数年前、カウンセリングを予約した所へ向かったときのこと。最寄り駅に着いた時点で、指定の住所をスマートフォンの地図アプリに入力し、それを頼りに、駅から目的地へ徒歩で進むだけで全然迷わずに済んだ、が、到着した先はどこか見知ったマンション。
一階にはカレー屋。そして地下へと続く階段を下れば、真っ暗なスタジオがあるはずだ間違いない。およそ十年前、先輩が所属する劇団サークルのお芝居を観に、訪れた記憶が色鮮やかに蘇って来る。道中気づかなかった私も私だが、このような偶然が起こり得るのだろうかと驚愕した。気持ちが浮かれて相談どころではなかった。
生粋のインドア人間なので、外出先でのこのような現象は稀で、新鮮だ。
普段の行動範囲が狭い分、偶然が際立つ。認識の母数が多くなると、偶然も増えるがきっとその分、感動が減るだろう。極端な言い方をすると日本に住む人皆知っていたら、誰とどこで会っても、お隣さんの姿を家の庭から見かけるような日常的に近しい感覚で済んでしまうわけで、それではなんだか味気ない。繰り返しにくい予期せぬ出来事だから心に印象を与えるし、そしてその、刺激から縁や運命めいたものを感じるので。