サラミさんぽ。~競馬場~

アタシはサラミ。元ネコのネコ耳少女?らしい。何の因果か因縁か、ヒトの身体になってどんな場所でも自由に歩けるようになったんだ。でも何故か耳だけネコのままで大変だよ。ヒトの目につく場所では、帽子を被らないといけないからな〜。

でも、耳がネコのままなおかげで、ヒト以外の動物の言葉もわかるし、気付かれずに行動できる。友達のみるが言ってた「おんみつ(隠密)」ってモンみたいなやつらしい。アタシはこれが何でも気にしない。便利なモンは使わなきゃ損だもんな。

そんな訳で今日もてくてく歩いている。行き先は特に無い。目に付いた場所に行くだけ。

…ん?あっちに見えるのは…原っぱ?にしては随分ふっかふかな草だなー。

寝てみよう。・・・・・。

「おーい、何寝てんだ?ここは遊び場じゃねーぞ?ま、気持ちはわかるけどな。」

うにゃお!!…いや、寝てない!寝てないから!!

「って…馬?でかい馬だなー。」

「お前、本当にニンゲンか!?オレサマの言葉がわかるのかよ!?」

「あー、アタシ元ネコなんだ。名前はサラミ。アンタは?」

「なんだ、ネコかよ。オレサマは「ブンシ」だ!よろしくな!」

「…ヘンな名前。」

「うるせえ!オヤジの4番目の子供だからブンシなんだよ!」

「ちなみにそのオヤジさんの名前は?」

「…チョーハヤブンタ。」

「何だその名前!?」

「うっせぇ!競馬の馬名なんてだいたいこうなんだよ!オヤジなんてGIを7勝したんだ!」

「ケイバ??ジーワン??」

「そうだよ。ここは競馬場のコースの芝の上。オレサマは競走馬。どの馬が一番速いかを競う場所だ。ニンゲンは誰が速いか金をかけているっぽいけどな。」

ブンシという白い毛並みの馬は、アタシを背中に乗せてカッポカッポと芝が無い場所まで連れて行ってくれた。

「もうすぐレースが始まるから見てみな。面白いぞ!!みんな、はえーヤツばっかりなんだぜ。」

そう言ってブンシはヒトの所へ行ってしまったので、アタシはブンシの勧め通りに、ヒトが馬のレースを見る場所に潜り込んでみた。ザワザワしているが、みんな真剣にゲート?とやらに入っていく馬を見ている。すんなり入る馬もいれば、中々入らず駄々っ子みたいに嫌がる馬もいる。当たり前だが、まったく同じ性格の動物なんて多分いない。アリでさえ単独行動するヤツもいるくらいだからな。

そして、ゲートが開いて一斉に馬達が走り出す。出遅れた馬もいたけど。

すごい音だ。みんな脚力がハンパじゃない。ヒトを乗せて、地面をえぐるような蹴りで走っている。…アレに蹴られたり、踏まれたりしたら、たまったもんじゃないな。

ヒトもヒトで、よくあんな速さの馬に乗ってられると思う。よっぽど訓練してないと振り落とされて地面に激突、大怪我…に加えて馬に踏まれたら……うん、考えるのはやめよう。

第4コーナーカーブ、その先の直線でレースは動いた。ヒトも動いた。みんな馬の名前を叫んでいる。あれだけ一列で並んでいた馬達が、更にスピードをあげてきた。後ろにいた馬がどんどん前に行く中、先頭も必死に逃げる。

・・・逃げるのか?追い越せるのか?

もうアタシの目はレースに釘付けになっていた。

『逃げ切ってゴール!!勝ったのは7番、スカイラク!見事な逃げ切りを見せました!!』

結果は、先頭が逃げ切り1番を取った。2番は追い越そうと最後にスパートをかけた馬。もう少し力があったら追い越せたかも知れない。

ヒトもレースの結果に一喜一憂している。金を賭けているからか、それだけじゃないのか。

ふーん、競馬って面白いな。スタートが前でも、最後にどんでん返しがあって予想が難しい。今日は快晴無風だけども、雨だったら?芝生が濡れていたら?そもそも芝生じゃなかったら?コレより短い距離だったら?ヒトは馬の言葉なんてわからない、だからヒトが走るより、機械が走るより、きっと予想ができない。

『さあ、今日ラストのレース!1番は、ブンシ!怪我からの復帰後5レース目!ここまで全敗のブンシですが、父親同様に勝利を掴んでほしいですね~。』

アタシは驚いてゲートを見た。10頭以上いる馬の中にいる1頭だけの白い毛並み。間違いなくアタシを案内してくれた、あの馬…ブンシだった。

ヒトはブンシに難色を示している。怪我をしてからの復帰レースに1度も勝ててないらしい。父親の走りを知るヒト達は「父親譲りにはならなかったか。」と言っている。

はぁ?ブンシはブンシであって、オヤジじゃねーだろ!それにブンシはレースを悪くは言ってなかった。面白いからって言っていた。

『さあ!スタートしました!1番ブンシは最後尾!前との距離は4馬身差でしょうか。』

わからない。レースは最後までわからない、それが競馬のはずだ。

アタシは身を乗り出して、最後のカーブに入る馬群を見た。ブンシは後ろだ。

「何だよブンシ!!競馬は面白いって言ったのはウソかよ!!馬鹿!シカでも走らせろ!」

「・・・・うっせえ!このアホネコォォォ!!!」

ヒトには聞こえない声で、ブンシの声が届いた。叫んでいるうちにブンシは馬群を外からゴボウ抜きして来たのだ。

「こいつっ!!…でも、それじゃあスタミナ切れになるだろ!」

「はぁ?やっっっかましいわ!!オレサマの脚はオヤジ譲りだけどなぁ……スタミナや力はオフクロ譲りだぁぁぁぁぁ!!!!」

一番前で逃げていた馬の声にもひるまず、そのスピードを更に上げて後方につき、並んできた。

「ついでにオフクロの末脚(すえあし)も、一級品だぜぇぇぇぇ!!」

抜いた。ブンシが先頭の馬を抜き、更に差をつけてゴールに飛び込んだ。

『1番はブンシ!!ついに芝のやんちゃ馬ブンシが帰って来ましたーー!!』

大歓声がブンシを包む。アタシは近寄るブンシに目をこすってから、顔を見せた。

「な?面白かったろ?」

「…ギリギリじゃん。焦らすな、馬鹿。」

「だから面白いんだよ、競馬って。見てろ?オヤジよりもすげータイトルホルダーになってやるからな!」

「アタシはそんなにヒマじゃない。」

ニカッと笑うブンシに、アタシは呆れ気味に言いながらも笑ってやる。

…それから数か月後、道を歩いていると一枚の新聞がひらりとアタシの前に飛ばされてきた。

そこには『GI5勝目!!ブンシ、父親を超える勢いの快勝!!』という見出しと共に、面白そうにゴールに駆けるブンシの写真が載っていた。あの日のレースと変わらない姿のブンシ。

記事の端っこには、ブンシのお気に入りと書かれた、白黒のシマ模様のシッポのネコのぬいぐるみと写るブンシの写真もあった。

「…競馬、誰か知ってるやつ、いないかな。」

今度会う時は、ちゃんと知識を付けてから行きたい。そう思った。

終わり。

※この話は作り話です。実際の競馬名や関係各位とは異なります。(ですが面白い名前の馬やレースがあるのは本当ですので、興味が沸いた方は調べてみてください。)

(補足…GI「ジーワン」とは、競馬の競走で最も格の高いもの。グレードⅠ・グループ1のこと。)

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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