妹は出張が多い。突如、小岩井農場の牛乳の写真が送られてきたので岩手にいると思い込んでいると翌週には厳島神社を観光した際の写真が送られてくる。そのうちまた広島には行く、とはお土産を持ってお盆に実家へ帰ってきたときに聞いた。妹は一泊したのち仙台へ戻った。私は、翌日は朝から用事があったので、帰ってきたその日の午後だけ少し話した。
母も私も、妹が帰ってきて真っ先に言ったのが「どうして空港にナイフを持っていけると思えるんだ」だった。怒るを通り越して、呆れていた。出張前、仙台空港で手荷物検査に引っかかったと家族用のグループLINEに着信が入った。ソムリエナイフはだめみたい、と。ソムリエナイフに聞き馴染みがなかったのでその場でスマートフォンで検索をかけると、ボトルの口に引っかけるフック、コルクを抜くための螺旋状の部品らが折り畳み式のナイフと一体となった写真が現れ、さらに落胆した。ペーパーナイフのような刃物と扱うべきか悩ましい境界に立っているわけでもなく、普通に、刃物の持ち込みだ。
妹は酒好きだ。もっと言えば、彼女は地酒を最短で飲むために持ち歩こうとしたのだ。私は経験がないのでわからない領域だけれども、出張は普段の生活や職場から離れ、新しい環境に身を置く機会。知らない土地での食事や文化との出会いが遠足と近しい気軽さや楽しみを生むにしても……本当に、どんな気分で鞄に詰めたのか。
このような慣れない不安がない、どころか、むしろ楽観視して自分を貫けるところが妹と相容れない。そんな性格だからこそ出張の連続でも耐えられるとは思う、私だったら胃が休まらないので。
今はもう北海道にいる。寒かったら現地で買うからといい、ぺらぺらのシャツ一枚で向かった。ナイフを準備できるのに服をどうして事前に準備できないのよと内心ツッコむ。
