その日、レフィールは珍しく、みると外出をしていた。
あらゆる人物から「えっ、デート!?」と茶化されつつも、完全に無視を決め込み、何事も無かったかのように町を歩く。
そのうち喫茶店に入ろうという事になった。
「いらっしゃいませー、お好きなお席にどうぞー。」
混んでいるわけでもなく、だがガラガラとも言えない店内で、みるの先導により壁際の席に座る。
席に座り、レフィールはみるの様子を横目で見ていた。
予想していた事だが、イチゴ系のデザートの写真が並ぶメニューに、みるは目をぱあああっと輝かせている。
だが、すぐにハッと我に返り、しょんぼりした表情でメニューを見ていた。
何度もあったパターンだ。
みるは、そういう食べ物が大好きだが空気が読めない子ではない。ランチではない上、同行者が食べないのであれば自分も食べないという気配りはできる。それにまだ歩くだろうからお腹いっぱいには食べられないと予測もできるのだ。それで、みる本人がどう思うかは置いておく。
「ん~…ちょっと待ってね。」
「ああ。」
別に周りも同行者も気にせず、食べたいなら食べて良いだろうとレフィールは思うのだが、そこを我慢して気を使うところも、みるの良いところだ。
だがこの場は、知人達に否定したとはいえ、みるとレフィールとしては二人っきりのデートの場である。
我慢して気を使うなどレフィールには不要なのだ。
そう言ったところで、こんなに長いこと一緒にいても気を使うのが、みるなので。
レフィールは、みるが見ていたメニューを指でつまみ、ヒョイと取り上げてしまう。
「あっ!まだ見てるのに…。」
「ちょっと待て。」
「もー…早く返してね。」
メニューをザッと見て悩むレフィール。
(糖分な…セロトニンやドーパミンが脳内で分泌され、多幸感や精神安定にもなる。…甘いものが好きであれば、だが。)
少し考えた末、レフィールはメニューをみるに戻した。
「もういいの?」
「そうだな。」
丁度メニューをみるに返し、みるがまたメニューを開いた時だった。
「ご注文はお決まりでしょうか~?」
店員が注文を聞きにテーブルにやってくる。みるが慌ててメニューを見る中、レフィールは淡々と応えた。
「コーヒーをホットのブラック、それからホットの紅茶…レモンティーで。あとは…」
チラッとみるを見ると、やはりメニューを見て食べたそうにしていた。なので…
「ブルーベリーレアチーズケーキを1つ。」
「!!」
レフィールの注文を聞いたみるが、喫茶店に入った時同様目をぱあああっと輝かせる。
「あと!えっと…ストロベリーホットケーキも1つ、お願いします。」
「ホットのブラックコーヒー、ホットのレモンティー、それからブルーベリーレアチーズケーキとストロベリーホットケーキですね。かしこまりました。」
店員がスタスタと離れていくのを見届けたみるは、心底安心してメニューを片付けた。
そして当然言うだろうとレフィールが予想していたことを言う、みる。
「ねえ、何でレアチーズケーキを頼んだの?」
「お前がイチゴのデザートを食べたそうにしていたから。」
「やっぱり。」
みるは、レフィールが完全に予想していた返答と、ムスっと少し不機嫌気味な態度を表す。
「私だってこんなところで食べる程、わきまえていないワケじゃないよ。」
「だが、食べたかったんだろう?」
「それは~・・・うん。」
「じゃあ良いだろう。」
「いや、良くないよ!私に気を使って食べなくていいんだよ。」
「なら、お前も俺に気を使わないで食べろ。何年一緒にいると思っているんだ?」
店員が運んで来たブラックコーヒーの香りを広げる為に、少しかき混ぜながら言うレフィール。
黒い水面に映るレフィールの顔も、喫茶店の風景と他の人も、全てがスプーンの波で消えていく。
「だってえ…。」
同じく店員が運んできたレモンティーにスティックの砂糖を入れる、みる。その水面も砂糖で乱れて消えていった。
水面には何も見えない。本当に二人っきり。
カチャカチャと小さく鳴るスプーンの音だけが、しばらく奏でられる。そこに乗る音は店のBGMのジャズと吐息、ペラっとめくれる紙。いつの間にか、それだけになっていた。
(落ち着くな…。)
その空間が心地よく、気に入ったレフィール。だが、目の前の少女はしょんぼりしたままだ。
(せっかくこんなに良い場所を見つけたのだから。)
「お待たせしました、ブルーベリーレアチーズケーキと、ストロベリーホットケーキです。」
コトンと目の前に置かれた皿に、レフィールは悪くは思わない。
「恋人との時間に、ちょっとしたものがあった方が彩りになるだろう?」
「でもレフィって甘いもの好きじゃな…むぐ。」
そんな雰囲気にそぐわない口に、レフィールは無言でレアチーズケーキの上のブルーベリーをひとつ押し込んだ。
「甘くない。…そう思って頼んだんだ。」

ちょっと粉の砂糖が振りかけてあるストロベリーに対して、何もかかっていないブルーベリー。
口の中は、甘さ控えめ、酸っぱめで、ちょっとだけほろ苦さも感じる。
「どうだ?」
「…おいしい。」
「それならば何より。ほら、早く食べないと時間が無くなるぞ。」
ハッ!としたみるは、慌ててホットケーキの上のイチゴを口に入れた。
甘くて、酸っぱさもあって、甘い。
結局また、目をぱあああっと輝かせて至福の表情になる、みる。
それを微笑みながら見たレフィールも、レアチーズケーキを口に入れた。
(良い店を見つけた。)
レフィールはスマホを取り出し、店をメモする。
(今度は1人で来よう。)
落ち着く店を見つけ、みるの笑顔も見られて、実はこれだけで満足しているレフィールだった。
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「ねえ、さっき恋人って言わなかった?」
「違うのか?」
「違…わ…にゃいけど…。」
ぷしゅーと白い煙を吹き出しそうな少女が、ストロベリーのように真っ赤で愛らしかったのも満足の要因になっているだろう。
終わり
★サラッと流しているけど、みるに何も聞かずレモンティーを注文しているレフィール。これがもし逆でも、みるはレフィールに何も聞かずブラックコーヒーとレモンティーを注文します。それで良いのだ。そんな2人を壁になって眺めていたいです。
9/24作成、メルン
