EU(欧州連合)と共通通貨ユーロの目的 後編

ヒカリの学習ノートにようこそ。今回も引き続き「EU(欧州連合)と共通通貨ユーロの目的」について話して行くよ。前回はユーロ圏とは何かについて、英国のユーロ脱退のニュースを交えて説明したね。今回は更に踏み込んで、そもそもユーロ圏というものが何故生まれたのか、そこに隠された真の目的に迫っていくよ。

突然だけど、みんなは「マンデルフレミングモデル」って知っているかな? 経済に興味のある人には馴染みのある言葉かも知れないね。これは、MMTを否定する主流派(新古典派)経済学者や評論家が反論手段の一つとして使っている理論で、簡単に説明すると、財政赤字が拡大すると(国債を購入することでお金のプールが減るから)金利が上昇して、輸出の減少や(企業が投資を躊躇うことで)国内生産量に影響を及ぼし、GDPを減少させてしまうというものなんだけど、今日話したいのはこの理論そのものについてではないし、それを否定する理屈をこねたいわけでもないんだ。突っ込み所はいろいろとあるんだけど、それについては丁寧に説明している専門家がいるので、別途調べてみて欲しい。

とにかく、ユーロ圏というものを発案したのがこの「マンデルフレミングモデル」を提唱したロバート・マンデル教授という人物なんだよという事実を前提として、説明を続けていく。

マンデル教授が言うには、経済危機に直面した際に有効なシステム、それこそがユーロ圏なのだそうだ。詳細は「最適通貨圏理論」という論文にまとめられていて、これを設計図にして形成されたものが、みんなもよく耳にしているあのユーロというものなんだ。

「欧州合衆国の樹立」や「第二の基軸通貨の実現」という理想を掲げ、ヨーロッパ各国をまとめ上げてくれたのであれば、マンデル教授の目指したものは正しかったことになるよ。

でもね、マンデル教授にはある思惑があった。具体的には、以下の2つを政府から取り上げることだったんだ。

1.金融主権

⇒通貨発行や金利操作などに代表される金融政策を行う権利

2.財政主権

⇒公共投資などの財政政策を行う権利

さて、よく考えてみて欲しいんだけど、こんなにも重要な権利を手放してまでユーロ圏に加入するメリットとは、果たして何なのだろうか。万一、デフレによる金融危機が発生した際にも、加盟国の政治家は「金融政策」や「財政政策」というケインズ(20世紀のマクロ経済学に大きく貢献した英国の経済学者)的な政策を行えなくなってしまうんだから、メリットよりもデメリットの方が多いと言えるだろう。

実際にどんな事態に陥ってしまっているのかについては、ユーロ加盟国の置かれた現状を見れば分かるだろう。そもそも加盟国は金融政策の主権をECB(欧州中央銀行)に移譲してしまっているため、万一金融危機に陥ったとしても、政府は通貨発行や金利操作などの金融政策を行えない仕組みになっているんだ。更に、財政政策まで制限されている。

例えば財政赤字はGDPの3%までという取り決めがあるから、思うような財政出動(日本のように国債を発行して対応)ができないでいるんだ。EUから借金をした場合にも強制的に緊縮財政を迫られるため、実質的に財政政策を行うことは不可能な状況におかれていると言えるだろう。要するに、デフレによる失業率が上昇したとしても、政府は適切な経済対策を行うことができないことを意味しているんだ。これでは政府が何のために存在しているのか分からないよね。

もちろん、そのような事態に備えてマンデル教授は対策を用意してくれている。それは何かと言うと「構造改革」「規制緩和」「民営化」という3つの柱によって雇用を改善しよう!というアイディアなんだ。どこかで聞いたことがある話だね。

これを至極真っ当な提案だと感じてしまった人は、今一度よく考え直した方が良いだろう。それを実行した結果として、ギリシャやイタリアがどうなっているか分かるだろうか。生活に直結するインフラが民営化されてしまっいるんだよ。グローバル資本家によって買い取られてしまったと言った方が分かり易いだろうか。つまり、ユーロ圏というシステムの中で適切な経済対策が出来ないように縛り上げられてしまい、最後は身売りする以外に助かる道がなくなってしまったという恐ろしい話なんだ。

『経済危機に直面した際に有効なシステム』であると最初に話したのは、そういう意味なんだ。この場合、国民には特に恩恵はなく、それどころか主権を奪われているので最悪な結末であるわけだけど…。

だったら何故、大切なインフラがグローバリストたちの手に渡らないよう民営化に反対しないのかって? だって、構造的に金融政策も財政政策もできないようにされている(主権を移譲してしまっている)のだから、国民が暴動を起こそうと選挙で誰に入れようと変わりはないよね、他に方法がないのだから仕方がないんだ。

最初からそんなシステムに参加したのが悪いと思う人もいるだろうけど、ユーロという共通の通貨が誕生したときには、まさかこんな事態に陥るとは誰も予想できなかったんだと思うよ。

「欧州合衆国」を作って「ユーロを第2の基軸通貨」にしてアメリカに対抗しようじゃないか!なんて耳心地の良い言葉につい騙されてしまったのかもしれない。そして実際に経済危機に直面したときにはもう手遅れで、政府はケインズ的経済対策を行えないという、身動きが取れない状態に陥ってしまった。逃げ道が残されていないのだから、強制か否かを問わず「構造改革」「規制緩和」「民営化」を受け入れる他に助かる道はないと言える。

ユーロ圏のおよそ3億人もの人々が、気付いたときには新古典派経済学者たちの術中に取り込まれてしまっていたというわけだ。

グローバリストに身売りしたとしても経済対策が出来ていれば良いじゃないかという考えは甘い。結果として移民問題や2ケタ台の失業率といった難題に常に晒される事態に陥ってしまったことは、報道が伝えているから分かるだろう。何の解決にもなっていないんだ。

そんなEUだけど、元を辿ればナショナリズムと幾多の戦争に翻弄され、傷付け合った仏独の反省から生まれた「ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)」を基礎として作り上げられた、国や言語を超えて結びついた共同体だったんだよ。加盟条件も、戦争と死刑制度の廃止を条件とするなど、平和に対する高い理想を掲げているのが特徴だ。

こうした国同士の共同体が、歴史的な側面から見れば必ずしも「悪」と決めつけることはできないことが分かるだろう。

しかし、ここに共通通貨ユーロの存在とその背後にある一部の人間の思惑が加わってくると、途端にあやしいものになってしまう。

これについてはEUの礎(ECSC)を構想したロベール・シューマンも予想しなかっただろうね。

ちなみにシューマンの出身地は、ドイツ語圏ながら5度の国籍変更を強いられた、アルザス・ロレーヌ地方だ。そんな彼だからこそ、ECSCを構想することができたのかも知れない。

ここまで他国の問題として語ってきたんだけど、他人事と軽く受け止めない方が良いだろう。実感は湧かないかも知れないけど、着実にグローバリズムの波は迫っている。例えば、消費税を増税させたがっている人たちの存在はどうだろうか、更に農協や水道まで民営化が進められている。グローバリズムに浸食されつつある状況であるとも言っても過言ではないだろう。

だが一方で、MMTに一部の政治家や国民が注目し始めている。民主主義が残されている今のうちに、国民はグローバル化の波を押し返して行くべではないだろうか。

補足として、旧国鉄や郵便事業のような既に民営化された事業が日本にも存在するけど、必ずしも規制緩和、民営化のすべてを否定しているわけではないよ。特に旧国鉄(現JR)が赤字を拡大させた要因については様々な問題が指摘されていたんだ。その結果として、国の手を離れて独立することになった。

敢えて競争原理に晒して利潤を追求させることで、経営の緩みを無くし、サービスの向上や新たな価値の創出を促す効果も、民営化にはあるんだ。

長くなってしまったので、今日の話はここまでにしようか。

気になった人たちは、詳細を各自で調べてみて欲しい。

それでは、また次回。

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青山曜

青山曜

暮らしとお金をテーマにした話が多め。身近な疑問を分かりやすく解説していきます。

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