零感霊能探偵は妖狐と共に 16

 三人はうっそうと茂る森を前に、互いに顔を見合わせていた。自殺者が絶えないといわれているそこは、出来れば来たくはなかったが、こうなってしまっては仕方ない、と三人は覚悟を決める。一見するとただの森にしか見えないが、時折森の奥から吹いてくる生ぬるい風が、まるで化け物の呼吸のように思えてしまった。

「じゃあ、行こうか」

 誠が二人を振り返ると、二人は顔を見合わせた後頷いた。ゆっくりとした足取りで誠を先頭にして、梓、玉藻の順で森の中へと入っていく。木漏れ日が遊歩道に落ちている、辺りを見回しても、ここが自殺の名所だとは思えないほど、どこかのどかな風景が広がっていた。拍子抜けした三人の口数が、次第に多くなっていくのは自然なことだろう。

「行方不明になった友人さんってほんとにいるの?」

 すっかり調子を戻した誠が、ニヤつきながら梓に聞くと、梓は気落ちした様子で頷いた。誠はハッとした顔をして、ポリポリと頭を掻く、玉藻は最後尾でやれやれと頭を振っている。さっきまでの明るさが、途端にどんよりとしだした。

「まぁ、本当に森に来てるかどうか、なんて僕らにはわからないんだし気にしすぎないでね」

 数日前に大学に来なくなった、連絡が取れなくなった、からと言って行方不明というのも少しおかしい気がした。誠はどこか楽観的に考えていた、それは梓の話を聞いた玉藻もまた同じだ。大学を休むような人じゃない、連絡もこまめに返す、とはいえ、本人には本人にしかわからない理由があるだろう、梓は霊感が強いし自分たちの仕事を手伝っているから、直ぐにそういう事柄と結びつけてしまうのかもしれない、そう二人が反省していると梓が小さく声を上げた。慌てた様子で遊歩道から離れていく、二人が梓の背中を追うと、どんどん森の奥へと入っていった。

「ちょ、ちょっと梓ちゃん! どこ行くの!?」

 黙り込んだまま進んでいく梓の腕を誠が掴んだ。振り返った梓の顔を見て、誠は思わずその腕を離してしまう。漸く二人に追いついた玉藻が、そんな誠を見て怒鳴り声をあげた。

「いや、だって、なんか梓ちゃんじゃないみたいで」

 誠はついさっきの梓の顔を思い出していた。どこか虚ろな表情で生気がないように見えるのに、眼だけがぎらぎらと怒りで燃えていた。普段の梓からは想像もつかないようなその表情に、誠が気圧されてしまうのも無理はないだろう。

「呼ばれてるのかもしれませんね」

 二人は梓の背中を追いかけながら、不安げに視線を交差させた。やがて一本の木の前で梓が立ち止まる、二人は顔を見合わせるとすっとその木を見上げた。今でこそ何も見当たらないが、きっとここで誰かが亡くなっているのは、梓の様子からして分かっていた。

「梓ちゃん、もう帰ろう」

 誠が梓の肩を叩こうとしたが、ふっとその場から梓の姿が消えてしまう。二人が顔を見合わせていると、遊歩道の方から悲鳴が聞こえた。慌てて二人が踵を返す、息を切らした二人が辿り着くと、梓が死霊の群れに足を取られ、遊歩道の柵に必死で掴まっていた。

「どこ行ってたの?!」

 二人は顔を見合わせた後、梓の両腕をそれぞれ掴んだ。何十という死霊の群れが、ずるずると三人を引きずり出す、玉藻が何か呟くと死霊に向かって狐火が、マシンガンの弾丸のように撃ちぬいていく。

「数が多すぎますって!」

 次々に狐火を放つ玉藻だったが、いくら死霊を蹴散らしても、次々にわいてくる。段々と三人の指の感覚がなくなってきた、どんどん森の奥へと近づいてきている。何かの気配をおぼえ誠が振り返ると、何十という白い手が死霊に向かって伸びていった。

 死霊の群れが白い手によって引き裂かれ遂に梓の足を離れる、三人はゴロゴロと遊歩道を転がり、ただ茫然と白い手が死霊に群がる様子を眺めた。死霊が全てかき消えると、白い手の一本一本が人の形へと変わり、見覚えのある姿になっていく。

「もしかして、今までの……」

 どこか見覚えのある霊たちは、三人を見つめた後すぅっと空へと消えていく。後に残された三人は、木漏れ日の落ちる遊歩道をただぼうっと眺めていた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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