資源とエネルギーの話 ナトリウムイオン電池

先日、日本の会社がナトリウムイオン電池のモバイルバッテリーの商品化を発表した。つまり誰もが買えるということだ。

そのナトリウムイオン電池とは何かというとリチウムイオン電池より10倍寿命が長い5000回も充電サイクルが有る。スマートフォンに使われるリチウムイオン電池は500回程度の充電サイクルしか無いため、毎日使って充電してると2年位で、だんだん電池が持たなくなってくる。10倍ということは20年も使えるということだ。

しかもリチウムイオン電池と違ってリチウムやコバルトのようなレアメタル(希少金属)を使っていない。またレアメタルは一部の国でしか採掘できなかったり、地下資源として埋蔵量は有っても採掘するのにコストが掛かって現実的じゃなかったりする。

ちなみに日本も地下資源としてメタンハイドレートと言う天然ガスの原料に使えるものが大量にあることが確認されている。しかし深海から掘るのに現在の技術では難しく、とてつもない時間や費用がかかるため外国から輸入しているのだ。

もし日本でメタンハイドレートが自国で採掘できるようになったら電気代やガス代に悩まされることもなくなるだろう。日本の火力発電所は天然ガスで発電するものも多い。更に資源輸出国として貿易黒字に出来るかも知れない。

余談だが日本にも石油の油田が有る。夢のような話だが、実はちょびっとしか石油がないのだ。その石油を採掘して精油して商流に流しても1リットルあたり何万円のガソリンや軽油になってしまう。よって結局、海外から買ったほうが安いのだ。

さて、話を戻してナトリウムイオン電池だが弱点も有る。レアメタルを使っていないので将来的には安価に製造できる見込みは有るが現時点では大量に生産されていないのでリチウムイオン電池より製造コストが高い。

更にエネルギー密度が低い。リチウムイオン電池の3分の1ほど、つまり同じ容量にすると3倍大きくて3倍重い電池になってしまう。今後改良が進んでもリチウムイオン電池の半分程度までしか改善できないらしい。

しかし良いところもある、リチウムイオン電池より2倍の速さで充電できたり、温度環境に強いと言う点だ。一般的なリチウムイオン電池は0℃~40℃の環境を想定しているので「スマートフォンの温度が高いので充電を停止しています。」と言うシステムメッセージを見たことが有る人もいるだろう。高温だと電池が消耗し、低温だと電力が発揮できない。以前、海外で真冬の大雪の中、大量の電気自動車が立ち往生して居た報道を見た方も多いだろう。電池にとって温度はシビアな話だ。

しかしナトリウムイオン電池は-35℃~50℃でも電力を供給できる。地球上の殆どの地域で利用できるし、少なくとも日本では問題ないだろう。素材や電極の工夫や断熱材を使えば低温や高温に特化した製品も作れるだろう。ケースを断熱材で包んだり、魔法瓶のような構造にすれば寒冷地でも使えるし、熱いところでは放熱性の高いアルミ素材でケースの形状をギザギザにして表面積を稼げば自然の風で50℃以下に抑えられるだろう。砂漠の直射日光や、極寒の南極基地でも安定して電気が使えるようになるかも知れない。

つまり持ち運ばない、大型で設置型の蓄電池に向いているのだ。

それにエネルギー密度が低いナトリウムイオン電池はスマートフォンや電気自動車には向かないが、例えば電気自動車の電池の一部をナトリウムイオン電池にしてリチウムイオン電池を温めるヒーター用の電力として使えば寒冷地でも電気自動車が立ち往生する自体を大幅に減らせるだろう。

南極基地は元々ディーゼル発電機で軽油などを燃やして電気を作っていた、今は太陽光発電も併用しているらしい。ナトリウムイオン電池の蓄電池を設置すれば太陽光発電で充電しディーゼル発電機の利用機会を大幅に削減し電気の安定供給が見込める。

更に最近は家庭用のソーラーパネルも珍しくなくなってきたがパワーコンディショナーや蓄電池が重要な存在だ。ソーラーパネルが発電できるのは日中だけ、夜間は発電できない。そのため蓄電池に充電して夜間も使えるようにするために蓄電池が必要なのだが、現在はリン酸鉄リチウムイオンバッテリーと言う電池が使われている。リチウムイオン電池よりは数倍長持ちするのだが、寿命は10年程度で温度も-25℃程度なのでナトリウムイオン電池に劣る。

ナトリウムイオン電池が普及し安価になり当たり前になれば、寒冷地でも10年以上20年くらい長持ちすれば太陽光発電や風力などの再エネも現実味が増し、火力発電所や原子力発電の依存度も減る。

今はソーラーパネルと言うとマイホームを建てる人の話だが、長寿命で安価な蓄電池が普及すれば賃貸でも「この物件はソーラーパネルとナトリウムイオン電池で電気代が安いです!」と物件価値が上がる。今の賃貸でも「無料のインターネットやWi-Fi付き」や「快適な光回線を直接引けます」と謳う物件は多い。もはや「インターネットが快適です」はお風呂や台所のように当たり前の条件になっている。ならば次の謳い文句は「再エネで電気代が安いです」だろう。

今や電気は我々には欠かせないエネルギーインフラ。しかしその多くを輸入に頼っている。ナトリウムイオン電池など新しいテクノロジーで誰もが電気代を気にせず電気を安全に利用できる近未来に期待したい。

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イノベーター

半導体、機械学習、深層学習、AI技術などテクノロジーの調査、考察、見解を発信します。

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