自分が障がい者に分類されたとき「これから私はどうなるんだろう」とか、そういうことはあんまり思わずに(←そりゃあちょっとはあったよ!)受け入れられたのは、私が小さいころに外で遊ぶときいつもそばで見守ってくれた大好きなおじぃちゃんを見てきたからだ。
おじぃちゃんは、義足の身ながらもいつもニコニコしていて、バスとかに乗ってひとりであちこち行きたいところに行ったり、普通に生活していた。
私の父方の、子どものころ同居していたおじぃちゃん(前出の鉛筆を小刀で削るおじぃちゃん)は、若いころの病気が原因で左足が根元からなかった。(なので、うちは昔から戦争の話はあまりしなかった)仕事は、今でいう在宅ワークでうちの中でハンコを掘っていたので、仕事の合間に私と外に出た。今思えばハンコを掘るなんて集中力が必要な仕事なのに、幼い私はおかまいなしに仕事中の大好きなおじぃちゃんの回りをしょっちゅうウロウロしていたが、1回も怒られた記憶はない。
義足のおじぃちゃんをずっと見てきたので、私はいつからか「将来はそういう人たちの手助けをしたい」と思い(占いによると乙女座は他人のサポートが得意だそうだ)、福祉・医療関係の仕事に就きたかった。でも、どういう仕事があるとか、私に合う仕事があるとかがわからなくてあれこれ探しているとき私は、あるすばらしい職業と出会った。
それは「義肢装具士」だ。
私は前からモノづくりに興味があり(おじぃちゃんをいつもそばで見てたらそりゃ興味あるわな)この仕事を知ったときは「世の中には、こんなすごい人たちがいたんだ!」と衝撃を受けた。
おじぃちゃんと同じように手や足を失った人に、新しい手や足を復活させる人たちだ。
「義肢装具士」とは国家資格で、 義肢装具コースのある4年制大学か、養成施設として認定されている3年制以上の専門学校を出て(宮城県内には資格をとれる大学も専門学校もなかった…)国家試験を受験して資格を習得した人で、義手・義足を作る職人のこと。厚労省が選ぶ「現代の名工」に認定された人もいるらしい!
「義手・義足」とは、事故や病気によって手足の切断をした場合に、医師の処方に基づいて採寸や型取りを行い、失われた機能を補うために作られる人工の手足のこと。
プラスチックや金属、皮革などの材料が用いられ、その人の残存肢の長さや全身状態によって製作可能な義手・義足は異なる。
私のおじぃちゃんの義足からは考えられないくらい、今の義手・義足は日々進化している。
パラリンピックとかを観ていると「え?この人本当に片足ないの?」と思うぐらい、ふつうに走ったり、飛んでる人たちなんかもいる!
ふだんの生活では、私たちがいつもあたりまえのように履いているスカートやハーフパンツを履きたくても「義足だから」とあきらめている人もいるなかで、最近は義足の女性のモデルさん(日本人のかわいいコ!)や、堂々と車イスでファッションショーのランウェイを歩く人たち(夢はパリコレのランウェイを歩くことだそうだ)もいて、世の中の義手や義足、車イスの利用者のイメージを変えるきっかけになっている。
ふと考えると、義手や義足を使っている人たちを支える人たちがいるからおじぃちゃんたちは五体満足の人たちと同じように生活できるんだ。手足を失った人たちがポジティブに生きる手助けになる仕事なんてすごい!
おじぃちゃんの義足は、あたりまえだけど昔の義足だったので、木にセルロイド(世界最初の人工プラスチック)でピカピカの皮ふっぽいのがひざ下についてあって、あちこちがよくギーギーいっていた。本当に木で、本当に重かったので(子どもの私は両手でもなかなか持ち上がらなかった)肩から下げたベルトを支える、おじぃちゃんの背中はたくましくてカッコよかった。「時代が時代だったら、なにか競技をしていたら、いい記録が出たんじゃないか?」と今でもパラリンピックとかを観ていると本気で思う。(実際おじぃちゃんは最後のほうは寝たきり状態だったけど、相変わらずニコニコしながらオムツ替えとかのときは自力でベッドの柵にしがみついて、上半身を持ち上げていたのを目にしては「おじぃちゃん実は歩けるんじゃないか?」と内心思っていた)
義肢装具士はモノ作りの仕事だから手先の器用さが一番重要だと思われるけど、本当に必要なのは高度なコミュニケーション力だ。
義肢装具士の資格を取ったあとは主に病院やリハビリ施設でスタッフとして働く人が多いが、障害者スポーツなどのサポートをする人たちもいる。
今はパラスポーツにもいろいろな競技があるし、たとえばパラリンピックなんかの仕事だといろいろな国の人がいる。使っている人の、その国で作られた義手・義足、頼まれれば車イスなどのメンテナンスもする。言葉はもちろん、「練習で壊れたので今日の試合の時間までに直して」ということもある。時間との戦いの場合、その選手だけではなく違う国のメンテナンススタッフとも連携しなければ間に合わない。
義肢装具士の仕事は、その人にあった義手・義足を作って終わり、というわけじゃなく、その人の成長や治り方などによって常に変化する身体に合うように、本人の「使っているときにどこが痛くなるか」などの要望や改善点を見聞きして、一緒に確認して直すなどの寄り添ったサポートが引き続き必要だ。サポートは得意だけど、コミュニケーション力もか…私の不得意分野だな…
それも含めて、何回も言う。「義肢装具士」ってすごい。
余談だが、おじぃちゃんが亡くなったとき「お棺におじぃちゃんの義足も入れないと!」とみんなで探したが、そのときはなぜか見つからず、一緒に入れることができなかった。こういう場合、葬儀業者の方で用意する、お棺用の義手や義足があるんですって!(ほとんど木の棒)モヤモヤしたままそのときはしかたなくそれを入れて見送ったけど、今思えば、セルロイドって結局不燃物だから入れられなかったと思う…あっちでおばぁちゃんと一緒に自分の両足で歩いてるといいなぁ。
亡くなってしばらくして、私が別の用事で庭の物置を開けたときに、物置のすみっこでおじぃちゃんの足が立っていたのを目にした。「ここにいたの?!」と再会した日の午後、前に私が出した懸賞で商品券が当たった。おじぃちゃんからのおこづかいだったんだろうか?おじぃちゃんからのおこづかいなんて何年ぶりだろう?久しぶりに会えて嬉しかったのかな?私も嬉しかったよ!ありがとう!
でもすぐ生活費に消えたけど…
わたしが尊敬している職業シリーズ 「義肢装具士」のこと。
パクチー
歴史、絵画・舞台鑑賞なんかが好きな、難病+障がい者の二刀流です。 興味があること、思っていることを書いてみようと思ってるので、 共感できるひと、気になったひと、ちょっと寄っていってください。
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