アナタの忘れ物は夢ですか? 23

 ゲーセンフロアに着くと、一緒に回るかどうか聞いてみる。幸は辺りを見回した後、一緒に回ろう? とどこか不安げに俺を見た。俺が頷くと、どこかホッとしている。

「とりあえず、一回ガンシューティングゲーム挟んでから、最後にクレーンゲームだな」

 一番始めにクレーンゲームじゃないの? と不思議そうな顔をする幸に、クレーンゲームは募金箱だから、と謎の返しをする。さすがと言うか、なんと言うか、幸にはそれだけで伝わったみたいだった。少し奥まった所にあるガンゲームエリアに辿り着くと、乗り込むタイプじゃなくよくあるタイプのシューティングゲームを選んだ。

「左は任せた」

 う、うん、と不安そうな返しに思わず苦笑しながら、画面の中のゾンビを次々に倒していく。なるべく回復薬は幸に回していたせいか、一番最初にやられたのは俺の方だった。一番最初のボスにやられた俺は、慌てふためく幸を暫く見た後、復活時間ギリギリに復活する。ボスが飛ばしてくる瓦礫やナイフやらを撃ち落とし、雑魚を倒しながらなんとかボスを撃破した。リザルト画面に出てきた俺と幸のスコアは結構散々だ。一人四回ずつ復活し、ラスボスまで辿り着いたあと、早々にラスボスにやられ、一旦休憩することにした。

「私も酷かったけど、君もまぁまぁ酷かったね」

 ゲーセンの休憩スペースで、突然そんなことを言われた。久々だからな、お前も知ってるだろ? と苦笑しながら返すと、初めての私と同レベルはまずいよ、とニヤニヤしながら言ってくる。乗り込むタイプじゃないのは、人目に付くから中々やりづらいのは確かなんだから、そこまでキツい言い方しなくてもいいんじゃないか? とは思ったが黙る。

「……クレーンゲームの方行く?」

 約一分間ほど俺が黙ったせいか、沈黙に耐え切れず幸が聞いてきた。そうだな、そろそろ行こう、と重い腰を上げてクレーンゲームエリアに移動する。人気の少ないガンシューティングエリアに比べて、かなり人が多い。今や一番の稼ぎ頭だし当然と言えば当然か。

「何か取ってほしいものとかあるか?」

 今じゃ物置部屋行きだが、ぬいぐるみとかよく取ってた。フィギュアとかお菓子類に比べて取りやすいから、ついつい夢中になって数千から一万くらいまでは使ってたな。なんて昔の事を思い出していると、予想通り幸はぬいぐるみが欲しいと言い出した。

「まぁあの部屋じゃそうなるよな」

 なるべく幸に聞こえないよう呟くと、景品を選んでいた幸が突然振り向いた。一瞬息が詰まりかけ、ゴホゴホと咳こんでしまう。不安そうに俺を見る幸に、いいの見つかったか? と声をかけると、今ネットで人気のキャラクターのぬいぐるみを指さしている。

「嫌な予感がするな」

 こういう流行りものって、アームが弱いんじゃないっけか。一応捨てるつもりで一回だけやるか……。レバーを握り、大体の重心やらを考えて、狙い通りの場所に動かしていく。アームの先がぬいぐるみの下に潜ると、ゆっくりとアームが上がっていった。が、上がり切ったところでガタンと揺れると、ボトリとぬいぐるみが落下した。

「アームの強さはそこまで弱くない、が、これ景品自体が重いやつだ」

 つめっていうのか知らんが、二つのタイプと三つのタイプじゃ重さが違う。大物のぬいぐるみや重めのやつは大抵三つのタイプだが、これは相当金をかけないと取れないだろうな。とはいえ、アームに問題がないなら、上手いこといけば取れる気がする。

「念のため聞いとく、数が欲しいのか、これが欲しいのかどっちだ?」

 もう一度百円を何枚か入れながら、幸を見ることもなく聞いてみると、これが欲しいとの答えが返ってきた。そうか、なら仕方ない、長期戦を予想して三千円を幸に手渡し両替を頼む。二千円が一つの台にあっという間にのまれた、まだなんとなく感覚が戻ってきた程度で、まるで手ごたえはないが仕方ない、幸から三千円分の百円を受け取り、それもほぼのまれたところで漸くぬいぐるみが受け取り口に落ちた。後ろから多くの非難めいた視線を感じ、ぬいぐるみを手に足早にそこから去っていく。五千円近くかけて、あんな目で見られたら、こっちもたまったもんじゃない。まぁ長居してた俺も俺で悪いけどさ。

「ぜっ、ったい、大事にしろよ?」

 半ば押し付けるようにしてぬいぐるみを渡すと、幸は、ありがとう! と目をキラキラさせていた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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