今日は私の好きな映画、『ウインド・リバー』についてご紹介したいと思います。※ネタバレ無し
『ウインド・リバー』は2017年に公開のアメリカ映画です。監督はテイラー・シェリダン、主演はマーベル作品ではお馴染みのジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンです。
テイラー・シェリダン監督は他にも『ボーダーライン』や『最後の追跡』の脚本を務め、この『ウインド・リバー』では、脚本と監督を務めました。緊迫感のあるクライムサスペンスとして、第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞しています。アメリカの辺境を舞台に現代社会が抱える問題や現実をあぶり出した作品の三作目、となっています。
その中でも『ボーダーライン』は監督がドゥニ・ヴィルヌーヴ※、そして脚本にテイラー・シェリダン監督の豪華な作品です。
※ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は『メッセージ』や『プリズナーズ』、『ブレードランナー2049』、そして『DUNE/デューン 砂の惑星』など手がけている監督です。メッセージは何回見たことか…
『最後の追跡』は日本では劇場公開されておらず、ネットフリックスオリジナルとして配信されているみたいです。←知らなかったので見ます。 ←観ました。アクションなのか西部劇を観ているのか分からないくらい没頭しました。
この三作品は“フロンティア三部作”と呼ばれているそうで、監督の現実を見せつける描写や心理描写など、無知な私でも分かりやすい話の構造でした。
あらすじ
ネイティブアメリカンが追いやられたワイオミング州の雪深い土地、ウィンド・リバーで、女性の遺体が発見された。FBIの新人捜査官ジェーン・バナーが現地に派遣されるが、不安定な気候や慣れない雪山に捜査は難航。遺体の第一発見者である地元のベテランハンター、コリー・ランバートに協力を求め、共に事件の真相を追うが……。
引用元 https://eiga.com/movie/87616/
CAST
コリー・ランバート
-ジェレミー・レナー/阪口周平FWS(合衆国魚類野生生物局)のハンター。ダンに頼まれてピューマを探す道中でナタリーの遺体を見つける。3年前はガイドをしており、娘エミリーを亡くす。
ジェーン・バナー
-エリザベス・オルセン/行成とあ
FBI特別捜査官、ウインドリバーに最も近くにいた為、派遣されるが若い女性であることからベン達に軽んじられる。FBIの応援がない中、捜査を続けることで彼らの信頼を得る。
ベン・ショーヨ
-グラハム・グリーン/楠見尚己
BIA(インディアン部族警察)の署長。FBIを捜査の応援に呼ぶ。
ナタリー・ハンソン
- ケルシー・アスビル/石井未紗
アラパホ族の少女。凍死体で発見される。エミリーの親友で3年前の事件ではエミリーの失踪をコリーに伝えた。
マーティン・ハンソン
- ギル・バーミンガム/木村雅史
ナタリーの父親。18歳になったことから娘を信頼し放任していた。友人であるコリーに犯人の狩りを頼む。
ウィルマ・ランバート
- ジュリア・ジョーンズ(英語版)
コリーの妻でアラパホ族の女性。3年前の娘を失った事件で当時、住んでいたパインデールを離れてランダーに移り住み、その前後にコリーと離婚する。求職のために家を空ける間、コリーに息子を預ける。
チップ・ハンソン
- マーティン・センスマイヤー
ナタリーの兄。麻薬売人として身を持ち崩し、父マーティンとも1年近く話していなかった。
映画冒頭はコリーの娘、エミリーが書いた詩とともに真夜中の雪の上を叫びながらはだしで走る被害者ナタリーの姿から始まります。
“草原がなびく私の理想郷
風が木の枝を揺らし水面がきらめく
孤高の巨木は優しい影で世界を包む
私は このゆりかごであなたの記憶を守る
あなたの瞳が遠く現実に凍えそうな時
私はここに戻って目を閉じ――
あなたを知った喜びで生き返るの”
映画『ウインド・リバー』より
ここからウインド・リバーで何が起きたのか、被害者ナタリーに何があったのかを主人公コリーとジェーンは極寒の雪山の中で調べていくことになります。
極寒の地、『ウインド・リバー』で何があったのか
この作品はウインド・リバーというアメリカ中西部、ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地が舞台となっています。実際のウインド・リバーの現状を調べました。
インディアン保留地とは
ネイティブアメリカン部族の移住のために指定された地区。合衆国連邦から部族に信託された土地であり、一部例外を除いて州の権限が及ばない。保留地はミシシッピ川以西に集中しており、2015年時点で326存在する。当初西部では移植民との衝突を避けるため、条約によって部族の占有地域が決められたが、その後、条約を反故にしての土地剥奪が進み、先住民は保留地に囲い込まれた。現在、ネイティブアメリカンの約8割は保留地外に住むが、祖先との繋がりを感じられる保留地は心のよりどころとなっている。
強制移住
17世紀から実施されていた強制移住は、19世紀に入って本格的に進められた。ジャクソン大統領の下、1830年にインディアン強制移住法が制定されると、ミシシッピ川以東に移住した部族は西部の代替地への移動を強制された。「涙の旅路」として知らされるチェロスキー族のケースではおよそ1900キロの移動が強いられた。1840年代半ばまでに約10万人が移動させられたが、その行程は極めて過酷で多くの者が途上で落命している。
保留地が抱える問題
アルコール依存症や薬物依存は保留地における深刻な問題であるが、その根には「伝統の否定」がある。部族にはそれぞれ独自の世界観があり、それを基盤とする伝統儀式が存在する。こうした伝統は「文明化」の名の下、長期にわたり厳しく制限された。子どもを親元から引き離して寄宿学校で行われた同化政策に基づく教育においても、伝統文化や部族言語は徹底的に否定された。自文化を否定される時代が長く続いたことは、出口の見えない慢性的な経済的困窮と相まって、ネイティブアメリカンの人たちがさまざまな依存に走る原因となっている。
※本作の公式パンフレット『WIND RIVER』より抜粋
極寒の地に追いやられ、そこに住むことを余儀なくされた人々が沢山いました。癌よりも殺人による死亡率が高く、女性たちは強姦され自身の尊厳を奪われ殺害される、などここでは法の支配が自然の支配に屈してしまうとテイラー・シェリダン監督は語っていました。
ネイティブアメリカンの人たちのことは知ってはいても、より深く知ることは今までにありませんでした。現地の人でないと分からない事もあると思います。
この映画を観るまで私はアメリカの辺境でこのような事が起きているのを知りませんでした。全くと言っていいほどに。初めて観たのは確か20歳の頃だったと思います。そこからずっと頭から離れないのです。同じ世代の子たちが同じ世界で生きているのに、なぜこのような事ばかり起きるのか。
物語は起承転結がしっかりしており、結末や真実は残酷なものでした。テイラー・シェリダンが手がける作品はハッピーエンドで終わるものはないと思います。私たちに常に問いかけ、今起きている現状を伝えようとしているのです。この『ウインド・リバー』という作品も。
だからこそ私たちは映画という手に取りやすい方法で世界の事を知り、そして知った気分になり、何も知らなかった頃よりは真実を知って絶望し、何もできない自分に空しくなる事を繰り返しています。
この映画をドキュメンタリー映画として出したらそれこそここまで広まる事はなかったと思います。やはり映画とはエンタメで娯楽でもありフィクションが多いですが、その中にほんの少しの現実や、問題提起、今世界で起きている様々な事象、情勢を組み込む事で認知してもらえるきっかけになるものだと思いました。
本作はナタリー(今作の被害者)にフォーカスしていましたが、現実では大勢いることだと思います。主人公コリーの娘もそうです。この閉ざされた雪山の中、一体どれだけの人たちが犠牲になり今現在もどれだけ問題になっているのでしょうか。そしてネイティブアメリカンの人たちの問題もですが、強制的にこの極寒の地に連れてこられ、ほぼ無法地帯の土地でどう過ごしていくのか。私たちにできる事はあるのでしょうか。この惨たらしい現状を忘れないように、過ごしていきたい。そう思いました。
正直簡単にこの作品面白いから観て!と気軽に言えるような内容かと言われると何とも言えないです。話の構成はちゃんとしていて文句なしですがリアルな描写もあるのでメンタルの状態が良い時に是非観ていただきたいと思います。
最後に。
「ネイティブアメリカン女性の失踪者に関する統計調査は存在しない。失踪者の数は不明のままである」
