MMT(現代貨幣理論)から読み解く、お金の歴史と未来

お金とは何か – MMTが解き明かす、お金の本質と社会における役割

この記事では、私たちが日々使用している、社会を動かす基盤である「お金」の歴史をMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)の視点から読み解いていく。過去にも解説したことがあった通り、 MMTは従来のお金の考え方、例えば「政府は家計のように予算制約がある」といった固定観念を覆し、政府の役割や財政政策の可能性を再定義する、世界中で注目を集めている経済理論である。

多くの場合、お金は単なる交換の道具、価値を測る尺度として捉えられがちだ。しかし、MMTは、お金がそれ以上の存在であり、社会システム全体を構築し、動かすための根幹であると主張する。お金は、単なる金属や紙切れではなく、国家の信用を背景に、社会的な関係性を織りなす、非常に強力なツールなのだ。

この記事を読み進めることで、皆さんは、お金の真実の姿を知り、経済や社会に対する見方が180度変わるかもしれない。そして、私たちがどのように経済と向き合い、より良い社会を築いていくべきか、そのヒントを得ることができるだろう。 

では早速、MMTの視点を通して、お金の歴史を見ていこう。

1. 物々交換は間違いだった? – MMTが暴く、お金の起源と信用創造の始まり

従来、経済学の教科書では、お金の歴史は物々交換から始まったと説明されてきた。 人々は、自分が持っている余剰な生産物(魚や野菜など)を、他の人が持っている余剰な生産物(肉や道具など)と交換することで、生活を成り立たせていた…というストーリーである。 しかし、物々交換は、需要と供給が一致し、価値の共通認識がなければ成立しない、非常に効率の悪い交換方法である。 そこで人々は、より便利な交換手段として、お金を発明した、とされてきた。

しかし、MMTはこの物々交換起源説に真っ向から異議を唱える。 人類学的な研究や歴史的な記録を詳細に調べると、物々交換が社会の主要な交換手段であったという証拠は、実はほとんど見つかっていないからだ。 むしろ、古代社会では、贈与共同体内の互助権力者による再分配といった、非市場的な交換が一般的だったと考えられている。

MMTは、お金の起源を負債と信用の関係に求める。 例えば、古代メソポタミアのシュメール文明では、神殿が人々に食料や種子を貸し出し、収穫後に利子をつけて返済させるというシステムがあった。 この貸し借りの記録、つまり債務と債権の関係こそが、お金の原型であるとMMTは考える。 神殿は、粘土板に楔形文字で貸し借りの記録を刻み、これが一種の信用貨幣として機能していた。 つまり、お金は、物々交換の不便さを解消するために生まれたのではなく、社会的な関係性、特に権力と信用の関係の中から生まれたのだ。

この視点は、現代社会にも通じる。 私たちが銀行からお金を借りる時、銀行は私たちの口座に預金を書き込むだけで、新たなお金を生み出す。 これは、信用創造と呼ばれるプロセスであり、現代経済におけるお金の供給の大部分を占めている。 MMTは、この信用創造のメカニズムを理解することが、お金の本質を理解する上で不可欠であると強調している。

2. 税が貨幣を創造する – 国家と貨幣の密接な関係、そして財政政策の可能性

MMTは、国家(政府)がお金を創造する主体、いわゆるゲームマスターであり、がお金に対する国民(プレイヤー)の需要を生み出し、お金の価値を保証する、という従来の経済学とは全く異なる考え方を示している。 これは、租税貨幣論と呼ばれるMMTの中核的な考え方だ。

筆者は過去の記事でモズラーの名刺モデルをもとにしたストーリーを語ることでMMTを解説したことがあったが、ここでも改めて、今度は別な例えで説明したいと思う。

想像してみてほしい。 ある国で、王様が新しい税を導入し、国民に「王様の印章が押された石」を税として納めるよう命じたとしよう。 国民は、この「王様の印章が押された石」を税として納めなければ、罰せられてしまうのだ。 しかし、国民は、この「王様の印章が押された石」をどこで手に入れれば良いのだろうか?当たり前の話だが、国民が勝手に作ることはできない。

政府の役割を担う王様は、この「王様の印章が押された石」を市場に流通させるために公共事業(例えば、道路建設や灌漑工事)に従事させて、その報酬として労働者に支払う。 労働者は「王様の印章が押された石」を受け取り、それを使って食料や衣服など、必要なものを購入する。 無論、公共事業の労働者もお店も後で税金(所得税など)を納めることになる。こうして「王様の印章が押された石」は、経済全体に流通し始め、お金としての役割を果たすようになるのだ。

この例えからも分かるように、税は、お金に対する需要を生み出し、お金の価値を保証する役割を果たすんだ。ここでのお金は「王様の印章が押された石」なので、勝手に外国のお金を使って取引することはできない。できたとしても後で国内の流通貨幣である「王様の印章が押された石」で税金を納めることになる。これが先に説明した”お金に対する需要”だ。

国民は、税を納めるために、国家が発行するお金を必要とする。 MMTは、このメカニズムを理解することで、政府の財政政策の可能性が大きく広がると主張しているのだ。

MMTによれば、政府は自国通貨を発行する能力を持つため、財政赤字を過度に恐れる必要はない。 政府支出は、民間部門にお金を供給し、経済活動を活性化させる役割を果たす。 例えば、政府が公共事業を増やせば、労働者の所得が増え、消費が拡大し、経済全体が成長する。 ただし、過度な通貨発行はインフレーションを引き起こす可能性があるため、注意が必要だ。 MMTでは、インフレーションを抑制するために、財政規律ではなく、需要と供給のバランスを重視することになる。

3. 貨幣の階層性 – 信用創造と金融システム、そして金融政策の役割

MMTは、お金には階層性があると指摘する。 最も上位にあるのは、国家が発行する貨幣(日銀当座預金と現金)であるこれこそがマネタリーベースと呼ばれるものであり、別名、ベースマネーまたはハイパワードマネーとも呼ばれ、最も信頼性の高いお金だ。

その下に、銀行預金企業の発行する社債個人の借用証書など、様々な信用貨幣が存在する。 これらの信用貨幣は、国家が発行する貨幣に対する請求権であり、その価値は発行体の信用力に依存する。

銀行は、貸し出しを行う際に、預金者の口座に新たな預金を書き込むことで、信用創造を行う。 これは、銀行が預金を集めてそれを貸し出すのではなく、貸し出しによって預金を生み出すということを意味する。 この信用創造のプロセスを通じて、経済全体の貨幣供給量が増加するのだ。

しかし、銀行の信用創造は、景気変動を増幅させる可能性もある。 好況時には、銀行は積極的に貸し出しを増やし、経済を過熱させる。 一方、不況時には、銀行は貸し出しを抑制し、経済をさらに悪化させる可能性がある。 このため、MMTは、政府が金融政策規制を通じて、銀行の信用創造を適切に管理し、金融システムの安定性を維持する必要があると主張する。

例えば、中央銀行は、政策金利を調整したり、預金準備率を変更したりすることで、銀行の貸し出し行動に影響を与えることができる。 また、政府は、金融規制を通じて、銀行の過度なリスクテイクを抑制し、金融システムの健全性を保つことができる。

4. 金本位制の終焉と管理通貨制度 – 政府の役割の拡大と財政政策の重要性

かつて、多くの国は、お金の価値を金(ゴールド)の量で保証する金本位制を採用していたことは、ご存知の通りだろう。 金本位制の下では、通貨の発行量は金の保有量によって制限されるため、政府が自由に通貨を発行することはできなかった。 これは、政府が財政政策を通じて経済をコントロールする能力を制限してしまう、非常に不自由なシステムである。

しかし、20世紀に入り、世界恐慌や二度の世界大戦を経て、金本位制は徐々に崩壊していく。 各国は、経済危機に対応するために、金本位制を放棄し、自国通貨を自由に発行できる管理通貨制度へと移行していった。 1971年のニクソン・ショック(アメリカのニクソン大統領がドルと金の交換を停止したこと)は、金本位制の終焉を象徴する出来事であった。

管理通貨制度の下では、政府は自国通貨を自由に発行することができる。 これにより政府は、財政政策を通じて経済を安定させ、完全雇用を達成する役割を担うことができるようになったのだ。 MMTは、管理通貨制度の下での政府の役割を非常に重視している。

MMTによれば、政府は、財政赤字を恐れずに、積極的な財政政策を行うことで、経済を安定させ、国民生活を向上させることができると主張する。 例えば、政府は、公共投資、社会保障、教育、医療などの分野に積極的に支出することで、需要を創出し、雇用を増やし、経済成長を促進することができる。 ただし、財政政策は、インフレーション資源制約(天然資源、人的資源は有限である)を考慮しながら、慎重に行う必要があることは確かだ。 MMTは、機能的財政という考え方を提唱し、財政政策の目的は、いわゆるプライマリーバランスの黒字化のような財政収支の均衡ではなく、経済の安定と完全雇用の達成であると主張している。

5. デジタル通貨の登場とMMT – 新たな金融の可能性と課題、そして未来の貨幣

近年、デジタル通貨が急速に普及し始めている。 ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)、Facebookが計画していたLibra(後に※Diem)のようなステーブルコイン、そして各国の中央銀行が研究開発を進めている中央銀行デジタル通貨(CBDC)など、様々な種類のデジタル通貨が登場している。Diemは2022年1月31日にプロジェクトの解散を発表している

デジタル通貨は、決済をより迅速、容易、安価にし、国境を越えた取引もスムーズにする可能性を秘めている。 また、金融包摂を推進し、これまで金融サービスを利用できなかった人々にも金融サービスを提供できる潜在力を秘めている。 さらに、スマートコントラクトなどの技術を活用することで、金融取引の自動化や効率化も期待されている。

MMTは、デジタル通貨の登場を、貨幣の進化の新たな段階として捉えている。 中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)は、政府の財政政策の有効性を高める可能性があると期待されている。 例えば、CBDCを使えば、政府は国民に直接給付金を支給したり、特定の目的に限定した資金を提供したりすることが、より簡単かつ迅速に行えるようになる。デジタルデータである貨幣は追跡可能であるため、ロールバックが可能だ。つまり、特殊詐欺などの犯罪が難しくなるというメリットもある。

一方で、デジタル通貨には、セキュリティ、規制、プライバシー保護、金融システムの安定性など、克服すべき課題も多く存在している。 また、デジタル通貨が既存の金融システムや通貨制度にどのような影響を与えるのか、まだ十分に予測できない部分もある。 MMTは、デジタル通貨の発展を注意深く見守りながら、その潜在的なメリットを最大限に活かし、リスクを最小限に抑えるための政策提言を行っていく必要があると考えている。

まとめ. MMTの視点からお金の歴史を学ぶ意義 – 過去、現在、未来をつなぐ新しい経済学

MMTの視点からお金の歴史を学ぶことは、従来のお金の考え方を根本から問い直し、経済や社会に対する新たな理解を深める上で非常に重要である。ここまで読んで、 MMTがお金の起源、国家と貨幣の関係、信用創造のメカニズム、政府の役割、そしてデジタル通貨の可能性について、従来の経済学とは全く異なる理論であることが分かったはずだ。未だ理解できないという人でも、説得力のある視点であることは見てとれたのではないだろうか。

読者は、以下のことを念頭に学んでいくと、MMTをより理解し易くなるはずだ。

  • お金が単なる交換手段ではなく、社会システム全体を構築する基盤であること
  • 国家(政府)がお金の発行者であり、がお金の価値を保証すること
  • 銀行が信用創造を通じてお金を供給していること
  • 政府は財政政策を通じて経済を安定させ、完全雇用を達成する責任があること
  • デジタル通貨が金融の未来を大きく変える可能性を秘めていること

MMTは、まだ一般にはあまり浸透していない理論であり、様々な批判や議論もある。 しかし、現代貨幣理論が提示する新しい視点には、私たちが経済や社会の課題を解決し、より良い未来を築いていくための、強力な武器となる可能性が秘められている。 お金は、単なる買い物ツールではなく、過去、現在、そして未来をつなぐ、社会を理解するための重要な要素なのだ。 MMTのレンズを通して、お金の歴史を学び、未来の経済を共に考えていこう。より公正で、より豊かな社会を築いていくために、新しい知見を活かしていくことが、私たちに求められているのである。

  • 0
  • 0
  • 0

青山曜

過去には経済やお金に関するコラムを中心に書いていました。現在は英語学習系の記事やコラムを執筆中です。一緒に楽しく勉強して行きましょう!

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内