零感霊能探偵は妖狐と共に 14

 四人は人気のない学校を見上げた、女が鍵を開けると恐る恐る二人は足を踏み入れる。おっかなびっくりといった様子の二人に、女がため息をついたのは言うまでもない。じゃあ私は仕事があるので、階段の場所はメモの通りです、と言い残すと足早に三人の前から姿を消した。三人は顔を見合わせると、持ってきた懐中電灯の光を辺りにはわせていく。

「しっかりしてくださいよ、いくら学校は初めてだからって」

 恐怖心にのまれている誠と梓の背中を、バシンと勢いよく玉藻がたたいた。ほぼ同時に小さな悲鳴を上げる二人を見て、玉藻が深く重いため息をついている。

「それにしても、なんで人気のない学校ってこうも怖いんだろう……」

 誠が辺りを懐中電灯で照らしながら、ゆっくりとした足取りで歩いていく。誠を先頭に梓と玉藻がそれにつれて歩くと、三人の足音だけが静かな校内に響いていった。しんと静まり返る校内も、普段は子供たちの声で賑やかなのだろうか、ところどころにある子供たちの面影が自然と二人を過去の思い出の中へといざなっていく。

「マコっちゃんはどんな子だったの?」

 梓が何の気なしに誠にたずねると、誠は暫く考え込んだ後、昔はよく泣いてた気がする、とポツリと呟いた。どこか気落ちした誠を見て、梓が話題を変えようと辺りを見回していると、さっきまでのどこかのんびりとした雰囲気が、重くなっていく事に気付いた。ふと誠がメモに目を落とすと、それにつられるように二人が、メモを覗き込む。すっと顔を上げた三人の目に、階段が目に入った。どうやら件の階段に辿り着いたようだ。

「これが例の」

 ごくりと誰かが喉を鳴らした、三人は顔を見合わせると、一段また一段と段数を数えながらゆっくりとした足取りで上っていく。十、十一、十二、そして、十三段目、三人は顔を見合わせた後十三段目に足をかけた。十三、ほぼ同時に四人が呟いた、三人はもう一人の誰かの声に振り返ると、黒い靄が三人を包み込んでいく。ふわりとした浮遊感と共に床の感触が消え、三人は空中に投げ出された。

「な、なんだ?! 梓ちゃん? タマちゃん?」

 何もない黒い空間の中に誠はいた。りん、りん、とどこからか鈴の音が聞こえてくる。誠は鈴の音を頼りに、恐る恐る歩き出した。次第に近づいてくる鈴の音にあわせ、ぼんやりとした明かりが奥の方に見える、ふらふらと明かりに誘われるように誠が歩き出したその時、誰かが誠の腕を掴んだ。ハッと我に返った誠が振り返ると、小さな少女が誠の腕を掴んでいる。少女は頭を横に振りながら、そっちにいっちゃだめ、と繰り返していた。

「君は? ここはどこ?」

 誠がたずねると、少女は誠の腕を離した。そして暫く歩いたあと、誠を振り返る。誠が暫く考え込んでいると、少女は満面の笑みで手招きしている。一度向こう岸に灯る明かりを振り返った後、少女に向き直り駆け出した。少女が歩き立ち止まり誠を振り返る、誠はそれを追いかけながら、辺りが次第に騒がしくなるのを感じた。悲しげな声、怒鳴り声、悲鳴、様々な負の感情が誠の耳をつんざく、どんどんと体が重くなっていく、耳から負の感情が雪崩込み心の中が絶望に満たされていく、確かにあったはずの地面がぐにゃりと歪んだ。誠は何かに足を取られ、ずぶずぶと沼へと引きずりこまれていく。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」

 もがくことすらやめた誠の腕を、少女がまた掴んだ。誠をずるりと沼から引きずりだすと、ニコニコと笑いながら誠を連れて少女は駆け出した。黒い空間を白い光が埋め尽くしていく、あまりの眩しさに目を閉じた誠が、再び目を開いたとき、あの学校へと帰ってきていた。三人はほとんど同時に目を覚ますと、呆然と階段を見上げた。

 これは依頼を終え、後に女から聞いた話だ。あの階段は昔から例の七不思議があり、ある日七不思議を確かめに行った、生徒数人がいた。その時、とある女子生徒が階段を踏み外し、亡くなってしまったらしい。女はその女子生徒の親友で、女子生徒が死んだことに酷く悲しんでいた。彼女に会いたい一心で、教員免許を取った女は、教師になってからも彼女に会いに、何度もあの階段に足を運んでいた。だが、噂通りにはいかず、女は彼女に会うことができなかった。三人が彼女に会えた、と知った時、女は泣いていた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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