に時間をさかのぼって再生する追っかけ再生も可能。もう幕内後半だけど、幕内の最初から見たい!というあなたも大丈夫なのです。もちろん見逃し配信もあるので、日中は忙しいみなさんも、夜ゆっくりできる時間に見るなんてこともできる。ただし…!NHKプラスで見られるのは地上波放送の中継のみであるという点にはぜひとも注意していただきたい。取組の進行によっては、地上波でほんのちょっとしか十両の取組が放送されないなんてこともある。そう、「だいたい15:00くらい」のずれ具合によるのだ。幕下や十両から追いかけたければ、テレビ放送をちゃんと録画しましょう(自戒の意味を込めて)。また、NHKプラスの利用にはNHK ONEというサービスのアカウントを作成してログインする必要があるので、急に必要になって慌てないように、いまのうちにやっちゃいましょう。無料です。
とにかく忙しいあなたに贈るダイジェスト番組「幕内の全取組」
体調が悪い、忙しい、寝たい、しんどい、疲れた、などでテレビ放送を見る元気や時間がないときもありましょう。そんなあなたには、BSでは午前1:55〜2:20、総合では午前3:35〜4:00という、これは誰向けなんですか?という時間帯にひっそりと放送されている「幕内の全取組」という番組をオススメします。これもNHKプラスで見逃し配信を視聴できる。
時間近くある幕内の全取組を25分間にギュッ!!!と圧縮したダイジェスト番組である。取組以外の時間がどれだけ長いのかがよくわかりますね。実況は入っているが解説は少し拾ってくれる程度だし、パッパと進行していくので、相撲なんもわからんという方におすすめできるかは微妙だが、とにかく「昨日の相撲見てないからサクッと追いつきたい」という場合には大変便利。むしろ、相撲なんもわからん状態でも、いきなり中継を見るのはちょっと気合が必要だなあ…と感じるなら、この番組から入るのもアリな気がしてきました。ダイジェストとはいえ、幕内という最高階級という、大相撲のメイン中のメインを全部見たということは、「相撲が好きな人」のなかでも「けっこう見てる人」のうちに入れるくらいのことなのではないかと、私個人的には思います。
Abemaでの大相撲中継
実は、基本NHKで見ているので、こちらはそんなに詳しくないのだが(ごめんなさい)、NHKと比較しつつ紹介していきたいと思う。
Abemaはリアルタイム配信をNHK同様行っているが、追っかけ再生や見逃し配信の視聴には有料会員への登録が必要であることは先述した通りである。
Abemaの中継のありがた〜いポイントとしては、まず、序ノ口あるいは前相撲(※おもに新弟子など、まだ番付に載っていない力士が、次の場所の番付を決めるために取る相撲)から中継してくれるところである。例えば、十両や幕内で好成績を残していたにもかかわらず、ケガで長く休場し、序ノ口などから出直すことになった力士を見たい!とか、地元から新弟子が出たので見たい!などの場合便利である。もちろん、NHKでは放送されない序ノ口〜三段目くらいまでの力士をつぶさにチェックしている人もいる。ただし、実況と解説がつくのは幕内からなのでご注意を。Abemaの幕内中継は解説に親方だけでなく、協会を離れた元力士も招かれる。タッチペンを使った詳しい解説や、元横綱・若乃花の花田虎上氏による実演「アクション解説」などは、NHKでもちょっと取り入れてくれないかしら?と思うような、相撲をもっと知りたい人にも見応えがあるものになっている。
また、ありがたや〜ポイントは他にもあり、NHKのように18:00には絶対終了しますということがないので、千秋楽は優勝力士のパレードまで見ることができる。私も今場所の千秋楽はテレビの放送が終わったらAbemaでも見ようかな…と思っている。
他にも、当たり前だがAbemaの放送ではCMが流れるし、NHKとはカメラアングルや画面の映りに違いがある。ちなみに私は両国国技館の照明が暗く艶やかに映るNHKが好きである。Abemaのほうが明るくて好きな方もおられよう。また、ご贔屓の親方(?)がAbemaでも解説することがあるため、解説者でその日見る中継を選ぶこともできる。Abemaは場所前のインタビュー等、力士の動画も正直全部見れないです〜!というくらい豊富で力士を身近に感じられる。しかし逆に、NHKでは花道に待機するリポーターが取組後の力士の談話を伝えたり、勝ち越しや金星といった成果をあげた力士をカメラの前でインタビューしたりと、臨場感が伝わるNHKにしかない良さもある。インタビュールームに来て息を弾ませながら語る力士からしか得られない栄養もあるのだ。
NHKの大相撲中継がいぶし銀、令和なのにこの番組だけずっと昭和で時が止まっているわ…!というようなものであるとすれば、Abemaはキャッチーで、ヒップでホップで、昭和を令和風味で包んで召し上がりやすいものである。実際、Abemaでの10代の視聴者数の伸びは著しい。こればかりは好みによると思うので、ぜひどちらも一度見てもらえればと思う。なんにせよ、相撲の一番おいしいところは取組そのものであり、素晴らしい取組は何で見たって素晴らしいのだから。
この記事が公開されるころには、七月場所も折り返し地点かもしれない。NHKプラスの見逃し配信を視聴できる期間は1週間…今のうちに、「幕内の全取組」で追いついちゃいましょう。
