僕の目を見て、話を聞かせて 3

 朝、いつも目が覚めなきゃいいのにな、と思う。それか今までの事が全部夢で、目が覚めたら普通の人に、なんて思ってたとしても、その願いが叶ったことなんて無い。いつも通り朝の支度をして、歩き慣れた道を歩いていく。なるべく目立たないように、普通の人と同じだってふりをして学校へと向かう。誰も僕に興味はないし、誰も僕を見ることはない。
 自分の席につき教科書やノートを机にうつして、一通り準備が終わったらぼうっと窓の外を眺める。僕の心とは正反対に晴れ渡った空は、見ていてあまり気分が良いものでもない。それでも誰とも視線を合わせたくない僕にとって、空を眺めて過ごすというのはいつもお決まりの休み時間の過ごし方だった。

「よっ! 元気?」

『いきなり話しかけて大丈夫なんかな』

 声をかけられ窓から視線を移すと、菅井さんが僕を見て笑っている。周りの視線が僕らに集まるのを感じながら、僕は、普通、とだけ短く返すとまた窓へと視線を移した。

「前よか顔色いいじゃん」

『あーやっぱ、ウチに話しかけられんのは嫌か』

 菅井さんに話しかけられるのが嫌、というより、人目に付くのが嫌なんだけどな、なんて言っても意味ないか。それにいちいち心の声に反応していたら、僕がそう言うやつだっていずれバレてしまう、同じ過ちは二度と繰り返したくないんだ。

「僕と話してたら、菅井さんもハブられるよ」

 僕と菅井さんはそれぞれ違う理由でハブられている、菅井さんはたぶん怖がられていて、僕はどちらかと言えばナメられている。クラスカーストにすら入れない様な僕に話しかけても、何の得もない、損しかないはずだ。

「ウチのこと気にしてくれてんの? やっさしぃな、佐竹」

『今更クラスの奴らにハブられる、とか気にしてないし』

 窓から菅井さんへと視線を移す、やっとこっち見たね、と笑う彼女が怖がられる理由があまり分からない。たしかに素行不良で見た目も怖いけど、他のクラスメイトよりずっと良い奴だと思うのに、なんて自分の事は棚に上げてしまおう。

「朝からかったるくね? またサボんでしょ?」

『あんまり勉強好きって感じじゃねぇしな』

 このまま彼女と接していれば、いやでも人の目を引きつける、かと言ってもしかしたら仲良くなれるかもしれないのに、そのチャンスを棒に振るのも嫌だ。人目か、チャンスか、僕の頭の中でグラグラと天秤が揺れる。

「どうせ叱られるくらいなら、とことんサボろうかな……」

 ふとそんな言葉が口からもれた、ハッと気づいた時には遅くて、菅井さんが、じゃ、決まりな、なんて言って笑っている。心の声もどこか嬉しそうな感じだ。

「いつもどこでサボってるの?」

 どうせなら一人でサボるより、二人の方がいいだろう、なんて思って聞いてみる。ウチのおすすめは屋上だ、なるべく人に聞かれないよう、小声で返してくるのを見て小さく笑う。

「何笑ってんの?」

 いや、意外に周りとか気にするんだなって、と同じように小声で返すと菅井さんは僕から視線をそらした。なんだか耳が赤く見えるけど、まぁ僕の気のせいだろう。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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