真のジャーナリズム(中編)

私は仙台に戻るなり図書館へ出向き、例の本を検索した。

あった。

早足で3Fへ登りその本を自動貸し出し機でバーコードを読み取り大事にバッグにしまった。

その日は作業所の通所日だったためいつも通り2時間作業し、はやる気持ちを抑え自転車で家路に向かった。

落ち着いてしっかり読みたかったので集中力が高まるのを待ってから1/3ほど読み進めた。

なんと言葉で表したらいいか…

愕然とした。

ショックだった。

こんなことが公にされず社会の闇に隠れていたことに。

悲しみというより虚しさの方が大きかった。

あと2/3、この濃すぎる内容を私の極小キャパは受け止められるだろうか…

-殺人犯はそこにいる-

「殺人犯はそこにいる」

それがこの本のタイトルだ。

ジャーナリストの清水潔さんが書いたもので、清水さんが取材した数々の事件について赤裸々に書き綴っている。

メインとなるのは清水さんが独自に題した”北関東連続幼女誘拐殺人事件”のうち足利事件の容疑者となり、のちに冤罪を勝ち取った菅家利和さんについて。

そのほか足利事件と関連させて

  • 桶川ストーカー事件
  • 死刑判決で初めて再審無罪となった免田事件
  • 無実の可能性が極めて高かった飯塚事件

も取り上げている。

この書籍が世に出なければ知れることのなかった

国家権力を利用した行使と警察の保身、隠蔽、ずさんな捜査、虚偽の申告、決めつけ、追い込み、暴力、からの誘導尋問など

司法の闇という闇を目の当たりにした。

⚫︎足利事件

容疑者として逮捕された菅家利和さんは、突然刑事が自宅に入り込んできて「お前子供を殺したな」といきなり怒鳴られ有無を言わさず署に同行させられる。

狭い取り調べ室の中で机の下ですねを蹴られ髪の毛を引っ張って「馬鹿面しているな」と暴言を吐き、菅家さんの大人しくて人に逆らえない人となりをいいことに徹底的に追い詰め自供に誘導させた。

⚫︎免田事件

免田栄さんも同様、拷問のような取り調べを受け「この野郎ヤキを入れてやる」と脅しにも似た言葉の暴力。

殴る蹴る髪の毛を掴んで引きずり回す。

うしろ手錠で正座させられ、警棒でそこかしこをど突かれる。

二日間食事も与えられず寝ることも許されなかった。

やがて痛みと寒さで朦朧となり、自供させられる。

今でこそ取り調べのルールは人権を尊重した上で行われているのだろうが、それにしてもその箇所を読んだときは反吐が出そうになった。

ちなみに菅家さんは逮捕後家族へ

「あと一回税金(2000円)が残っておりました どうかよろしくお願いします(市役所に)めいわくかけますがどうかよろしくお願いします」

という文面の手紙を送っている。

幼女を殺害した容疑者と思われる人間がわずか2000円の税金の滞納の心配…

心臓がギュッと掴まれ苦しくなった。

菅家さんの父親は菅家さんが逮捕されてから二週間後にショックで病をこじらせ亡くなった。

菅家さんとその家族は菅家さんの誤認逮捕により一夜にして人生をめちゃくちゃにされた。

菅家さんをこんな目に合わせた全ての連中を同じ目に合わせてやりたい。

そうしないと到底相殺できない。

⚫︎桶川ストーカー事件

被害者となった猪野詩織さんはストーカー被害で頼みの綱の警察にすがるような思いで告訴状を署に提出する。

しかし署は未処理の告訴件数と成績を気にしたためにその告訴状を被害届に改竄。

詩織さんの渾身の訴えは私的で身勝手な理由のために揉み消され、署に見放され詩織さんはその後殺害された。

⚫︎飯塚事件

危うげなDNA型鑑定の鑑定写真を科警研は真犯人の型であったかもしれないを部分をトリミングして法廷に提出。

トリミングした部分は全量消費して二度と鑑定できないようにして事実上証拠は消滅。

久間三千年さんは逮捕から一貫して容疑を否認していたが無念にも2008年に死刑が執行された。

死刑執行ののちも久間さんの名誉挽回のために弁護団と久間さんの妻は再審を請求している。

三十四年ものあいだ拘置所の中をその目で見てきた免田栄さんによると無実の罪で死刑になった人間が何人もいると出所後語っている。

なぜ冤罪が起きるか、それは大きな事件を解決すれば警察官に賞状や賞金が出て出世もできるからと。

はぁぁ?なんだそれは…?腐れデカ◯ねよと中指を立てていたが、読み進めれば読み進めるほど私は怒りを通り越し死んだ魚の目になっていく。

どうやらこの国のお上は正義よりもメンツとプライドが大事らしい。

そしてお上が黒と言えば黒となるシステムらしい。

不思議だ。

官僚の人たちはそもそもなぜこの仕事に就こうと思ったのか。

国民の安全を守るため正義の下に悪を罰し秩序ある国作りをしようと希望に満ち溢れていたはずではなかったのか。

それがいつしか長いものに巻かれ、暗黙のうちに官僚のシステムに毒されなければ組織の中で生きていけなくなった。

そういうことなのか。

私はこれらの事件を自分たちの都合のいいようにでっち上げ、あたかも事実であるかのように報道させる官庁群に心底失望した。

結果だけを書いているがそこまでいきつく過程は読むに耐えないほどずさんな捜査だ。

1ページ1ページめくるごとに信じられない事実が目に飛び込んでくる

一体”捜査”とはなんなのか…?

先入観を全て取り去り綿密な捜査を緻密に行いその都度裏を取り初めて真実が浮かび上がるのではないのか。

専門家でもなんでもない、むしろ犯罪云々に疎い私でもそれぐらい基本中の基本なのではないかと思うのだが。

小さい子供はおまわりさんはカッコいい正義の味方だと思っている。

私にも小学2年生の子供がいるが、幼稚園のバス待ちでパトカーが偶然通りかかった際におまわりさーん!と嬉しそうに走ってパトカーを追いかけて行く子供たちの姿が無邪気で微笑ましかった。

パトカーの中からおまわりさんも子供たちに手を振ってくれた。

この夢を壊してほしくはない。

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chiho

自分の感性に従いエッセイ風になぞらえて気持ちを吐露します

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