・はじめに
以前のコラム「共依存」と「障害者差別」で話したとおり、私は卵巣腫瘍で今現在2年近く薬物治療を受けています。良性なのでなんとか手術をしないで済んでいますが、最初の大病院で診察を受けたときは簡単に「卵巣取っちゃおう」と言われてショックでした。別に子供が欲しい訳ではありませんが、将来自分がどんな考えになるかなんて分からないし、手術が必要なほどの病気になったことがなく怖かったので、もっと早く気づいていたらという後悔と自分を追い詰めた人間に対する恨みで頭が一杯で当時の自分は中々受け入れられませんでした。
良い病院と医師に巡り合い少し落ち着いたころ、私はいつもの日課でマガポケというマンガアプリをみていると、あるマンガがポイント対象になっていたので開きました。いつもならポイントのためだけなので適当に飛ばす所でしたが、女子高生が妊娠してしまうお話でつい気になりじっくり読んでしまいました。その後アプリが妊娠を題材にした医療マンガをオススメしてきたことをきっかけに「性」を扱ったマンガを読んでみようと思うようになりました。ここ一年そういったマンガを読み、沢山勉強になったので今回3作紹介したいと思います。
①あの子の子供
・どんな作品?
高校生の主人公福(さち)は彼氏の宝(たから)と性行為をし、ゴムが破けた事を軽んじたことで妊娠してしまう。10代の妊娠がどれほど大変かという事が丁寧に描かれており、思春期だからこその「悩み」「金銭面の問題」「性への認識の甘さ」「命の責任」「親との関係」について考えさせられる作品です。
・読んだ感想
作者さんの少女マンガらしい繊細なタッチから描かれる絵がいやらしさや下品さを感じさせず、表情や背景で見せてくるのでキャラクターの心情が伝わり読んで辛い場面もありますが福と宝が妊娠に向き合っていく過程が丁寧に描かれているので、読んでいて段々と二人を応援したくなりました。大抵の男はこの場合逃げるものですが、宝の妊娠判明後の対応は現実ではありえないほどの神対応なので男性側は参考になると思います。医療知識としては後に紹介する2作品には劣りますが、10代の妊娠がどれだけ大変かという事においてはとてもリアルに描かれていると感じました。特に彼氏側の母親の厳しい対応と、クラスメイトの友達にバレて話のネタにされ悪気なくいじめられる描写はリアルな反応で心にズシンっときます。個人的に中高生に読んでほしいマンガの一つです。
②透明なゆりかご
・どんな作品?
看護学科の高校3年生の×華は見習い看護師として中絶の現場で働き、命の力強さに感動し仕事を続ける。作者の×華さんの実体験を元に描いたマンガで、中絶の後処理の仕事を通じて命の重さを問うマンガです。個人的には今回紹介する中で一番内容が重いと感じます。
・読んだ感想
この作者の極限まで描きこみを減らしデフォルメした絵でなければ、辛すぎて読めないレベルの内容です。このマンガを読んで中絶の多くは「性被害」「未成年の妊娠」「知能や金銭面の問題」による望まぬ妊娠であることを深く考えさせられました。特に「マリエさんの赤いバラ」という軽度知的障害の女性が中絶をくり返す話は、弱者を狙う加害男性の問題や障害がある人のサポートの重要性について気づくことが多く、こういうことを周りの人間が頭の隅に記憶しておくだけで誰かを助けられるかもしれないと思いました。
性被害にあった時の対応なども書かれているので女性は絶対に読んだ方がよいマンガだと思います。ドラマ版も評判が良いみたいなので機会があったら見てみようと思います。
③コウノドリ
・どんな作品?
ピアニストのベイビーはもう一つの顔である産科医の鴻鳥先生して同僚の医師ともに多くの妊婦さんを救おうと日々奮闘する。「切迫流産」「口唇口蓋裂」「性感染症」「子宮頸がん」「妊婦の自殺」「コロナ渦の妊娠」などなど勉強になる話が多く、綾野剛主演でドラマ化もされているので絵が苦手な人はドラマ版がオススメです。
・読んだ感想
初めは絵柄がリアルタッチの絵だったので重い内容で辛そうだなと思い避けていたのですが、読んでみると思いの外ギャグがあり、主人公も実際にこんな先生がいたらなぁと思わせてくれる優しいキャラクターでスラスラ読めました。命を扱うので辛い話もありますが、婦人科系の病気の知識と産科医の葛藤や成長が見ごたえがあるので辛い話でもつい読み進めてしまい、読んでいくうちに出産は奇跡だという事が良く分かり五体満足に産んでくれた母に感謝の気持ちが芽生えました。
特に「子宮頸がん」「子宮筋腫」「子宮内膜症」の回は生理痛が重い私にはとても勉強になったし、子宮頸がん検診をしっかり受けようと思いました。妊娠に関心のない私はこのマンガで出産は病気ではないから保険がきかないということを初めて知ったのでまた最初から読んで勉強したいと思います。
個人的には今回紹介した中で一番オススメの作品で、特に男性に読んでほしいと感じました。なぜなら悪いお手本のようなクソ旦那が多く登場し反面教師になるからです。もちろんお手本にするべき素敵な旦那さんも出てきますし、喫煙や飲酒をする妊婦の問題も描いていますので性別問わず是非読んでみてほしいです。
・おわりに
去年からニュースで性犯罪が取り上げられることが多く、日本の性教育がどれだけ遅れているか日々実感しています。日本は性の話を茶化してうやむやにしたり、被害者を責めたりする事が多く、性加害者の罰が軽いので性犯罪が横行しているのだと思います。今にして思えば私が子供の頃の周りも性の話は恥ずかしいからうやむやにしているような感じでした。一番悪いのは加害者です。自分の身を守るため、家族を性犯罪者にしないため日本はもっと真剣に性教育に取り組むべきだと思います。特に女性と子供は被害に遭いやすいので幼いうちから自衛のすべを学ぶべきです。マンガという媒体ならハードルは低いのでとっつきやすく、私もマンガだからスッと読め学べました。この3作品を読んで性教育は命の授業だと改めて感じました。私が大金持ちだったら全ての中学高校にこれらのマンガを寄付するレベルです。
私は今回紹介した漫画を読んだおかげで治療に前向きになり、手術も受け入れる心の準備が出来てきました。大人でも勉強になるので興味がある方、子供の性教育に悩んでいる方がいたら読んでみてほしいです。