この世の華やかさをできる限り詰め込んだようなこの庭園の彩りは敷地内の非現実さを一際引き立たせている。
この地に本来根付かない品種の花、極めて限定された環境でしか生育しない苗が様々に育っていてその様子は神話の中にしか存在しないような幻惑じみた景色を形成していた。
この屋敷の主に直々に招待されたときには何事かと思いかなり肝を冷やしたが、実際に現地に来てからの丁重な扱いを受けて少しは和んだモノだ。
しかしわざわざ自分のテリトリーに呼びつけたからには少々どころではない面倒ごとに巻き込まれるのは避けられないだろうな。
私は確信的悲観予測を抱えながらも主の到着を静かに待つことにする。
落ち着かないほどの静けさに堪えられなくなって庭園の中を散策してみようと席を立ったその時、その人は現れた。
あまりにもにこやかな表情で笑いかけてきた彼女は私の表情が固いのを見て不満げな空気を漂わせる。
整った容姿に印象的な紫と蒼のオッドアイ…私を咎めるその視線に対して何も気の利いた言い訳が出てくれない。
それでも視線を外すことができずにいる。
彼女から意識を外すことが致命的事態を誘発すると私の本能が警告していた。
石像のごとく佇む私に対して彼女はそれ以上警告や不満を示すこともなく私の向かい側に座り、着席を促してくる。
渋々ながらそれに従うと改めて彼女は挨拶代わりの微笑で世間話から始めてきた。
彼女の真意を測りかねてひきつった笑いで対応しつつ、間合いと空気感を作っていく。
まずはまともな意思疎通ができる状況に持っていかないとろくなことにならない。
彼女がこれまでにどれほどの鉄砲玉案件を他人に強制してきたか関係者の中で知らぬ者はいない。
足場と前提条件のすり合わせを丁重に慎重に進める中で彼女はかつてのパートナーとの日々について語りだす。
少しは穏健な流れになるのか?
体よく昔話に付き合っていればそれほど危険な方向の話にはなるまい…今日は何も背負わずに帰ってみせるぞ。
そんな気合を入れて臨んだ話し相手の時間。
彼女はそんな私の緩んだ怠慢さを見逃さず、今回の本題を切り出した。
一枚の古びた思い出の写真…私と彼女が歩んできたかけがえのない記憶。
それを私に見せた時の彼女の表情で私は今回の面倒ごとを察してしまった。
その瞬間の衝撃をしっかりと見ていた彼女は満足そうに微笑み、ひとことの言伝を済ました。
私は自分の人生の羅針盤の針が接着剤で固定されたのを認めるしかなく、乾いた笑いで応じるしかなかった。
「それでウチのリーダーは旧知の仲とはいえマダム・マーキュリーの”お願い”を持ってすごすごと帰ってきたの?まさかそれで自分だけ雲隠れってわけではないよね。」
望海は半ば呆れたような様子で伝達された内容を持ってきた同僚に説明を促した。
同僚の彼はなんともいえない感じで肩を竦め顔を横に振る。
まさかの事態が真面目に起きているようだ。
コミュニティとしても日頃から融通を利かせてもらっている周辺一帯の顔役であるマダムの依頼を無下にすることはできない。
それが自分の身の丈に合わない不都合と事を構えることになる案件だとしてもだ。
望海はやれやれという言葉が空気に印刷されそうな程の落胆の為の溜息を吐き出し、一回思考を整理する。
今回の相手はウチのリーダーでさえ直接関わることを避けるようなかなり格上の異能者を相手取ることになる。
これはバカ正直に喧嘩していうことを聞かせればいいというような簡単な荒事では済まないか。
望海は不本意ながらも日頃温めておいた切り札を何枚か切ることを覚悟する。
その目に宿った意思の光は誰にも侵されない強さを周りに示していた。
