「こけ女」のこと。

私は、生まれながらの「こけ女」(こけじょ)である。
その理由は、母方の実家が代々こけしを作っていて、身近にあったからだ。
おじぃちゃん、おばぁちゃん、おじさんとも職人だった。

いたるところに、売り物であろうこけしが転がっていたのは日常の風景だった。
日常すぎて、母なんて「お金を出してこけしを買うなんて。」とぜいたくなことをよくいう。
地震のときや、棚の掃除のとき、並んでいるこけしが一斉にこっちをみていることにも慣れっこである。むしろ、「私なんかを見るなんて、かわいい。」と思えるほどだ。

小さいころから、おばぁちゃんちに行くときはなんとなく、おろしたての洋服で行かないというのは私の中でのルールだった。木くず、色粉、うわぐすりのにおい、ついでに、当時飼っていた白猫の毛がつくから。黒いズボンなんてもってのほかだ。

でも、そんなおばぁちゃんちに行くのも好きだった。
あの切った木の匂い、ろくろの回る音、おじさんの色がついた手…五感で覚えている。
もちろん、身体で、経験して覚えていることもいっぱいある。母や、わたしたち孫も、根付け(ストラップサイズ)にひもをつけたり、商品を包んだり、イベントに出店するといわれれば店番をした。今でも思い出す。みんながいて、あの頃はよかった…と感傷的になるけど、私の中では、いい思い出として残っている。

本気で継いで職人になりたかったけど、好きだからといって、こんな体力が落ちた身体の私がなれるほど簡単なわけはない。こけしだけではなく、世界に誇れる日本の伝統工芸は、後継者不足で窮地に立たされているものも多い。由々しき事態だ。
今、私は、職人を継げないかわりに、日本のいいところなどを文章でみんなに伝えたいという夢に向かっている最中である。

何年か前、急にこけしブームがきて、びっくりした。
「こけ女」と自分で名乗って、小さいこけしと旅行に行って、写真を撮ったりする人が出てきたのだ。こけ女たちが持っている、雑貨屋さんなどで見かける種類は「創作こけし」といって、形などを自分で考えて、誰でも作っていいもの。一方、東北の観光地などで見るものは「伝統こけし」といって、各地で決まった形や模様があり、工人に弟子入りして修行した人しか作れないものだ。

あんなに昔からあるのに、いまだに、誰が、いつ作ったのか、なぜ作られたのか、どこからの発祥かなどはわかっていない。そんなミステリアス要素が、たびたびブームになる所以なのかもしれない。

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パクチー

歴史、絵画・舞台鑑賞なんかが好きな、難病+障がい者の二刀流です。 興味があること、思っていることを書いてみようと思ってるので、 共感できるひと、気になったひと、ちょっと寄っていってください。

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