不思議図書館・追「7:糸口の追究」(前編)

…一方その頃、修業中のむつぎとゼルルは、着々と技を安定させていった。この家がある世界と、図書館や、みるの家がある世界などとは、時間の流れが少し異なるらしい。ここでの1日が、あちらでの10分くらいだとか。

おかげで2人は思いっきり、調べたり練習したり試したりできた。

「こんな感じかな…。ゼルルの方はどうだ?」

【形と操作には慣れてきましたが…。まだ魔法を使うには時間が…いいえっ!図書館の…お兄さまの為!頑張りますわ!】

「よし、じゃあ「例のやつ」をしよう。その方が互いに訓練になるし慣れやすい。」

【はい、お兄さま!】

2人は「ある状態」になって行動し始める。

「くっ…」

【お兄さま!?】

「ダメだ、ゼルル!…絶対に俺を助けようとするな。余所見は禁止だ。」

【でも…!】

「…みるが出来る事を…俺が出来ないなんて…無い。」

その時、むつぎに変化が起こった。だがゼルルはそれを黙って見守っている。

【(お兄さまの目標に至るには、どうしても「そうなる」必要があるのは…何よりお兄さまが1番知っている…。)】

図書館襲撃までの間、むつぎは司書の仕事だけをしていた訳では無い。私生活こそアレだったが、この訓練だけは欠かさなかった。それはゼルルだけが知っている。

【…お兄さま!ワタクシも心を鬼にしますわ。お覚悟くださいませ!】

そう言って魔法を放つゼルルと、むつぎは限界までぶつかり合った。

一方、早朝から青い顔でやって来たユリィに叩き起こされた、みるとレフィール。リビングで真剣な表情を崩さないユリィに、みるは問われた。

「みる、正直に答えなさい。図書館襲撃の時に思ったこと。何でも、些細なことでも。」

「…急に何なの?師匠。」

「貴女が思ったことが、この騒動を解決する為の糸口になるのよ!」

ほぼ脅しのように身を乗り出して、みるに言い放つユリィ。しかし、みるは目を逸らして言う。

「でも…堕天使との混血のレフィも、大悪魔のゼルルも、猫だったサラミも、何もわからないって言ってたし…。」

「やっぱり貴女だけ感じたものがあったのね!!」

確信を持ったユリィは、みるをガシッと掴んで更に吐かせようとする。

「みる!答えなさい!貴女は何を思ったの!?誰かが感じてなくてもいいのよ!…むしろ何故言わないの!?貴女らしくもない!」

「だっておかしいもん!イミアかゼルル、或いは、むつぎが言ってたら私も納得したけど、誰もわからないのは、絶対おかしいよ!」

「この世に絶対なんてあるかも知れないけど、無いかも知れない、それを絶対にするのは個人の力よ。私にそれを教えたのは貴女でしょう!?それに、私に助言をしたのは、精霊の「エーナ」よ。」

「!?…エーナ……?」

「そうよ、貴女の仕え魔になりたかった、双子の精霊、エーナとスーの片割れのエーナ!」

「えー…な……すー…??違う…えーちゃんもすーちゃんも来なかった…それに、本当にすーちゃんがあのコなら、なんで『悪魔の王子』の仕え魔になっているの…?」

みるの発言に、ユリィもレフィールも思わず固まってしまう。

「待て…ミィ、もう一度言ってくれ。スーが何の仕え魔に?」

「だから、本当にスーがすーちゃんなら、何でノーヴとか言う『悪魔の王子』の仕え魔になっているの?って…。レフィも、何より同じ世界の悪魔のゼルルが、王子様をわからない、知らないなんてありえないじゃない。私の気のせいでしょ?」

「……そういうこと、だったのね…。」

ユリィは、みるから手を離し、愕然としてソファーにもたれ掛かり、深く息を吐いてから言った。

「そいつの「能力」よ。多分『格下には自分の正体が認識されない能力』とか、そんな感じの。王子サマなら大悪魔より格上だから、ゼルルもわからない。でも、みる、貴女はまだ未熟とはいえ女神の力を持つ者。…だから、みるだけは能力の影響を受けなかった。そのみるを欺く為にスーを利用した……ああ…そういうことだったのね…。」

悪魔の王子なら当然、基本的な力も高いので、速達屋の仕事も可能。雇い主も能力の影響で詳細がわからなくとも無理はない。

「本当なの?師匠…スーが…あの、すーちゃん…?えーちゃんが、助言を…?だって…儀式に来なかったのに…ずっと待ってて…やっぱり人間で女神の仕え魔なんて嫌だったんだと思って…いた…のに…。」

困惑と悲しみから来る涙を流しながら、みるは言った。そんなみるに、ユリィはエーナから聞いた話を打ち明ける。

「エーナもスーも儀式に行く直前に何者かに捕えられ、スーは洗脳、エーナはどこかに囚われているのよ。」

「それをしているのが…悪魔の王子・ノーヴ…?」

みるはそう思って口にしたが、ユリィもレフィールも肯定も同意もしない。

「(もしそうなら、ノーヴの動機がわからん。わざわざ裏で精霊達を捕らえて、表で速達屋のバイトをするのか?演技なら、能力があるのに演技する必要があるか?…狙いが図書館なら精霊達を捕らえるまでもない、みるなら図書館を襲撃するまでもない。…なぜ両方する必要があったんだ…?)」

レフィールは長考しているが、ユリィはむつぎ達のところに向かう事になり、みるはイミアとサラミを呼び出す事になった。

イミアとサラミが来るのを待つ間、みるはレフィールと自室に行き、ベッドの上に置いてある白と黒の2匹のウサギのぬいぐるみを手に取る。

「…楽しみだったんだ…友達らしい友達が、まだいなかったから。お喋りできる、分かり合える、友達…。でも、ショックだったけど、重い使命に付き合わせるのも悪いと思って…。」

ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、再び涙を流す、みる。そんなみるをレフィールは、ただ黙って、背中を撫でてやることしか出来なかった。その間…

『カルム。』

『何だ、レフィール。』

『みるの事で、話がある。』

レフィールは魔術で、誰にも知られないようにしながら、カルムと連絡を取り会話した。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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