零感霊能探偵は妖狐と共に 9

 三人はマンションの一室の前に立っていた、誠がチャイムを鳴らすと更にやつれた女が顔を出した。女は三人を見て顔を輝かせると、ドアを開き中へと招き入れた。たしかに家賃が安いわりに、結構広いように思えた。誠がぐるりと辺りを見回していると、女は不安そうな声を出す。何かありましたか? 何か見えるんですか? と怯えたように誠に何度も何度も質問してくる。誠は頭を振った後、二人へと視線を移した。

「二人はなんか感じる?」

 誠に視線を向けられ、二人は同じようにぐるりと辺りを見回した。一通り部屋を見てはみたものの、特に問題らしき問題は見当たらない。二人が頭を振ったのを見て、誠は不思議そうな顔をして、女を振り返る。女は半ば怒鳴るように、ほら、あそこにも、ここにも、たくさんいるじゃないですか! と部屋の様々な場所を指さした。

「落ち着いてください」

 誠が女の肩に手を置こうとすると、女は悲鳴を上げ誠から距離を取った。どこからどう見ても正常には見えない、誠は女を落ち着かせようと世間話を振ってみるが、ちぐはぐな答えばかりが返ってきて会話として成り立たないようなざまだ。

「誠さん、ちょっと」

 玉藻に手招きされ誠は女に話しかけるのをやめる、玉藻に近づくと玉藻は小さな声で誠に耳打ちした。信じられない気持ちで女を振り返るが、そういうこともあるかもしれない、と思い直し誠は女に近づくと心配そうな顔をする。

「失礼ですが、持病等、ありますか?」

 誠の口から病気という言葉が出ると、女は誠に詰め寄り怒鳴り声をあげる。アンタも私を病気だというのか、私はいかれてなんかない、ねぇ、アイちゃん、アイちゃんもそう思うよね? どこか虚ろな目を部屋中に向けながら、姿の見えない相手にひっきりなしに語りかけている。あまりの騒々しさに、チャイムが鳴らされた。暴れだした女を二人に任せて、誠が代わりに部屋のドアを開けると、どこか疲れた様子の老婆が顔を出した。

「なんだい? アンタ、うちの娘に何か用?」

 誠は女からとある依頼を受けてきたこと、女が突然暴れだしたことを説明した後、ふと娘、という言葉について老婆に尋ねた。娘は娘だね、と返すと、部屋の中から悲鳴が聞こえ、慌てた様子で二人は部屋の中へと入っていく。老婆は暴れる娘を見ると、すまないが、一旦アンタら出てってくれないか? と頭を下げた。三人は半ば部屋から追い出されるようにして、部屋から出ていく。三人が顔を見合わせていると、疲れた様子で老婆が出てきた。

「すまないね、うちの娘が迷惑かけて、依頼料は私が払っとくから」

 老婆は深々と頭を下げると、一度部屋を振り返った。

「そう、ですか。娘さん、大丈夫なんですか?」

 老婆は頭を振ってため息をついた。なんて依頼されたんだい? よかったら聞かせておくれ、誠は一度ためらったものの、老婆が女の母親だということもあって、ここに来た流れをあらかた話していく。老婆は話を聞き終えると、深く重いため息をついた。

「そうかい、悪いことをしたね。娘は見ての通り、心を病んじまってる。一人暮らしってのも、引っ越してきたってのも、全部あの子の妄想、いや、過去のことだ」

 老婆は未だに怒号と悲鳴が聞こえる部屋を振り返り、三人を見つめた後深々と頭を下げた。三人は頭を下げ返すと、トボトボと帰路につく。車中、重い空気があたりに漂い、一人も口を開くことはなかった。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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