あらすじ
15歳の時、任侠の組長である父親を抗争で亡くした立花喜久雄(吉沢亮)は、ひょんなことから鑑賞した歌舞伎に魅了される。その後、敵対する組との和解の条件として、偉大な歌舞伎役者・竹ノ本半二郎(渡辺謙)の家に引き取られることになった喜久雄は、その才能を半二郎に見初められ、役者の道を歩み始める。成長した喜久雄は、女形として驚異的な才能を開花させていく。一方で、半二郎の実の息子であり、恵まれた血筋と容姿を持つ大垣俊介(横浜流星)もまた、喜久雄の最大のライバルとして立ちはだかる。二人は互いに刺激し合い時に嫉妬しながら、歌舞伎界の頂点を目指して過酷な修行と芸の研鑽(けんさん)を重ねていく。歌舞伎の頂点を極めようとする二人の関係は、俊介の病魔によって大きな転換を迎える。俊介は糖尿病が悪化して足が壊疽し、左膝から下を切断せざるを得ない状況に追い込まてしまう。これにより、歌舞伎役者としての栄光を絶たれ、舞台から引退さざるを得なくなる。ライバルであり兄弟子でもあった俊介の悲劇を目の当たりにしながらも、喜久雄は決して歩みを止めない。恋人の春江(高畑充希)など多くの犠牲や情を捨て、自らの肉体や精神を削るようにして芸の道を極め続ける。最終的に、喜久雄は歌舞伎界における最高峰の存在「国宝」と称されるまで至るが、その代償として愛や人間的な感情を置き去りにし、孤独なまま芸の世界(狂気)の中に生き続けるという終わりを迎える。
感想
この映画「国宝」を観て、どうしても言葉に残しておきたくなりました。私の心の記録としても、書いておきたいと思います。脳裏に焼き付いているシーン。手が震えている喜久雄に俊介が化粧をしてあげる場面。「守ってくれる血が欲しい」「俊ぼんの血をごくごく飲みたい」ただただ、静かに涙が流れました。歌舞伎の世界について詳しくはない私ですが、主演の吉沢亮さんと横浜流星さんの演じる女形の美しさには、心を奪われました。所作の一つ一つが驚くほど繊細で、優雅で、まさに息を吞む美しさでした。それほど稽古を重ねられたのか想像はつきますが、それでもおそらく私たちの想像を遥かに超える、果てしない鍛錬の積み重ねがあったのだと思います。俳優という仕事の凄さ、そしてお二人の並外れた表現力に、ただただ感服しました。お二人ともルックスの美しさが話題になりがちですが、それを軽く凌駕する演技力。まさに「一流の役者」です。上演時間は3時間。決して短くはありませんが「長い」と感じたのは、退屈だったからではありません。主演の二人の踊りや演技があまりにも見事で「これ以上観たら感情が持たない」という、ある種の叫びに近い感覚を覚えたからです。この感情は喜久雄と俊介に向けてなのか、俳優のお二人に向けてなのかわかりません。もっと踊りが観たい。もう踊りは辞めてほしい。そんな矛盾した気持ちを抱かせる映画でした。芸に生きる者の喜び、怒り、哀しみ、苦しみ、そして嫉妬や別れ…。それらを体現したかのような演技に、何度も息を飲みました。二人の「道成寺」での大舞台。張りつめた緊張感がスクリーンから伝わってきて、胸がじわじわと熱くなっていく感覚でした。そして、喜久雄の「曾根崎心中」。お初の心情を切々と語る場面は、本当に胸を打たれる名場面でした。息をするのも忘れるようなシーンが何度もありました。「血」と「芸」の圧倒される映画です。吉沢亮さん、横浜流星さん、心からの拍手を贈りたいです。
