映画「ハーモニー」
今回紹介するのは、韓国映画「ハーモニー」(2010年 韓国製作)である。

主役は、2004年から2010年まで放送のアメリカのヒットドラマ「LOST」にも出演したキム・ユンジン。以後、韓国国内はもちろん、アメリカドラマでも活躍。
主人公ジョンへは、結婚生活で夫から長年のDVを受け、(暴力は、肉体的にだけでなく、精神的支配・暴言も受けていました。)次第に精神的に追い詰められ、夫を思わず殺してしまいます。
罪状は、正当防衛が認められず、殺人罪で起訴され、服役することになります。ジョンへは、刑務所内で夫の子供を妊娠していることを知り、出産することになります。韓国の刑務所では、受刑者が出産した子供と一緒にいられるのは、子供が生後18か月までで、その後育てられる身内がいない場合は、養子に出されます。それを分かりながらも、産んだ子供を必死でかわいがるジョンへの姿は、観ているこちらも胸を締め付けられました。
ジョンへの服役期間は分かりませんが、殺人罪なので、2、3年の服役ではないでしょう。
そんなある日、ジョンへは、刑務所にきた指導員(日本語で言うと、更生指導員、矯正指導官にあたる役目の人)の前で歌を披露します。その歌声に所長が感動し、受刑者の更生プログラムの一貫として、受刑者合唱団を作ることを提案します。メンバーは、様々な罪状で収監されている女性たちでした。はじめは、やる気のない消極的なものばかりでしたが、受刑者の中に元音大教授がいることをジョンへは知ります。そこで、歌の歌い方を彼女に習い、みんなの中心になってもらいます。
しかし、元音大教授は、殺人罪で収監されている受刑者の中でも、死刑囚でした。ここ何年も韓国では、死刑が執行されておらず、彼女も死刑に処せられる恐怖から逃れられていました。彼女がなぜ死刑囚になったかというと、教授時代に、夫と音大の信頼していた部下が不倫をしているところを発見してしまったからです。夫もそうですが、信頼していた部下が自分を裏切っていたことに、彼女はとてもショックを受けました。彼女は、憎悪から二人が歩いているところを車でひき殺しました。悔しさと信頼を裏切られたことをどうしても許せず、夫をひいたあと、不倫相手の部下をひき殺しました。彼女は、二度人をひき殺したのです。映画では、大分おばあさんになっていたので、何十年も、収監されていたのでしょう。
ジョンへは、次に歌が上手な受刑者を見つけます。ジョンへが、ある若い受刑者に歌うことを促します。そこで、彼女が持つ美しい歌声と音楽的センスが明らかになります。他の団員もその才能に気がつき、合唱団内での彼女の存在が徐々に増していきます。こうして、合唱団のまとまりと結束が強くなっていき、歌にも連帯感が出てきます。
他のメンバーは、取り立てて、映画の中でクローズアップされませんが、ジョンへと同室の受刑者たちは、ジョンへの息子を一緒にかわいがり、お互いそれぞれの罪が明らかになっていきます。万引きや詐欺などの軽犯罪で収監されているものや、男性のDVに耐えられなくて殺してしまった受刑者など罪状はひとそれぞれでした。殺人罪で収監されている女性たちには、同情の余地があり、それらの罪を深く後悔しており、やがて彼女たちの目標になる合唱団に観ているこちらも気持ちが入っていきます。
合唱団がまとまってきて、刑務所側から、大きな提案をされます。それは、更生プログラムの成果として、合唱団を外部のイベントに参加させる案でした。これは、前例がなく厳重な管理が必要なため議論を呼びましたが、最終的に刑務所長の働きで外部イベントの参加が決まります。
外部公演に向けて受刑者達も、練習にそれまで以上に気合が入ります。
その間にジョンへの息子が養子に出される日が近ずき、ジョンへと息子に永遠の別れがきます。しかし、ジョンへは、その現実を受け止められず、苦しみます。ジョンへにとって、合唱団の活動が、唯一の支えになっていきました。外部公演が息子に会える唯一の機会でした。ジョンへの真っすぐな歌への姿勢と、音楽の力によって、メンバーは、より結束が強くなります。
いよいよ、外部公演の日がきました。大勢の観客の前で、受刑者達は、心を込めて歌声を響かせます。その姿を見た人々は、彼女達の過去ではなく今の姿を感じ取り、会場は大きな感動に包まれます。
そして、ジョンへは、養子に出された、養母と共にいる息子が客席にいるのをみつけます。息子は、大分大きくなっており、ジョンへのことを実の母親とは覚えていませんでしたが、それでもジョンへは、息子に想いが届くように、心から息子を想い、歌を届けます。
公演は、大成功を収め、受刑者達は心に、ある変化を覚えて、刑務所へ戻ります。
合唱団は、ただのクラブ活動ではなく、彼女達にとって、過去を見つめ、もう一度立ち上がるための場所となっていました。
合唱団の歌声は、映画を観ている私の心にも響くものがあり、心が熱くなり、感動しました。
しかし、公演が終わって、数日が経ったある日、元音大教授が、突然なんの前触れもなく刑務官に呼び出されます。死刑執行の告知があったのです。何年も死刑執行がなかったのに、本当に突然のことでした。ジョンへと同室だった彼女は、覚悟を決めたように静かに部屋を出ていきました。感動とショックの落差が激しく、気持ちがぐっと下がりました。韓国映画の見ている者を裏切る話には、殆どいい意味で裏切られることはありません。それは、アカデミー賞作品を2019年に獲得した「パラサイト 半地下の家族」でも同じです。韓国映画のまさかの展開は、世界で認められる前からあるパターンでしたが、この「ハーモニー」でも、このような厳しい裏切りがありました。
最後は、全員で元音大教授の死を悼み、涙をこらえながら声を揃えます。みんなが、それぞれの過去を抱えながらも一つになって、調和するシーンは、まさにハーモニーです。
