零感霊能探偵は妖狐と共に 17

 森から出る時にはすっかり日が落ちていた、暫く車を走らせ近くの旅館に泊まることにする。疲れ果てていた三人は、畳に横になってぐったりとしていた。

「梓ちゃん、いつから一人でいたの?」

 誠が梓に向き直りながらたずねると、遊歩道を外れた場所に自分の後ろ姿を見つけ、驚いていたところ二人が慌てた様子で森の中へと入っていったらしい。二人を追うべきかどうか考えていると、死霊に足を掴まれてしまった、とのことだった。

「あの時か……、まさかタマちゃんが化かされるなんてね」

 梓に向けていた視線を玉藻へと移すと、そもそも貴方の家系が私を封印しなければ、とブツブツと呟きだした。二人が顔を見合わせていると、旅館の仲居が部屋の準備ができた、と三人に声をかける。梓はブツブツと呟く玉藻の背中を押して、じゃあまた明日、と部屋を出ていった。部屋に一人残された誠は、敷かれていた布団にもぐりこんだ。

「霊感、出てきたのかな」

 小さな頃あんなに望んでいたことなのに、いざそうなってしまうと煩わしくて仕方ない。世の中には知らなければいいことがあるというが、心霊関連の出来事はまさにそれのように思えた。まぁ、いちいち考えても仕方ないか、と頭の中で結論付けた誠は欠伸を一つすると、次第に迫りくる睡魔に身をゆだねる。

「霊感も、霊力も、いらないのになぁ」

 誠がポツリと呟いた言葉が、静かな部屋に響いていった。

 誠は小さく身震いすると、眠い瞼を押し開く。まだ春先の暖かい時期だというのに、部屋の中は何故か冷え切っていた。ぐるりと誠が辺りを見回していると、小さな少年が自分を見てニコニコと笑っている。少年は古ぼけた着物を着ていて、一目見て普通の子供とは違うのを、誠は察した。

「どうして君はここにいるの?」

 誠は布団からはい出し少年の前に屈むと、少年は少し驚いたように目を見開き、それはそれは嬉しそうににっこりと笑った。霊、いや、妖怪の類だろうか、部屋の寒さはきっとこの少年のせいだろう、と誠は結論付けると暫く考え込んだ。

「お兄さん、ぼくのこと見えるんだね!」

 誠が考え込んでいると、少年が誠に話しかけてくる。誠は、考えるのをやめると、はぁと小さなため息をついて少年を見つめた。少年は相変わらず嬉しそうにしている、すぅっと戸が開く音がして、少年と同じように古ぼけた着物を着た少女が、ひょっこりと顔を出した。

「あ、お姉ちゃん、このお兄さんぼくらが見えるみたいだよ!」

 少女は少年に近づきちらっと誠を一瞥する、誠は二人を見比べると頭を掻いた。困った、この様子じゃ暫くは眠れなさそうだ、誠ががっくりと肩を落としていると、少女がずいっと誠に詰め寄った。

「な、何かな?」

 少女の気迫に小さく後ろにのけぞる誠に、少女がふんと鼻を鳴らして少年の手を取った。少年は少女の手を振り払うと、隠れるようにして誠の後ろに回り込んだ。少女はその姿に驚き目を見開くと、寂しそうな顔をして少年を見つめている。

「ここももう飽きちゃった、ぼく、このお兄さんについてく!」

 少年がそういうと少女がギロリと誠を睨んだ、誠は少年と少女を見比べて戸惑ったように笑っている。少女は暫く少年と誠を見比べると、はぁと深く重いため息をついて、開いていた戸から部屋の外へ出ていった。誠と少年だけが部屋に取り残される。

「ってことで、これからよろしくね!」

 にっこりと笑う少年を見て、誠もまた深く重いため息をついた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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