そして、ひとり旅へ (②思い出の場所は遥か彼方編 前編)

No.13(2026年9月28日)

 朝の仙台駅。高速バスに乗ろうと歩いていた。

 朝ごはんは朝マックにした。なににしようか悩んで、ハッピーセットにした。おまけのおもちゃがトミカだった。朝は起こさないように声をかけずそっと家を出た。同じように高速バスに乗るのだろう、派手色のキャリーバッグをもった若い女の子を視界に、息子のことを考えていた。そんなにお腹は空いていなかったが、久しぶりのエッグマックマフィンは美味しかった。寝起きの舌にオレンジジュースの酸味がツンと広がった。

 乗り場には白い鳩がいた。なにか良い予兆だったらいいな。バスの乗降口にいる運転手さんにスマホのチケットを見せてバスに乗り込む。わたしは左側の窓際の席。カーテンを半分しめて、椅子をリクライニングして自分のテリトリーを作った。幸いまわりも静かなお客さんだった。自分の母親よりも高齢の女性も乗っていた。8割が女性客のようだった。ほぼ満席のバスは定刻通り出発した。

 休憩は①南相馬鹿島SA(福島県)②中郷SA(茨城県)③幕張PA(千葉)の3か所。山道を走っている時間も長かった。少し退屈だった。充電できるコンセントがあってよかったし、それを見越して延長コードを入れたのも正解だった。千葉辺りから景色が変わって、のどかな江戸川の向こうにスカイツリーが見えてきた。思わず写真を撮った。川を超えると一気に景色が都会的になる。青と白のごみ収集車が見えた。きょうは何のゴミの日だろう。トミカで遊ぶ息子に見せたくなった。

 王子駅と池袋駅に寄りながら、バスは新宿に到着した。新宿バスタ。テレビなどでは知っていたが、実際に来るのは初めてだ。降り立ったはいいものの、自分がいまバスタビルの何階にいるのか少し考えた。昔使っていた新宿駅の都庁前とか、スバルビル前に降ろされたので、駅はすぐ見えたのに。

 最初の目的地は下北沢だ。電車で一本で行ける場所だが、しばらく迷子になる。3分ほど歩いて、小田急線の駅が道路の向こう側だと気づく。人の流れに身を任せて駅に入り、天井の低い駅舎を歩いて電車に乗った。湿度が高くてもわっとする。それも電車が動けばあっという間だ。2駅で到着した。

 下北沢駅。昔はこんな広場なんてなかったのに。駅はきれいで吹き抜け構造になっており明るく開放的だった。考えてみれば短大生のころはずっとベニヤ板の仮設通路だった。お笑いライブや劇場のチケットの手売りが歩いていた。時刻は14時になろうとしていた。

 とりあえず昼ごはんにしないと。コインロッカーにリュックを入れる。あらかじめ探していた店に迷わずついたが、そのラーメン屋さんは改装工事中だった。Google検索ではわからなかった。だったらさっきの駅中の飲食店にすればよかった。写真だけ撮ったが、息子の名前に似た名前のラーメン屋さんがあったのだ。なんだかうまくいかない。

 もういいや、服を見に行こう。服屋さんは探さなくてもいっぱいある。5月とはいえ夏の日差し、Tシャツがたくさん並べられている。涼もうと思って店内に入るとかわいらしいリメイク古着に目が留まる。adidasのジャージにレースやフリルが使われたリメイクワンピース。値札を見る。2万円を超える。そっと戻す。

 そうだ、今季の即戦力になるハーフパンツを探そう。好きなインフルエンサーさんが履いているような、アップリケ刺繡のハーフパンツを探す。が、思ったよりハーフパンツがない。そして平日でもお客さんが多い。昔はもう少し人が少なかった気がする。地雷系ファッションの若い人ばかりで、だんだん気後れする。

 血糖値も下がって疲れてきた。自販機でジュースを飲む。こんなところにもセカンドストリートがあるんだ、とチェーン店の看板が目について入ってみた。外国人のお客さんばっかりだった。狭い店内はすれ違うのも難しい。試着室のカーテンを明けてぺちゃぺちゃ大声で話している。うんざりしてきて、腕時計を見る。ホテルのチェックインの時間が近い。

 もうバスに乗って三軒茶屋に行こう。予約したホテルに行こう。駅のロッカーから荷物を取り出しバス停へ。バス停の場所はさすがに昔と変わっていなかった。汗だくになりながらバスを待った。一応心配で、バスの乗り方を調べた。そうそう、東京は仙台と違って前から乗る先払い式だ。5月11日、天気予報は見ていたけれどこんなに暑くなるなんて。バスに入ると流れた汗がどんどん冷えていった。荷物はそれほどでもなかったが、“精神的な護身用”に脚にタトゥーシールを入れていたこともあって、隣にはだれも座らなかった。

 三軒茶屋。やっと三軒茶屋に戻ってきたんだ。古いSEIYUの建物の前でバスから降り立ち、本当に本当に嬉しくて気持ちがいっぱいになった。緊張がゆるむ。狭い通りを歩いている誰にもなにも関係ないが、わたしがここに居るのは本当に特別なのだ。

 ホテルの場所も迷わなかった。1階がローソンで2階がホテルのフロント。変わっていない。階段を上ってやや薄暗い中に入る。ホテルの運営会社は変わってしまった。なぜか昔はロビーがレモングラスの香りでいっぱいで、むしろレモングラスの香りを嗅ぐとホテルを思い出すぐらいだったのに。いまはウェルカムドリンクの深煎りのコーヒーの匂いしかしない。

 フロントの対応はアジア系の外国人女性がしてくれた。必要最低限の説明。ちょっとツンとした雰囲気。三軒茶屋に到着して高揚しているわたしが「なにか嫌なことあった?お仕事大変?」と尋ねたくなるぐらいにはツンとしていた。わたしがタトゥーシールをしているように、この人はバリア代わりにこういう態度を選んでいるのか。隣の男性のフロントスタッフは中東系の人に見えた。そっちの人の方が柔和そうでちょっと羨ましい。

 フロントでアメニティをいくつか選んでエレベーターホールに行った。ほかにエレベーターを待っているのは白人系の外国人観光客グループ。狭いエレベーターなのと、一応女性の一人旅ではあるし、護身のために別でひとりで乗ろうと思った。先にどうぞとジェスチャーで伝えた。伝わったのかは分からないが先に行ってくれた。

 自分の部屋のフロアに降りると、まだ客室清掃中の部屋が多いようだった。わたしも過去に客室清掃の仕事をしていたので懐かしくなった。掃除用具がたくさん積まれたカートさえ同僚のように思えた。自分の部屋はエレベーターの目の前。部屋のランクがアップグレードされたらしいが、エレベーターの稼働音と人の乗り降りの音であまり良い部屋な気はしなかった。中に入ると、どっと疲れた。廊下からは客室清掃スタッフの笑い声や大声が聞こえた。パートのおばさんなのかな。

 それも静かになって、テレビをつけても当然知らない番組ばかりだ。知らないワイドショーでゲストが笑っている。部屋の匂いを吸うと急にしゅんと寂しくなった。夫にLINEをした。休みをとってくれた夫は、早めの夕飯の用意をしていた。子供の好きなものを弁当箱に入れて、楽しく食べられるように工夫していた。LINEのスタンプをたくさん送った。

 そういえばさっき三軒茶屋に着いた時、昔ダイニングカフェだった交差点の角がドラッグストアに変わっていたのが見えた。少し外に出てみようか。最低限の荷物をもって、ドラッグストアに行った。ドラッグストアの品揃えはどこも同じだ。少し安心する。知らない店内BGMとポイントカードを気にしながら、入浴剤とメイクキープミスト、スポドリを買って戻った。

 やっと三軒茶屋に着いたのに、この時点でなんだかボロボロだった。本当に本当に、高速バスはやめておけばよかった。勝手に東北道を通ると思っていたのが、東北道での交通事故の影響を考慮してまさかの常磐道への変更。視界の狭い山道ばかりだし、カーブも多く、知らないサービスエリアばかりだった。古い車体でシートもくたくたと妙に柔らかくて疲れてしまった。差額は大きいが、こんなことならケチらずに新幹線に乗ればよかった。そして改めて自分の年齢を感じた。

 そんなつまらないことを思っていても、ここにいられる時間は短い。じっとしているのはもったいない。2本買ったスポドリをぐっと1本飲み干して、わたしは思い出のお店に向かうことにした。太陽は西に傾いていた。家を出てから10時間が経っていた。

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われモコ

われモコ。お腹は三段にわれている。宮城県在住。1989年生まれ。女性。精神疾患あり。だけど元気がとりえ。趣味は古着と料理。現在子育て中。エッセイ、コラムを中心に活動をしながらタイピングスキルのアップと、パソコンに慣れていくのが目標です。アイコンのイラストはサインペンとクレヨン、色鉛筆で作りました。頭に乗っているのは息子的なマスコットのひよこです。

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