こんにちは、年々と増していく夏特有の湿気と日差しにやられそうなかぎしっぽです。
早速ですが後編の話に移りたいと思います。
後編は、パンチャーラ王国までの道中と大会の様子について語っていきたいと思います。
(毎度のことですが、かぎしっぽなりの解釈が入っているので間違ってたらすみませんm(_ _)m💦)
・ガンダルヴァの王・アンガーラパルナとの出会い
エーカチャクラを旅立ってしばらくして、正体を隠しながらパンチャーラ王国へ向かっている真夜中の日の時でした。
深い森を抜けて、ガンジス河に出て川で歩き疲れた手足を冷やそうと川に入ろうとした時、一人のガンダルヴァ1が現れます。
「私はガンダルヴァの王・アンガーラパルナだ。いま私は妻達と一緒に川に入っているのに、何故川に入ろうとするのだ!今私と妻達が使っているんだから私の許可なく入ろうとするんじゃない!この川は私の縄張りだ!」
当時、ガンジス河はガンダルヴァの領地であり、彼の名に因んで『アンガーラパルナの森』と呼ばれていたのです。夜間の間のみガンジス河は彼らの領域であった為、アンガーラパルナは妻達と水遊びを楽しんでいました。彼は人間が立ち入るべきではない時間帯に無断でガンジス河に近づいてきたパーンダヴァ達に激怒します。
ですが、そのガンダルヴァの横暴さと傲慢な態度にアルジュナは怒りに震え言い返します。
「ガンジス河が一体いつ誰のものと決めたのですか。川だけじゃありません、山も海も大地にあるもの全てが世界中の人々が共有しているものです」
「そんな自惚れた事をいうのは今すぐやめたほうがいいですよ。力で脅そうとしても駄目です、私は貴方より強いという自負がありますので」
アルジュナの言葉にアンガーラパルナは怒り心頭。
「いい加減な脅しはやめろ!いいから今すぐにここから立ち去れ!さもなくば力尽くで追い出すぞ!」
「その愚かな立ち振る舞いもやめたほうがいい。貴方が力尽くで来るのなら、こちらもそれ相応の対応をさせていただきます」
このアルジュナの言葉にアンガーラパルナはとうとうキレてしまいます。
「随分と良い度胸をしているな。ならばお望み通り、貴様らを力づくでここから追い出してやる!」
ここで『ガンダルヴァ』について軽く説明させていただきますが、ガンダルヴァはインドラ神に仕えている音楽神団で、アンガーラパルナはその音楽神達をまとめているリーダーになります。
つまり彼は今、自分の上司の息子に喧嘩を売っている状態です。
知らないとはいえ、結構凄いことしてますよね。
アンガーラパルナは馬車に乗り込み、アルジュナに向けて矢を放ちます。
その弓矢はまるで蛇のようにうなりを上げながら、アルジュナに向かって容赦なく放たれていきます。
ですが、弓の名手であるアルジュナにとってアンガーラパルナが放った矢は児戯が放つお遊びようなもので、松明を盾のように巧みに扱って、無数に放たれた矢を難無く防ぎます。
アンガーラパルナは全ての矢が撃ち落された事に驚愕します。対してアルジュナは一瞬の隙をついて、ドローナから教わった火の神・アグニ神の力が宿るアストラ『アグネーヤ・アストラ』を唱え、炎の力が宿った矢を放ちます。
激しい炎を纏った矢はアンガーラパルナが乗っている馬車を見事撃ち抜き、馬車は瞬くの間に炎上します。
焼き払われた馬車からアルジュナの手によって引きずり出されたアンガーラパルナはそのままねじ伏せられ、縛り上げられてしまいます。絶体絶命のピンチに陥るアンガーラパルナでしたが、夫の危機に妻達が長兄のユディシュティラの足元にひれ伏し、夫の命を救ってもらうよう泣きながら懇願を求めました。
慈悲深いユディシュティラはこれを受け入れ、兄の指示によりアルジュナはアンガーラパルナを解放します。
命を救われたアンガーラパルナは彼らの寛大な心に深く感謝し、そして己の傲慢さを恥じ、アンガーラパルナは改心した証として、彼らに本名を明かします。
「私はいままで『光り輝く馬車』という意味をもつチトララーダという名で呼ばれていました。ですが、これから自分の事を『燃やされた戦闘馬車の人』という意味でダグダラタと呼んでもらうことにします」
アルジュナと和解したアンガーラパルナは、アルジュナの比類なき強さを称え、友人になりたいと願います。
「貴方の強さに感服いたしました。差し出がましい事は承知ですが、貴方の素晴らしい技を教えていただきたいのです!」
アンガーラパルナの願いにアルジュナは、先ほど戦車を燃やし尽くした師のアストラ『アグネーヤ・アストラ』の扱い方を彼に伝授します。
アンガーラパルナは教えて貰ったお礼として、アルジュナに『チャークシュシーヴィッデャー』という「三界(天・地・空)全ての出来事を見る事ができる」という千里眼の魔術と「決して飢えることがない美しく逞しい天界の駿馬」であるガンダルヴァの馬を100頭与えました。
そして彼らがあのパーンダヴァ兄弟である事を知ると、彼らが今後、王権を取り戻すためには優れた宮廷司祭が必要だとアドバイスを送ります。
「貴方達が地上の統治者として立つのであれば、行く先を正しく導く祭官が必要です。如何に貴方達が強くとも、優れた祭官がいなければ王として立つことは出来ないでしょう」
「優れた徳の高いブラフマンを師として仰ぎ、その方を地上を統治する為の助けとして味方に引き入れる必要があります」
そして聖者・ダウミャが相応しいと兄弟達に推薦し、パーンダヴァ達はアンガーラパルナの教えに従ってダウミャという人物に会いに行くことにしました。
アルジュナはアンガーラパルナに感謝し、「馬は私達が必要になる時が来るまで貴方が預かっていてください」と言い残して別れを告げます。
パーンダヴァは早速アンガーラパルナが言っていた人物、ダウミャがいるウトカチャカという聖地へ向かいます。
彼の庵を訪ね、長兄であり、誰よりも年長の者を重んじるユディシュティラが前に進み出て、丁重に礼拝を捧げました。そして自分達の素性を伝え、謀略によって国を追われ放浪している身である状態を伝えます。
「私達は国を取り戻して、ダルマ(正義を)成し遂げたいと願っています。その為にどうか、我々の案内人となって神聖な儀礼で私達を導いて下さい」と兄弟達は懇願しました。
ダウミャは彼らの気高い精神と謙虚な振る舞いに心打たれ、そして彼らが直面している苦難の助けになろうと彼らの申し出を快く引き受け、パーンダヴァの宮廷司祭になる事を宣言しました。
ダウミャが一行に加わると、その効果は直ぐに表れ激変します。
彼の話と学びを聞けば聞くほどパーンダヴァ達にあった心の暗雲が次第に晴れていき、そして彼の持つ神聖な聖者のオーラによって「自分達は神々に守られている」という安心感に包まれて、心も足取りも軽くなっていきます。
これまで単なる「逃亡者」であり「物乞いのブラフマン」に過ぎなかった彼らは、正式な宮廷司祭を迎い入れたことによって、精神的・宗教的に自分達が「いつでも国を治められる王族の一派」として強い自信を手に入れたのです。
この出会いによって自信を取り戻したパーンダヴァ兄弟は、とうとう目的地であるパンチャーラ王国に辿り着きます。
・スヴァヤンヴァラ(婿選び大会)
パンチャーラ王国に到着し、大会が開催されるカーンピリャという街に辿り着いた一行は大会が開かれるまで、とある陶芸家の家に泊めてもらうことになりました。
街は絶世の美女であるドラウパディーのスヴァヤンヴァラ(婿選びの大会)が開催されるだけの事があってか、街の人は大会の準備に追われている人や、大会を楽しみにしている人がいたりと街中がお祭りのように賑わっておりました。
そんな中、パーンダヴァ達が施し物を貰いながら街の様子を見回っていると、「本当にアルジュナは来るのかな?」「もし本当に生きるなら見てみたいなー!」とドゥルパダ王がパーンダヴァが生きていると信じているという噂は街中で持ちきりでした。
スヴァヤンヴァラが近づくにつれて、続々と近隣諸国から王族がカーンピリャに集まり始めてきました。王族の一団の中にクル一族の姿も見え、ドゥリーヨダナとその兄弟達だけではなく、友人のカルナとアシュヴァッターマンも一緒に来ていました。
さらにヤーダヴァ一族2の流れをくむボージャ家、ヴリシニ家、アンダカ家も参加し、その族長であるバララーマとクリシュナ、その従弟達も来ていたりと、全世界から名だたる王族や戦士達が招かれていました。
そして大会当日。会場は力自慢で勇猛な王子達が会場を埋め尽くし、見物としてやってきた観衆も多数押し寄せました。
更に天界の住民も集まって空から観戦したりと、それほどまでにこの大会の注目度の高さが伺えました。
パーンダヴァ達もブラフマン用の席に座り、バラバラに散って大会の様子を見守ります。
そして大会は開幕し、ドラウパディーは兄・ドゥリシュタデュムナに手を引かれて現れました。
彼女のあまりの美しさに会場全体が息を呑みます。
神聖なマントラが唱えられ、会場全体が沈黙に包まれる中、ドゥリシュタデュムナが高らかに大会の宣言を上げます。
「これより、我が妹ドラウパディーのスヴァヤンヴァラを開催する!」
「ここに弓と5本の矢がある。5本以内にこの矢を天井に取り付けられた的に見事的中させる事ができれば、ドラウパディーの結婚相手と認めよう!」
「さぁ、腕に自身がある英雄達よ。我こそはドラウパディーの相手に相応しいと思う者は前に出るが良い!」
とうとうスヴァヤンヴァラが始まり、我先にと王子達は一人ずつ弓を手に取っていきました。
ですが、弓は鉄鋼製で出来た巨大な弓であった為、その重量はとてつもなく重く作られており、力自慢のクシャトリアでも持ち上げるのは容易ではありません。例え持ち上げる事に成功しても、弦も鋼で出来ている上に固く張られている為、弓を引くことすら困難でした。
更にそれだけではなく、木彫りで掘られた魚の的はゴマの様に小さく高い天井に吊るされている為、射手との距離は相当ありました。その上的は激しく回転している事もあって、弓を引けても回転している小さな的に当てる事は至難の業した。
何故、ドゥルパダはここまで厳しい条件を設けたのか。
ドゥルパダは生きているであろうアルジュナを来ることを信じ、何がなんでも彼を婿に迎え入れたかった為、世界一の弓の達人であるアルジュナにしか出来ない絶望的な試練を用意したのです。
この厳しい試練に殆どの者が弓を引くことが出来ず、失敗してトボトボと自分の席に帰っていく王子達が後を立ちません。
ドゥリーヨダナも爽快に挑戦していきましたが、的を外してしまいます。
王子達が参加する中、ヤーダヴァ一族は参加せず観客として観戦していました。クリシュナがあちこちキョロキョロ見渡していると、ブラフマン用の席にいるとある人物達が目に留まります。
その者たちがパーンダヴァであると正体に気づいたクリシュナはクスクスと笑い出し、隣りに座っている兄のバララーマに伝えます。
彼らが生きている事、ここにいるヤーダヴァの者たちと争わなくて済むとクリシュナは笑って安堵しました。
的当て競技は続いていきますが、次々と挑戦者が現れては失敗して帰っていくの繰り返しで中々的に当てる者が現れず、観客が期待を失い始めていきます。
そんな中、遂にカルナが立ち上がります。
アルジュナ亡き今。あのバールカヴァの弟子であり、アルジュナと同等かそれ以上の腕前を持つとされるカルナこそが『世界一の弓使い』であると呼ばれ始めていました。
観客は「彼ならあの的を当てることができるんじゃないか?」と失い始めていた期待が戻り始め、カルナがステージに上がると会場中の観客のボルテージが更に高まります。
カルナが弓を引いたとき、彼のあまりの素晴らしい姿にクリシュナは息を呑みます。
そしてその姿は観客にも伝わり、先程まで沸き立っていた会場は一気にシンっと静まります。
「彼なら必ず成功する」
会場にいる全員がそう確信させるほどでした。
会場が静まり返り、観客が固唾を飲んで見守る中、カルナの手から弓が放たれました。
観客の目は小さな的に吸い寄せられます。ですが、髪の毛一本分だけ的を逃してしまいます。
「カルナですら当てられないというなら、一体誰があの的を当てることができるのだというんだ」
カルナが失敗してしまった今、そんな複雑な空気感と動揺が会場中に漂わせています。
(翻訳本によっては、弓を持ち上げて弦を引いたところでドラウパディーが「御者の息子との結婚なんて嫌だ!」と身分を理由に拒絶されて挑戦させてもらえなかった、という話もあります)
(いくら身分制度の厳しい時代とは言え、流石にあんまりである)
そんな時、一人のブラフマン席から一人の男がスッと立ち上がりました。
突然現れたその男は、泥だらけの貧相な服を着ているにも関わらず、どこか気品さと高貴な輝きを漂わせており、その男から放たれるオーラに、会場にいる全ての人が若きブラフマンに釘付けになります。
その男こそ、ブラフマンに変装したアルジュナでした。
アルジュナが出てきたことにより、クリシュナは「とうとうドラウパディーとの結婚を勝ち取るものが現れたぞ!」と見守りつつ、内心の興奮を抑えられません。
その興奮はクリシュナだけではありません。他の兄弟達もアルジュナを見守っています。
アルジュナはステージに近づき、ドゥリシュタデュムナに質問を投げかけました。
「ここにいるクシャトリヤはあの的を落とせないようです。ブラフマンでも挑戦することはできますか?」
ドゥリシュタデュムナは若干戸惑いつつも大きく頷き、面白半分、軽蔑半分の眼差しでホール全体に向けて話します。
「ブラフマンが参加してはならない、というルールは設けていない!」
「もちろんブラフマンだけでなく、ヴァイシャやシュードラであっても自由に参加することは可能だ!」
「ルールは先ほど言った通り、この弓矢を使って5本以内に的に当てるだけだ。もしお前があの的を射抜いたら私の妹を嫁にやろう!男に二言はない、約束する」
それを聞いたアルジュナは唇に微かな笑みを浮かべてステージへと上がります。
王族達は「クシャトリアですら無理だったのに、貧相なブラフマンにできるわけがない」と嘲笑します。
ですが、数々の王子達が苦労して持ち上げていた巨大な鉄鋼製の弓を軽々と持ち上げ、固く張られている鋼の弦をいとも簡単に引き絞った事により、その評価は一気に覆りました。
会場は水を打ったように静まり返る中、アルジュナは5本の矢を1本、2本と立て続けに次々と放ちます。
そして矢は見事に回転する魚型の的を貫き、的は撃ち抜かれた衝撃で激しい音を立てて床に落ちます。
その瞬間、会場は割れんばかりの歓声が上がります。
これまで、どのクシャトリヤにも成しえる事が出来なかった偉業の成功に、観客はこの興奮と歓声を名も知らぬブラフマンに送りました。
ドゥリシュタデュムナも興奮を隠さず、ブラフマンに賞賛の言葉を惜しみなくあげます。
「私は今、驚きを隠せない。だがこれは本当に起こったことだ!誰にも成しえなかった偉業を、彼は遂にやり遂げたのだ!」
「今ここに、我がパンチャーラ王国の姫であり、妹に相応しい相手が現れた!彼こそがドラウパディーの婿だ!」
ドゥリシュタデュムナはそのブラフマンがどんな人物なのかと顔を確認しようと近づきます。すると彼をよく見るとそのブラフマンの体はよく鍛えられた引き締まった体をしており、高貴な顔立ちをしていました。
ドゥリシュタデュムナは彼の手を取り、観客に見えるように彼を立たせます。そしてドラウパディーはそのブラフマンに近寄って、花輪を首にかけました。アルジュナはドラウパディーの手を取り、ステージを降りました。
ドゥルパダはそのブラフマンが若者でとてもハンサムで高貴であるのを見てとても喜びました。
ところが突如、王族席から嵐のような大きなブーイングが起きます。
しばらく呆気に取られていたものの、名も知らぬ若きブラフマンにスヴァヤンヴァラに敗れたという事実を受け止め始めた事で、自分達の面目が潰された挙句、クシャトリアとしての誇りを傷つけられたと参加していた王族達が腹を立て始めたのです。
そして「これは王族への侮辱だ!」と、怒りの矛先は大会の主催者であるドゥルパダに向けられました。
(自分達の手柄が取られたからってそんな怒んなくても・・・あまりにも大人げがない)
ドゥルパダは他の王たちの想定外の怒りと興奮で治まりがつかなくなってきた会場の雰囲気に恐れおののき、原因となった若きブラフマンを見やります。するとブラフマンは焦った様子もなく、まるでドゥルパダを安心させるかのように微笑みを浮かべ、ドゥルパダを守るように前に立ちます。
「安心してくださいドゥルパダ王よ、彼らの相手は私が致します」
収拾がつかなくなった会場の雰囲気を敏感に察知したビーマも、武器の代わりに近くにあった木を根こそぎ引っこ抜いてアルジュナの隣に並び、ドゥルパダを守るように前に立ちます。
それに続いてユディシュティラとナクラ、サハデーヴァもまるで示し合わせたかのように加わり、更に壁となるようにアルジュナ達の前に立ちました。
そしてパーンダヴァ五兄弟と会場中の王族達との戦いが始まりました。
ビーマにはシャルヤが、双子の片割れのナクラにはシャクニ、そしてユディシュティラの前に立ちふさがったのはなんとドゥリーヨダナでした。
ドゥリーヨダナを含めた王子達は戦い方を知らないブラフマン相手に自分達は負けるはずがないと誰もが思っていました。
クリシュナはパーンダヴァ達の協力はせず、その姿を眺めているだけでした。
それもそのはずです。彼らは今ブラフマンの格好をしていますが、その正体は当代最高の武道の師によって鍛えられた神の血を引くクシャトリヤなのですから。
彼らがそこらの者たちに負けるはずがないと確信し、心配することなどお門違いだと彼らの戦いを静観していました。
ですがクリシュナ以外にもこの中で一人だけ、彼らの実力を正しく理解していた人物がいました。
それはカルナです。
先ほどのアルジュナの弓捌きを見て、只者ではないと感じとったカルナはアルジュナの元へ向かい、矢の撃ち合いを始めました。
カルナは自身と互角に戦える名も知らぬブラフマンの腕前に驚愕し、悔しがるどころか喜びを見せます。
矢を撃ち合いながらカルナはブラフマンに名乗りを上げます。
「我が名はカルナ!アンガ国の君主であり、バールカヴァの弟子である!」
「若きブラフマンよ、貴方のその腕前に感心致します。私とこうして互角に打ち合える者など過去に一人だけでした」
「ですが、その者はもういません。だが、貴方の腕前を見ているとかつて私と互角に撃ちあった者を彷彿とさせる」
「偉大なバールカヴァか?いや、その強き逞しさはインドラ神を思わせる・・・それともヴィシュヌ神か?もしかしたらそのいずれかの者に違いありません・・・貴方は一体何者か!」
カルナの言葉にアルジュナは思わず嬉しくなりました。
「カルナよ、貴方の賞賛の言葉と貴方のような強者と戦えた事に感謝します」
「ですが、私は貴方の師匠である偉大なバールカヴァではありません。ヴィシュヌ神でも、インドラ神でもありません。とあるブラフマンに弓矢を習っただけの名もなきただのブラフマンに過ぎません」
「さぁ、決着はついていません。戦いを続けましょう!」
そう言ってアルジュナは即座に弓を引きました。放たれた矢は真っすぐと向かいカルナの弓の弦を切ったのです。
自身の弓に目を落とすと、アルジュナの腕前に素直に感嘆し、「私の負けです」と言い残して大人しく引き下がりました。
カルナとアルジュナの戦いは終わったものの、他では戦いが続いていました。
ビーマはシャルヤを圧倒し、勝利しました。半殺しのような状態でしたが、それ以上の追撃をすることなく彼をあっさりと逃がしました。
シャルヤを逃がしたのは、彼がパーンドゥの第2夫人だったマードゥリーの兄にあたる人物で、双子のナクラとサハデーヴァにとっては叔父に当たる存在だったからです。
ビーマは双子のことを思い、最後の最後で手加減をしてシャルヤを逃がしたのです。
一方、ユディシュティラとドゥリーヨダナの戦いは白熱していました。
ユディシュティラは鋭い矢でドゥリーヨダナの傷を負わせていき、ドゥリーヨダナも負けじと食らいつくも、普段の温和な雰囲気を纏っているユディシュティラから感じられない程に怒りを滲ませ、険しい顔つきでドゥリーヨダナに容赦なく攻撃を浴びせ続け、どんどんドゥリーヨダナを追い詰めていきます。
兄の初めて見る険しい顔つきと彼から発せられる怒りのオーラに、アルジュナやビーマでさえも目を見張り驚きを隠すことが出来ません。
ユディシュティラはドゥリーヨダナを目の前にした瞬間、あの日、自分たちに突然降りかかった災難である蠟の宮殿での出来事が蘇ってくるのです。
彼さえいなければ今頃、母も弟たちもこんな苦労な思いをしなくてすんだはずだったのに・・・!
その原因である目の前にいるドゥリーヨダナを見る度に、そんな思いがユディシュティラの中で怒りとなって次々とこみ上げていき、抑えることが出来ないのです。
そしてあわやドゥリーヨダナが討たれる!という寸前のところで、ドゥルパダの大掛かりな軍隊が到着し、これにてようやく王子たちの抗争は静まりました。
熱気は治まったものの、カルナを伴うクル族の軍勢が名も知らぬブラフマンに負かされたのを見ていた他の王族たちは、一体どうすればいいのか・・・と決断を下せずにいました。
そんな動揺と混乱が広がっている空気の中、クリシュナが前に出て王族全員に問いかけます。
「ここにいるブラフマンは挑戦する前に『ブラフマンでも参加できますか?』と問いました。それに対して、この大会を取り仕切るドゥリシュタデュムナは『参加できる』と了承しました。その時、貴方達はドゥリシュタデュムナの言葉に誰も反対しなかったではありませんか」
「そしてこの若きブラフマンは約束通り、的を撃ち落としてドラウパディーを手に入れました。ドゥリシュタデュムナが提示した正しい方法でです」
「にも関わらず、貴方達は『汚らわしいブラフマンだから相応しくない』と言う勝手な理由で、ドゥルパダ王に言い掛かりをつけた挙句、一方的に押しかけて戦いを始めました」
「それも『あのブラフマンよりも自分達の方が優れている』という事を証明する為、という何ともクシャトリアに相応しくない身勝手で恥ずべき理由で戦いを始めたのです」
「そんな理由で戦うなど、誇り高きクシャトリヤであり高貴な生まれの王である貴方達に相応しくありません。これ以上戦って何の意味があるのですか?」
クリシュナは優しく穏やかでありながらも冷たさも含んだ厳しい声で、王たちを諭しました。
その言葉を聞いた王子達は先ほどの自分達の行動を恥じるように俯き、そして見知らぬブラフマン達に勝てないことが分かった為、クリシュナの忠告を受け入れました。
これにてスヴァヤンヴァラは何とか無事に閉幕し、アルジュナは晴れてドラウパディーを手に入れることが出来ました。
・お嫁さん、ゲットだぜ!
さて、これにてお嫁さんを手に入れたアルジュナ。しかし、ここから大変なことが起きます。
大会に見事優勝し、兄弟達は興奮冷めやらぬままドラウパディーを連れて身を寄せている陶芸家の家に帰り、母親に報告します。
「母さん、ビクシャー3を持ってきました!」
この時のアルジュナの言い方が悪かったのか、それともクンティーがちゃんと確認しなかったのが悪かったのか、そのビクシャーがまさかお嫁さんだと思っていなかったのかクンティーは兄弟たちに「あらそうなの、ならいつものように5人で仲良く分けなさいね」と言ってしまったのです。
いつも施し物を貰っては仲良く分け合ってきた5人でしたが、クンティーのこの言葉に「え?分けるの?」「どうしよう・・・」と戸惑ってしまいます。
黙ってしまった兄弟たちに、玄関の外が異様な空気感に覆われているのを感じ取ったクンティーはどうしたのだろうと外に出てくると、あらビックリ!そこには何とも可愛らしい絶世の美女が立っているではないですか!
この人は一体どうしたの!?と聞く母親に、ユディシュティラは気まずそうに重い口を開けます。
「あの・・・先程言ったビクシャーなのですが・・・彼女がそのビクシャーなのです・・・」
さて、ビクシャーがその大会で手に入れたお嫁さんだと知って大慌て。
とりあえず、彼女をこのまま外で待たせたままなのは失礼だと思い、部屋に案内します。
クンティーは恐る恐るユディシュティラに近づきます。
「私は今まで一度も噓をついた事がなかったのに、ダルマに背くような事を言ってしまったわ・・・」
「よく確認もせずにいつもの調子で貴方達に『5人で分けなさい』なんて言って・・・五人同時に結婚するなんて無理に決まっているわ!あぁ、私は一体どうなってしまうのでしょう」と嘆きます。
そんな母の様子を見て、ユディシュティラはクンティーを宥めます。
取りあえずスヴァヤンヴァラでドラウパディーを勝ち取ったのはアルジュナなので、ユディシュティラは「アルジュナよ、貴方が勝ち取ったのですから貴方が彼女と結婚しなさい」と言います。
ですが、真面目なアルジュナは「いえ、長男であるユディシュティラ兄さんより早く結婚することはできません!兄さんが彼女と結婚して下さい」と互いに譲りません。
(次男のビーマはユディシュティラよりも先に結婚したような気もしますが・・・)
こんな感じで、考えは一向に纏まらず話し合いは平行線を辿っていき、最終的に「どんな結果にもなっていいから、長男であるユディシュティラ兄さんが決めて!」と決定権をユディシュティラが委ねることになります。
(丸投げとも言える。長男ってツライね!)
ユディシュティラは熟考した末、クンティーは自分達のグルでもあり、彼女の言葉以上に神聖な者はない事。
そして自分だけでなく、他の兄弟達もドラウパディーに心を奪われており、彼女に魅了されていた為「彼女を5人の共通の花嫁にしよう!」と決断を下したのでした。
このおかげで母親の言った事は噓をついた事にならず、彼女のダルマを守る事に繋がり、クンティーも一安心します。
(だとしても発想がぶっ飛んでる・・・)
今回はここまで!
前編・後編と長く続きましたが、これにて無事にお嫁さんを手に入れることが出来たアルジュナ(と他の兄弟達)。
次回、結婚報告を義父となるドゥルパダに報告する事になるのですが、はてさて兄弟5人と結婚する事に納得してくれるかどうか・・・。
それでは次回まで( ・ω・)/~~~~
※脚注
- インド神話においてインドラ神に仕える半神半獣の奏楽神団。天上世界で音楽を奏でる音楽家で、神々の居る宮殿で美しい音楽を奏でる責任を負っています。仏教では乾闥婆(けんだつば)という名で天龍八部衆の一柱として取り入られ、帝釈天の眷族の音楽神とされています。 ↩︎
- 古代のインド神話や歴史に登場する伝説の部族です。神話上では月神系の王「ヤドゥ」の子孫とされる一族です。歴史上では12~14世紀初頭にかけて『ヤーダヴァ朝』というインドのデカン地方(現在のマハーラーシュトラ州を中心に)にあったヒンドゥー教の王国で地域の強国として栄えました。 ↩︎
- サンスクリット語で主に「乞食(こつじき・托鉢)」や「施し(お布施)」を意味する言葉です。 ↩︎
※参考
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%91%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC
https://ameblo.jp/indiastory-chieka/theme-10104959642.html
https://note.com/shantilifehiro/m/mf49ce1d60851
https://blog.yoga-kailas.com/%e3%80%8c%e3%83%91%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%83%89%e3%82%a5%e5%85%84%e5%bc%9f%e3%81%ae%e7%b5%90%e5%a9%9a%e3%80%8d/
