~花鈴birthday作品~

短編作品

「不幸と幸せの狭間にて」

~花鈴birthday作品~

私の名前は、おねーちゃん。どこにでもいるアラサーを目前に控えている人間だ。

この作品は、私が死ぬ気で育てた「花鈴(かりん)」のbirthday作品である。

今から、4年も前の8月に花鈴をグダグダになりながら育てた。

そんな「グダグダ育児」や「私(おねーちゃん)」の心情や移り変わりする気持ちを

暴露していく作品です。彼を引き取ることで、成長する物語を語っていこうと思います。

前説が長くなりそうなので、本編へGo!

不運にも花鈴は、8月の炎天下の中、黒いごみ袋に兄妹と詰められ捨てられていた。

私は、知人から「飼えないだろうか?」と、懇願され断り切れず、

母に縋った。

「私は、いつ死ぬか分からない子猫を千葉まで迎えに行けない。

育てられる気がしない。お母さんは、どう思う?」

そんな泣き言を言いながら縋る私に母が思いもよらない言葉をかけてきた。

「お母さん、今日は迎えに行けないけど明日なら何とか夜中の高速道路をぶっ飛ばして

行けるわ!水鈴!子猫に必要なものは熟知しているわね?

いい!水鈴が、育てなきゃ!お母さんにならなきゃ、その子猫はあっという間に

“死”

んでしまうのよ!しゃんとしなさい!お母さんになるんでしょ?!」

この言葉が、私の心を揺さぶった。小さい頃から子猫を何匹も育ててきた。

どんな場面でも冷静に対処してきたが、勝算があまりにも少なかったのだ。

子猫が衰弱して小さな私の腕の中で天に召されるなんて日常的なものだった。

その記憶が私を一気に現実へと引きずり落した。

「無理だよ・・・無理だって・・・初乳だって飲んでいない。そんな死を待つばかりの

子猫を千葉まで迎えに行くなんて。こちらが負うリスクがデカすぎる。

今からなら、断れる。断りの連絡を入れよう。」

その時、母の

「お母さんになるんでしょ?!」

が、まるでブロック塀で殴られたかのような、鋭利で鈍痛を伴うような痛みが、

右側の頭部に勢いよく響いた。目の前が眩んだ。瞬きを繰り返すも一向に晴れない。

いよいよおかしくなったかと思った私は、気持ち悪いが、口角を上げて笑っていた。

「さあさあさあ、泥船に乗り込んでしまった可愛い子猫ちゃんを・・・

いっちょ、救いに行きましょうかねぇ・・・。」

私の闘志に火が付いた。育てたからには・・・可愛がって・・・ムフフフwww

意気揚々と夜中の高速をぶっ飛ばす母の横で笑いが止まらなかった。

ようやく、引き取り場所に赴き子猫を拝見。と、渡されたのは靴の空き箱に柔らかそうなタオルが1枚・・・。

「あれ?っ・・・。そんなことないよね・・・?」

目を見張った。何度も、何度も

「そんなことない・・・そんなことない。・・・あれ?誤算だ。

私は、今この場を持って負けを認めて尻尾を巻いて帰らせて頂きます。」

そう言えたら今、涙が目の淵から零れ落ちそうになんてならない。

私は、人生の中で1番と言ってもいいほどの作り笑いをした。

箱の中の子猫は・・・驚くほど小さく、Sサイズの卵2個分くらいしかなかった。

再度、左頭部に鈍痛がする。目の前が瞬く。

失礼にも、箱の中の子猫を「ムギュッ」と、掴む。

弱弱しく泣く子猫と共鳴するように涙がまた淵から零れ落ちそうになる。

「か・・・わ・・・い・・・い・・・?!ちい・・・さいんですね。」

引き渡しの仲介の方が

「いえいえ、この子は兄妹猫の中で1番身体が大きかったんですよ!

本当は、1番小さい子の引き渡し予定だったのですが、この子の受け取りの方が、

この子の引き取りを辞退されまして。身体の大きさがあんまりだったみたいで・・・。

チェンジすることになってしまいまして・・・。すみません。」

律儀に頭を下げる仲介の方。私の闘志は消え切ってなかった。

「勝利はわが手の中にあり!」

身体が1番デカいとなれば、お腹の中で他の兄妹よりお母さんの養分を

吸っているはずだ!

まだ、この子の未来は続いている!

後は、後は・・・私の体力次第だ!

数時間の仮眠をとろうと横になると律儀に1時間起きに泣く子猫。

余力のある私は、サッとミルクを作りトイレを済ませ、ミルクを上げては箱に戻す。

これを、高速をかっ飛ばしながら帰宅する車の中でも繰り返した。

クタクタの私に、ミルクを欲する子猫。イラつきはしなかったが、自宅に近づくにつれ、

不安が私の心を強風でバサバサ揺れる暖簾の様に思い切り心の窓を叩きつける。

「着いた・・・」

道中一睡も出来ない状態で、子猫を胸に抱き続けようやく我が家に。

子猫を胸に抱いたままヨロヨロと自室へ急ぐ。自室には、今は亡きスコちゃん
(スコちゃん関連の作品も公開されていますので気になった方は是非チェックを!)

が、ロフトベッドの上でヨレヨレの私を見て

「まぁた、具合悪いの?おねーちゃんって、万年体調不良だよね~」と、

毒づくとともに、胸に抱かれている卵2つ分の子猫を見て一気に緊張が走る。

「連れて帰って来ちゃった・・・えへへ。」

スコちゃんは、目をまん丸にしてこちらを凝視する。

私は、ロフトベッドから下ろしておいた布団にダイブ。一瞬にして睡魔に襲われるも、

子猫の鳴き声で飛び起きる。時間的には、5分も寝ていない。でも、体感では、

数時間寝ていたような、そんな錯覚に陥るほど私は、疲れ切っていた。

子猫の世話を終え、ヨタヨタとロフトベッドの階段を登り、

スコちゃんの頭を優しく撫でる。これから待ち受けている生活の変化やスコちゃんや

他のニャンズとの関係に動かないカラカラの頭の中で運命のサイコロをいきなり振られたような、そんな音が響く夕焼けがキレイな始まりの日でした。

「ニャッ・・・ニィ・・・。」

またか。

鉛の様な体を起こしケトルのスイッチを入れてお湯を沸かす。

哺乳瓶に少量の粉ミルクを入れ、おしりを刺激しておしっことウンチを促す。

背後で「カチンッ」と、ケトル大王の許可が下りる音が深夜2時を過ぎたころの

部屋に響き渡る。

「早く、離乳食食べれるといいのにな~」と、

夢物語に近い言葉が疲弊しきった私の口からスルスルと出てくる。1週間!いやぁ・・・1週間半!

この峠を越えれば、滅多なことでは死なない。私の経験上。

離乳食さえ始まれば、あとは一気にこの子が「成長」の階段を駆け上るだろう。

「あっ!ちー!また、やっちゃったよ・・・」

疲弊しきるとはこういう事か。と言うのを体現している最中の決まり文句(?)の

ような言葉だ。また、ケトルのお湯を哺乳瓶に上手く入れられず両腕にザバン。

睡魔によって腕の色さえ分からなくなっていた、誰に見せるわけでもないが、凄まじい色の腕だったようだが・・・そんなことは問題にならないほど疲れ切っていた。

睡魔や疲れから手元が何度も言うことを聴かない。

でも、腕を冷やすほどの時間はない。ジンジンする腕で子猫にミルクを与える。

正直、あの時のことを今現在思い返すと、

「良くメンタルや身体が持っていかれなかったなぁ・・・。

若いって素晴らしい!お風呂やトイレ、食事の記憶が全くない。

四苦八苦とはこのことか!」

と、思う。日に日に子猫の成長が早まる。私の中の枯れ切った心身に子猫が、水を

与えてくれる。1時間起きの授乳から、どんどん間隔が伸びてゆき朝4時から8時までの

4時間を起こされることなく寝れた時は、歓喜した。

「やったぞ!やったぞ!子猫!」

仮眠後に子猫の顔を眺めて

「名前が必要だね。可愛らしい顔つきに、私の見立てでは“女の子”だと思うから・・・

私の名前の「鈴」は、使いたいね。そうだ!子育てでゆっくり草花を見る暇がなかったから、「花」を入れるのはどうだろう?・・・・・・。

花に・・・鈴・・・か・・・すず・・・!かりん!なんてどうでしょう?!

花の様に可憐な、鈴のような涼やかな子になって欲しい!

花鈴(かりん)―、名前が決まったよ~!

あなたのお名前は、

「花鈴(かりん)」

だよ~。女の子らしい名前でいいねぇ~、カリちゃーん。ウフフ。」

後に、この名前が物議をかもすことをこの時の私は、微塵も感じてはいなかった。

花鈴は、順調に成長し月齢通りに体がシッカリしてゆき、ヨタヨタと歩き出したり、

目が開いてクリクリなお目目でこちらに歩いてくる。何かある度に、私は花鈴の

名前をしつこく呼び続けた。1週間半を超えるか超えないかのさかいから、

待ちに待った「離乳食」が、始まった。「食べたい欲」が、すごいカリ(名前以下略)。

母がカリを抑えて、小さなスプーンで離乳食を運ぶ私に

「そんなにトロいんじゃ足りないよ!もっと!もっと!カリは、食べたいのさ!」と、

顔を離乳食まみれにしながらスプーンに食らいつくカリ。

あまりにも私がトロかったのか、勢い余ったカリが、自分の頬に爪を引っかけてしまい

膿んで病院に行ったくらいには大飯ぐらいに成長しました。

離乳食を食べすぎてお腹が重くて踏ん張るカリに大笑いしたり、ロフトベッドに上って、

スコちゃんに怒られたりと、どんどん成長していくカリ。

現在17歳のおばあちゃん猫のエビネと今は亡きモクレンの間に挟まれ日向ぼっこを

楽しんだり。一時我が家は、天気が良いとエビちゃんとカリとモクちゃんが並んで

窓際で日向ぼっこをするので、それを見つけたご近所さんが携帯やカメラなんかで

撮影するくらいには人気スポットになっていました。懐かしい思い出です。

優しく慈愛に満ちたモクレンが、老衰でこの世を去り悲しみに包まれる我が家には、

しんみりとした重い空気が流れる。カリも大好きだったモクじぃが、急に居なくなったことに不安がるそぶりをやや見せるも、子猫と言うのは3分とも記憶が持ち合わされないようだ。外の風に揺れる葉にウキウキしていた。

今のカリも、小さい頃のカリもあまり変わっていない・・・という、真実。

身体がデカくなっただけで、何一つとして変化がない。

いつも楽しそう。ポーっとしていて、カリの目にはこの世界がどう見えているのか・・・

知りたいと本気で思っているくらいです。

8キロ越えのデカい猫だが、気持ちは子猫の頃のまま。

ゴミ捨てに行くとテラスから根性の別れとでもいうような大声で泣き叫ぶカリ。

私がトイレから出るのが遅いとドアの向こうで叫ぶカリ。

おやつが欲しいとどんな時でも、容器を落としておやつを獲得しようとするカリ。

私が起動不可で横たわっていると「おーい!大丈夫か~?」と、前足でおでこを

カキカキするカリ。

涙に暮れてる私に静かに寄り添ってくれるカリ。

もちもちの真っ白なお腹を差し出して「充電してく?」と、ゴロゴロするカリ。

おねーちゃんが、お風呂上りに抱っこしないと部屋には来てくれないカリ。

おねーちゃんそっくりな忍耐強さがあるカリ。

食いしん坊のカリ。甘えん坊のカリ。

そして、

私を・・・おねーちゃんを「信頼して好きだと思ってくれているカリ」。

そう思っていてくれたら・・・いいなぁ・・・。

さて、花鈴4歳の記念作品でしたが、どうだったでしょうか?

多方面でカリのお話しを書くことはありましたが、今回の作品の様に

「おねーちゃん」の気持ちの移り変わりと言うものを書いたことがなかったので、

とても新鮮でした。信じられないですよ、カリが4歳になるだなんて。

「昨日、うちにやって来た子猫」感覚が、抜けきっていないのです。

人間の寿命よりはるかに短いこの子たちが、いかに自分らしい生き生きとした

生活を、天寿を全うするまで送れるようにサポートするか。

それは、私たちの使命だと感じています。

言葉が通じない中での生活で、意思疎通が出来た時の喜びやソファーをガリガリにして

一喝されてもやんちゃ坊主感が抜けないのも今のうちしか体験できない貴重なものだと思っています。

長くなりましたが、ここまでお付き合いいただきまして誠にありがとうございます。

来年の2月に18歳という大台に乗った伝説ばぁさんエビネのお誕生日にも、

記念作品を書く予定でございます。

その時も、元気にみなさんに作品を届けられるように精進致します。

では、また!元気でお会いしましょう!

水鈴

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水鈴

初めまして!水鈴と申します。主に、ライティングをしています。 内容は、動物の事、自分の好きな音楽、病気のことまでマルチに 活動していきます。宜しくお願いします。

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