俺は精神疾患なんかじゃない!!第三話

それから1週間ほど経ったある日、勇人は得意先周りをして、車を運転していたところに激しい幻聴が襲ってきた。運がいいことに左車線を走っていたので何とか車を左に寄せて駐車し、こらえて治まるのを辛抱強く待っていた。1時間はかかっただろう。やっと治まりかけ、会社はもうすぐのところだったのでゆっくり戻った。

そうだ、主治医の注意事項を俺はちゃんと聞いていなかった。症状が落ち着くまで今は車の運転はしないよう、注意されていたんだ。今までなにもなかったのが不思議なくらいで運がよかっただけだ。

でも営業職は車は不可欠だ。勇人は総務などの内勤に移動させてもらうことも考えたが、そんな適当なウソの理由は思いつかない。かといって車の運転ができなければ営業職は勤まらない。次の日は月末で書類作成だけで外回りはなかった。そして家に帰った勇人は明日の週末、美樹と会う約束をしていた。今まで美樹と会っていたときも俺は車を運転していた。なにもなかったのが不幸中の幸いで、これからは事故を起しかねない。

勇人はよくよく考えて、とりあえず明日は月末だから休日出社になった、ごめん、とメールした。美樹から

「会えるの楽しみにしてたんだけど、仕事じゃしょうがないね。」

と返信が来た。

週末丸2日、勇人はずっと考えていた。とりあえず営業職はもう無理だ。内勤移動も上手い理由は見つからない。

美樹との交際も車がネックだった。何故運転できないか、これだって美樹に適当なウソは浮かばない。

勇人はもうだめだと思った。。完全に追い詰められ、出口がない。

そうだ、何事もなく隠し通せるわけがないんだ。。。

遅かれ、早かれ、こんな日が来るとわかってはいたのに。。。

仕事ももう続けられない、美樹にもどうしても本当のことは言えない。。。

俺はどうしたらいい、どうすればいいんだ。。。

もうこれ以上限界だ。。。

勇人はもうしようがないいんだ、何もかも捨てるしかないと、会社を辞め、ここのマンションからも引っ越す覚悟を決めた。

次の日勇人は部長に、折り入ってお話がありますと退職願いを渡すと部長はすごく驚いて

「誉田くん、どうしたんだね?退社の理由は?」

「はい、実家の父が難病になりまして、」

と苦し紛れの見え見えの大ウソをついた。

「そうか、きみはとても優秀だったから残念だが、親御さんは大事にしないとね。」

勇人は引継ぎも特に多くはなかったので、部長の計らいで一ヵ月後でなく1週間後に退社することができた。

次の日から勇人はマンション探しを始め、今まで住んでいた繁華街に近い所ではなく海が見える古いマンションの5階に決めた。かろうじて地下鉄の最終駅の近くで新興住宅地でもあり、新しい店がどんどんできていて不便なところではなかった。ただ、今まで住んでいたマンションからも美樹の家からもずっと遠いところだった。

仕事もない、車も運転できない、勇人は引っ越してから家にこもってずっとくすぶっていた。

美樹ともこれで決別することにしていた。断腸の思いだったが仕方ない。これ以上隠して付き合っていけないんだ。美樹からは何度も電話やメールが来ていた。勇人は何も返さなかったが、メールも電話も着信拒否だけはどうしてもすることができなかった。

勇人は一流会社の営業でしかも毎月ノルマ以上の成績を上げていたので、まあまあの貯金はあった。しばらくは無駄遣いしなければ生活していくことはできた。しかし、それにも限界がある。いずれは働いて収入を得なければ生活していくことはできない。

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おさる

はじめまして。閲覧ありがとうございます。フエルト、リボン細工、レース等で作った草花を季節ごとに載せていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

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