真のジャーナリズム(前編)

-始まり-

十年ほど前になるだろうか、私は地元岩手のとある書店でひときわ目を引くブックバーがかけられた文庫本を見かけた。

大々的に平積みされていたその本のカバーは、岩手県盛岡市の駅ビルフェザンのさわや書店文庫本担当の長江さんという方が書いたものでカバー全面に自らの文字でこの文庫本をアピールしていた。

長江さんのどうか一人でも多くの人に読んでほしいという願いがビシビシ伝わる文面と単に販売目的だけではないとわかるほどの強い熱意を感じるものだった。

書店の前を通りかかった私は他の書籍とは明らかに異なるインパクトと謎めきを放つその文庫本が気になりながらも、急いでいたので手に取ることのできない悔しさを残しながら通り過ぎた。

その文庫本のカバーには文庫本Xと題されているだけで本来のタイトルと著者は伏せた状態で販売されていた。

「こんな売り方してる文庫本初めて見た…なんなんだろう気になる…」


令和7年、私は年始の休みを利用して実家に帰省していた。

実家というのは一日も経つと暇なもので滞在中の三日ほど経った頃に少し夜の街に出向きたくなった。

20時くらいに家を出て、一度行ったことのある雰囲気がよくて料理が美味しいバーに子供も一緒に連れて行くことにした。

美味しいお酒におつまみ…とウキウキしながら実家から歩いて10分ほどのそのバーへ向かった。

オシャレで雰囲気のいいそのお店のマスターは子連れの私が入店してテーブルにつくなり、モンスターズインクでも見る?とカウンターの上に備え付けてあるTVのチャンネルを変えようと気遣ってくれた。

ケータイでもいじってますから大丈夫ですとお気持ちだけは受け取り、娘はマンゴージュース私はジントニックをオーダーした。

ライムの効いたジントニックは日頃の疲れを癒すように身体中に染み渡った。

テーブルの横にある小窓には文庫本や漫画本や占い本などが並べてあり、おつまみが出来上がるまでそれらを手に取りパラパラと眺めていたがある文庫本を手に取った瞬間ハッとした。

これ…あの時の…とその文庫本を握りしめジッと眺めた。

ドキドキしながら読み進めるとどんどん引き込まれ、私の興味のある分野だということがわかった。

現在では当時のカバーの上から本来のタイトルと著者も上書きされていた。

10ページほど読み進めたところでせっかく娘とバーに来ているのだから楽しまないとと一旦本を棚に戻し、お酒と料理そして娘との会話を楽しんで店を後にした。

私は決めていた。

帰ったら図書館で借りてしっかり読もう。

これは記事の題材になるかもしれない。

私は冷静ではいられなかった。

10年ぶりにこんな予期せぬ場所とタイミングであの謎の本に再開した…

アドレナリンが出まくっていた。

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chiho

自分の感性に従いエッセイ風になぞらえて気持ちを吐露します

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