今回は、比較的新しい映画作品を紹介する。
「イエスタデイ」(2019年 イギリス・アメリカ作品)
イギリスの小さな町でバイトをしながらシンガーソングライターを目指す青年がいた。小学校からの親友でありマネージャーの女の子(青年のことが好き)と共に音楽活動を続けていたが、全く目が出ずにいた。ある日、いつも乗っている自転車で帰宅途中、世界的に、12秒間の謎の大停電が発生する。その瞬間青年は、バスにはねられて、意識を失う。
青年は、骨折し、前歯も抜けて、暫く入院することになる。退院後、お金がない彼は、新しい歯を入れることができず、いつもつるんでいるマネージャーの女の子を含む友達3人にからかわれる。仲がいいからか、青年が作った曲を3人はあまり褒めてくれない。そんな時、いつも持ち歩いているギターで、ビートルズの「イエスタデイ」を弾くと、3人のいつもの反応と違って、「すごくいい曲じゃない!」と3人が褒めてくれるのだが、青年は、「なにを言っているんだ、ビートルズの曲じゃないか。」というと、「ビートルズって?」と3人は、何のことを言っているの?という反応だった。その時は、からかわれているのかなというくらいに思っていたが、やはり気になったので、インターネットでビートルズを調べてみると、「ビートルズ」というバンドが検索されなかった。最初、「THE Beatles」と検索したが、結果は、昆虫の「beetle(カブトムシ)の写真ばかり出てきて、バンドのビートルズは出てこなかった。青年はそれを見て呆然とする。そして「イエスタデイ」という曲もインターネットには出てこなかった。さらに「オアシス」(イギリスの世界的人気バンド90年代にデビューし、2009年解散。本年2025年復活し、東京でもライブの予定あり。
)や、「コカ・コーラ」、「たばこ」など、あらゆるものをインターネットで検索したが、存在しないものが多くあった。あとから調べたことだが、ビートルズがいなければ、ビートルズに多大な影響を受けた象徴的な英バンド「オアシス」はいなかったというということを監督は描きたかったようだ。オアシス自身、ビートルズから大きな影響を受けていることを公言している。(私個人はオアシスの曲調やメロディから初期の曲しかビートルズの影があまり見えないので、このことを予習していくと、納得できるかもしれない)
コーラもペプシコーラしか存在せず(コカ・コーラがない)、今でこそ、禁煙の場所が多いが、ビートルズの時代には、バンドマンがタバコを吸うのが当たり前だった社会的し好品がないということを描いたのも監督がクリーンな世界を望んだからかもしれない。
青年は、自分だけが、ビートルズの曲を覚えていることに気が付き、その楽曲を「自作」として発表しだす。青年の発表する曲は、瞬く間に評判となり、面白いくらいに、イギリスに広がっていった。
ある日、その噂を聞いたエド・シーラン(本人役)が突然青年の家に来て、前座として、世界ツアーに参加しないかというオファーをだしてきた。
私は、個人的には、エド・シーランの曲が好きでなく、両腕に入れ墨をいっぱいいれているので、本人が出てきた!とは思ったものの、感激はしなかった。
青年は、オファーを迷わず受け、自分の役割をしっかり果たした。(青年はお金ができたので、欠けていた前歯もちゃんと入れることができた。)全曲ビートルズの曲を披露し、無名のシンガーから世界的スターに駆け上るが、ビートルズの曲に熱狂するファンと自分が他人の曲を盗んで弾いていることに、心の中は複雑になる。しかし、エド・シーランのマネージャーの女性が、青年をスカウトし、強引に本格的に青年を売りだそうとする。自分の曲ではない曲を自分が作ったといって演奏して、嘘をこのまま、つき続けて、うわっつらの成功を収めてもいいのか、という思いがだんだん心の中を占めていった。
そんな中、迷っていた青年はこの世界にジョン・レノンは存在するのか?と考え、かたっぱしから、調べて老人となったジョン・レノンと出会う。ビートルズがいない世界では、ジョン・レノンは、音楽をせず、平穏な人生を送っていた。ジョン・レノンが、音楽には触れず、誠実に正直に生きることが、一番大事と、青年にまるで、ビートルズを知っているかのように諭した。
そこで、青年は、やはり嘘はいけない、本当のことを言おうと決心する。
マネージャーが用意したスタジアムでの大規模コンサートの沢山の観客の前で、ビートルズの歌を熱唱した後、「これまで歌ってきた曲は、僕が作ったものではありません。今まで歌ってきた曲は、昔イギリスで活動していたビートルズという偉大なバンドが作った曲です。僕の曲じゃありません。僕はただその曲をコピーしていただけなのです。」と思い切って青年は言ったのだった。マネージャーは、大儲けできると思っていたのに、青年が、思いもしないことを言うので、怒り狂い青年を舞台から引きずりおろそうとするが、青年は、「僕はお金や名声を得ましたが、それは全部嘘の上に成り立ったものでした。」と言い、青年は、その場で、今まで録音していた曲全てを無料で公開することを宣言した。そして、「この歌たちはみんなのものです。個人やレコード会社のものではありません。」ときっぱりと言った。(ビートルズが存在しない空間なので、ビートルズの曲も全て青年が暗譜していた曲を、ギターで録音していた)
親友であり、マネージャーであった彼女は、青年がどんどん有名になり、スターになって遠い存在になっていったと思っていたが、それに気が付かなかった青年。彼女が青年を好きだったから、売れないシンガーソングライターでも支えてくれていたことにも気が付いていなかった。しかし、正直になって、お金や名声が一番大事ではないことに気が付いて、一番そばにいた彼女の愛に気が付いた青年は、ステージ上で、観客の目の前で彼女に向かって告白する。青年は「僕の本当の夢は君と一緒にいることだと気がついたよ。君が必要なんだ。」と言うと、彼女もその言葉に答えるように、青年を見つめる。
マネージャーは、全ての計画と金儲けが、ご破算になり、唇をかんで悔しがるが、スタジアムの観客達は、盗作を歌っていたことより、正直に自分が作った曲じゃないと言った正直さのほうに胸をうたれていた。私としては、この空間にいる人達がビートルズが何か分からない人達ばかりで、盗作と言われても誰もが初めて聴く曲なので、誰が作った曲かとか関係ないと感じたのだろうと思った。無料で素晴らしい曲を全世界に公開した青年の誠実さにも感動したのだと思う。
青年は、このライブを最後に、歌手活動はやめたが、ギターを持って歌うことはやめなかった。その後、愛し合う関係になった彼女と結婚し、学校の音楽教師になり、幸せになったのだろうなというかんじで終わった。(そんなに簡単に学校の教師になれるのか?とも思ったが)大スターになったバンドや歌手が、売れすぎて死ぬほど忙しくなり、なんのために歌っているのか分からないという状況に陥ることが現実にあるが、そんなスター本人たちではなく、彼らをマネージメントする側のお金儲けの野心への戒めのような作品だったなと感じた。
