初めに
前回に引き続き、新生児の病気についてご紹介していきます。
皆さんがあまり知らない病気があるかもしれませんが、最後までお読みください。
脳室内出血
NICUでの初めの説明で「初めの三日間がとても大事」と言われることがあると思います。それは脳室内出血が起こりやすい時期だからです。小さく生まれた赤ちゃんの脳は、脳室付近の上衣下胚層と呼ばれる部位の血管がもろく、容易に出血するリスクがあります。診断は超音波(エコー)検査で行い、その出血の程度は脳室内にとどまる限定的なものから、広範囲に広がる重傷なものまであります。重症であれば後遺症を残す可能性が高くなります。
出血が軽度の場合は経過観察をしますが、出血後に水頭症と言って、脳脊髄液(脳と脊髄を包んでいる膜の間を流れる液体)が脳室内に溜まり、脳を圧迫する状態になることがあります。その場合は手術で流れを良くしたり、除去するための処置を行うことがあります。
脳室周囲白質軟化症
脳に血液を届ける血管には脳の表面から深いところにある「脳室」と呼ばれる部位に向かうものと、脳室側から脳の表面に向かうものがあります。小さく生まれた赤ちゃんの血管は、未発達ですのでこれらの血管からの血流が少ない「白質」と呼ばれる部位は血液は不足し、ここに存在する細胞はダメージを受けてしまいます。特にこの大きい場合、麻痺など後遺症を残すことがあります。
脳室周囲白質軟化症は傷害の受け方によってびまん性(広がるもの)と、嚢胞性(状袋になるもの)に分類されます。検査は重症なものは超音波検査でわかりますが、退院前にMRIを撮像して判明するのもあります。赤ちゃんが在胎期間28週未満や1,500g未満で生まれた場合は、退院前に頭部MRIで確認することが多いです。
残念ながら根本的な治療はまだありませんが、退院の時に判明していればリハビリなどの介入が早めにできる可能性がありますので、検査を受けるメリットがあります。
未熟児網膜症
早産で生まれた赤ちゃんの目の奥にある網膜の血管は未発達で、成長が著しい状態にあります。その成長過程で、赤ちゃんがさまざまなストレスや酸素にさらされたりすると、網膜の血管は異常に増殖してしまい、視力低下や失明につながることがあります。
在胎期間が短い赤ちゃんは生後2週間を過ぎたくらいから眼科観察が始まります。この時に異常が認められれば、網膜の血管がまだ成長していない部分にレーサー治療が行われることがあります。施設によっては、目の中に血管の異常増殖を抑える薬剤を注射することもあります。
眼科観察では点眼薬を投与されたり、目を開けられたりしてストレスが多いものです。そのため1~2週間ごとに行うことが多いです。
黄疸・ビリルビン脳症
黄疸とは、ビリルビンという物質が蓄積することで皮膚が黄色くなる状態を言います。黄疸は小さく生まれた赤ちゃんでなくても新生児にはよく起きる現象です。胎内の赤ちゃんはお母さんから酸素をもらっていますが、大気中から酸素を取り込む場合と比べると酸素濃度は低いため、通常と異なるタイプの赤血球を持っています。生まれるとそれが通常の赤血球に入れ替わりますが、その過程でビリルビンが生成されます。また赤ちゃんはビリルビンを処理する能力が低いため黄疸の症状が出やすくなります。早産で生まれた赤ちゃんの場合、ビリルビンが脳組織付着してしまう可能性があり、それをビリルビン脳症(核黄疸)と言います。ビリルビン脳症になると脳性麻痺など後遺症を残すことがあります。
黄疸は光療法(光線療法)で予防します。特別な光線を当てる事によってビリルビンは排出されやすい形状に変換され、黄疸は改善します。もし光療法の効果が不十分で、ビリルビン脳症のリスクがある場合には「交換輸血」という方法が取られることがあります。
光療法はビリルビン脳症のリスクを考えての予防的な治療です。なので、赤ちゃんに光が当たってもいたとしても赤ちゃんに脳性麻痺のリスクが高いわけではありません。
未熟児貧血
早産で生まれた赤ちゃんはさまざまな理由で貧血になることがあります。胎内で受け取るべき鉄分供給が十分ではないこと、赤血球を造る機能が未熟なこと、赤血球が入れ替わると(黄疸の説明を参照)、採血によって失われる事が主な原因です。
在胎期間が短ければ短いほど重症になり、輸血が必要とされる事があります。その他の治療として赤血球を作るためのホルモンの補充、鉄剤の内服が行われます。
鉄剤も小さく生まれた赤ちゃんが退院するとき、処方されるのも一つです。苦手な赤ちゃんもいるので、飲ませるタイミングや工夫をNICUとGCUのスタッフに教わっておくと良いでしょう。
早産児骨減少症
赤ちゃんの骨を構成する重要な成分は「カルシウム」と「リン」です。お母さんのお腹の中では胎盤を介して赤ちゃんにカルシウムとリンが積極的に供給されており、妊娠後期にかけて骨が急速に成長します。しかし、早産の場合には、このカルシウムとリンが供給されないまま生まれる事や生まれた後の供給はお母さんのお腹の中比較すると効率が悪く、母乳の栄養だけでは骨の成長に必要な量をどうしても補うことができません。そのため、早産児骨減小症が起きやすくなるのです。
その予防として、生まれてすぐに点滴からカルシウム製剤とリン製剤をバランスよく投与することや、経腸栄養(胃や腸にチューブを挿入し、直接栄養を取り込む方法)が進めば、母乳中にカルシウムやリンを多く含む強化母乳パウダーを添加することで不足分を補うことがあります。
小さく生まれた赤ちゃんのための修正月齢
早産で小さく生まれた場合、赤ちゃんが順調に成長しているのどうか気になるお母さんは多いと思います。母子手帳に載っている身長や体重のグラフを見ると、自分の赤ちゃんが標準より小さく、まだ寝返りが出来ていないなど不安になるかもしれません。予定日より早く生まれた分、小さくて未熟なので、誕生日からの基準では小さな体格で発達もゆっくりであるというのは当たり前の事です。
この場合、予定日を基準にする(予定日に生まれたとする)修正月齢で考えます。
例えば、予定日から2ヶ月早く生まれた女の子が5ヶ月になったときに(誕生日から数えた暦年齢が5ヶ月)、体重が5㎏で首は座っているけれど、寝返りができない場合グラフをみて心配になるかもしれません。しかし、修正月齢で考えると、2ヶ月さかのぼり修正3ヶ月となります。ですから、まだ寝返りができなくても問題ないことがわかります。
栄養
赤ちゃんにとって母乳は最適な栄養であり、小さく生まれた赤ちゃんにとっては、より大切です。母乳には免疫を働く成分、炎症や過剰な酸素を守る成分、成長を促す成分、ホルモンなどが入っています。授乳は早産児の腸の発達を促し、胃腸炎や感染症、消化官アレルギーを予防して再入院のリスクを下げ、認知(視覚)能力の向上に繋がります。始めは直接授乳することは難しいかもしれませんので、お母さんの体調が良ければ搾乳をはじめてみましょう。
赤ちゃんやお母さんの健康を配慮して医師と助産師が必要と考えた場合は、ミルク(人工乳)ドナーミルク(寄付された母乳)を使うことがあります。自身の母乳のみでは心配する必要はなく、それぞれの赤ちゃんに合った方法で必要な栄養をあげることが大切です。
搾乳の方法
母乳は、出産直後ににじむ程度しか出ませんが、お母さんの体調を見ながら、出来るだけ早期から乳頭・乳房のマッサージを始めてみてください。3~4時間毎に搾乳することで、お母さんの体の中のホルモン分泌され、母乳の量が増えていきます、手絞りでいいですが、哺乳器による 吸啜反射はさらにホルモンの分泌を促進し、お母さんの負担も軽減できるので、長期的搾乳が必要な場合は、搾乳器の使用をお勧めします。
母乳量については、お母さんの食事や水分摂取量、心身の疲労度や体質などに影響を受けます。母乳分泌量が増えず、不安を抱えているお母さんも少なくありません。
最後に
今回も新生児の病気についてご紹介しました。
誰もが知らない病気がありましたね。難しい漢字が沢山ありますが、新生児医療について学んでみてはどうでしょうか。
次回は赤ちゃんの生活についてご紹介します。