わたしが尊敬している職業シリーズ「美術修復士」のこと。

私たちが今、ずっと昔に描かれた名画を当時の美しさで観られるのは、当たり前でもなく、奇跡でもなく、過去をそのまま今に伝える役割のある職人たちのおかげだ。


たとえば、ルネサンス期にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた傑作『モナ・リザ』(1503~06年?)は、今でもフランスのパリにあるルーブル美術館で、私たちをその魅惑的なほほ笑みで魅了している。

☆自分が見た通りに描く、本物志向だったダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の人物の部分は「スフマート法」(ダ・ヴィンチの独特の「ぼかし技法」)を用い、顔などの輪郭線を描かずに目元や口元がぼやけた黒い陰影によって表されていて、背景の部分は「色彩(空気)遠近法」(現在のベルギー・オランダあたりで生まれた技法で、遠くのものを少しぼやかして描き、遠くのものほど青っぽく描くことで遠くにあるように感じさせるという技法)などが使われている。

でも、実は『モナ・リザ』は世界一有名ゆえ、今までに何回も盗まれたり、酸などの液体をあびせられたり、石などを投げつけられるなどの被害に遭ってきた。そのたびに絵の表面の顔料が剥がれたりなど破損し、みんなが鑑賞できる状態ではなくなった。

レオナルド・ダ・ヴィンチ

美術品や美術工芸品が被害を受けたときに活躍するのが「美術修復士」だ。国宝や文化財だけではなく、地震などの自然災害などで損傷した作品も修復する。

基本的に、資格を持たなくても絵画修復を手がける工房の教室を受講したり、現役の美術修復士に弟子入りして、必要な技術や知識を修得することで「美術修復士」になれる。だが、美術館や博物館に就職する場合は資格を求められることもあるため、正式に資格を取得しておいたほうが有利。(日本で資格を取得できる美術系大学・大学院、専門学校(保存修復科)は限られている)また、西洋美術の本場であるイタリアでは国家資格であったりするので、留学して本格的に勉強するという手もある。

美術修復士」の作業はカビ・ほこりなどの汚れなどを丁寧に取り除くのが基本だが、作品が制作された国、時代、使われた画材によっても修復手法は変わってくる。たとえば、洋画(油彩画)と日本画では、使われている素材や技法だけではなく、高温多湿の日本との気候風土の違いが保存方法に関係あったり、使用する道具も多岐にわたるので、美術に関連する幅広い知識も重要である。
ただ作品を修復するといっても、「絵を描く」のと「絵を修復する技術」は、全く違う。この仕事では、自分を表現することはできない。その作品を描いた画家の思いなどをリスペクトし、破損したところを直しながら、時間の経過とともに出てきた独特の味わいも残しつつ、いかにこれからの劣化の進行を食い止めることも求められる、俯瞰的に過去から現在、そして未来を捉える仕事だ。

それらをちゃんとふまえた優秀な「美術修復士」たちが、初期の修復から「細心の注意を払って」作業にあたった痕跡も確認されているなど、丁寧な作業でつないできたおかげで、制作されてから500年以上経っている『モナ・リザ』は、美術品に関する国際会議(1952年)で「保存状態は極めて良好である」といわれている。そして、最近(2004年~05年)実施された修復でも、「これからも『モナ・リザ』の状態は問題ないだろう」といわれている。

『モナ・リザ』は、第二次世界大戦中には戦禍を避けるため、ルーブル美術館からアンボワーズ城など複数に移された。損壊事件が続いたことで、今はルーブル美術館の温度・湿度などが制御された専用の収納場所で、頑丈な防弾ガラスに守られて公開されている。

美術修復士」たちがこの世にい続ける限り、私たちも、私たちのあとの人々も、完璧な状態の『モナ・リザ』を鑑賞できるだろう。

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パクチー

歴史、絵画・舞台鑑賞なんかが好きな、難病+障がい者の二刀流です。 興味があること、思っていることを書いてみようと思ってるので、 共感できるひと、気になったひと、ちょっと寄っていってください。

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