「油は太る」。これは多くの人が無意識に信じている前提だ。確かに油はカロリーが高い。
1グラムあたり9キロカロリーという数字を見れば、誰しも「避けたほうが良い」と思うだろう。
だが、人体の代謝を少し掘り下げてみると、むしろ油を適切に摂取した方が肥満を防ぎやすいという逆説が浮かび上がる。

鍵は「血糖値の上昇スピード」だ。糖質(炭水化物)は消化吸収が速く、単独で摂ると血糖値が急激に上がる。
すると膵臓からインスリンが大量に分泌され、糖を脂肪として取り込むように指令が出される。
ここで血糖値が急上昇すればするほど、インスリンも大量に分泌され、結果的に「太りやすい」状況が生まれる。
油には、この流れをコントロールする力がある。脂質は胃の排出を遅らせ、腸での吸収速度を落とす。
つまり、糖質と一緒に油を摂ると、炭水化物の吸収が緩やかになり、血糖値の急上昇が抑えられる。
インスリンの過剰分泌も避けられるため、脂肪として蓄積されにくい。

この作用を身近な食事でイメージするとわかりやすい。例えば「白米」と「チャーハン」を比較してみよう。
同じ量の米を使っても、チャーハンは油でコーティングされているため、米の表面から水分や消化酵素が浸透しにくく、糖質の吸収がゆっくりになる。
ただし、調理に使う油の分だけカロリーは増えるため、「血糖値は上がりにくいが摂取エネルギーは増える」という点には注意が必要だ。

サラダのドレッシングも同様である。ノンオイルドレッシングは低カロリーな一方、糖質が主体となっている製品が多い。そのため血糖値が急上昇しやすく、満腹感も持続しにくい。
一方で、オリーブオイルやごま油を使ったドレッシングは、血糖値の上昇を抑えるだけでなく、ビタミンA・D・E・Kといった脂溶性ビタミンの吸収を助ける。
ただし、ノンオイルでも糖質を抑えた設計の製品も存在するため、一律に「ノンオイル=太る」とは言えない。

さらに、日本の家庭でよく見かける「イワシやサバの缶詰」も好例だ。
缶の中には魚由来の油がたっぷり含まれており、ご飯と一緒に摂れば糖質の吸収スピードを緩やかにできる。
しかもEPAやDHAといった良質な不飽和脂肪酸を摂取でき、血液の流動性改善や炎症抑制効果も期待できる。
ただし、缶詰の油には塩分やプリン体も含まれるため、高血圧や尿酸値が高い人は摂りすぎに注意したい。

もちろん、油なら何でも良いわけではない。トランス脂肪酸や、繰り返し使った揚げ油のように酸化した脂は健康リスクが高い。
選ぶべきはオリーブオイル、魚油、ナッツ類、アマニ油などの質の高い油だ。
量も重要で、摂りすぎればカロリーオーバーになるのは避けられない。ただし、必要以上に油を恐れ、「糖質単独」の食事を繰り返すことこそが、肥満の本当の引き金になる。
まとめると、ダイエットにおける戦略は「油を抜く」ことではなく「油を正しく組み合わせる」ことだ。
白米をチャーハンに変える、サラダにはノンオイルではなく適量の油を含むドレッシングを使う、缶詰の魚油を捨てずにご飯にかける。こうした小さな工夫が、血糖値を安定させ、太りにくい身体をつくる。
「痩せたいなら油を避ける」から「痩せたいからこそ油を食べる」へ。
この逆転の発想こそが、これからのダイエットの常識になるだろう。