焼きそばを地球最後の日に食べるのか?

No.2(2025年11月10日)

 いつかそんな日がくるのだろうか。「あなたは地球最後の日になにを食べる?」。もちろんそんな日はこないほうがいいし、地球最後の日に飲食店が営業しているのか、スーパーで買い物できるのかはわからない。それでも、そんな突拍子のない質問を考えたことはあるだろうか。双璧なのは「無人島になにを持っていく?」。この質問に『四次元ポケット』っと答えるのはズルい気がするが……。

 さて、冒頭の質問に戻ろう。あなたなら何を食べるのか。

 わたしも考えたことがある。好きな食べ物。しゃぶしゃぶ、寿司、いちご、メロン、ケンタッキー・フライド・チキン……。嫌いな食べ物もない食いしん坊なので、考えれば考えるだけいくらも浮かんでくる。しかしいま、順位がぐーーっと上がってきた食べ物がある。それがタイトルの「焼きそば」だ。

 想像してほしい。いまあなたはホテルのディナービュッフェにいる。豪華な料理たちが端から端まで並んでいる。ここでは料理人が目の前で温かい料理を提供してくれる。真っ白な食器の高さに、胃袋のテンションも上がっていく。

 ……しかし、だ。豪華なビュッフェにきても庶民だ。きっとわたしは焼きそばを大皿の端っこに置いてしまう。ローストビーフ、蒸したての小籠包、揚げたての海老の天ぷら。ズワイガニだっていい。パフォーマンスのいい料理はいくらでもある。気持ちのままに自由になれる。それでもきっと、大皿の端っこに唐揚げやパスタ、フライドポテトなどを無意識に選んでしまうもので、慣れ親しんだ「おいしい」とは恐ろしい。

 一言で焼きそばといっても、いろいろな種類がある。王道のソース焼きそば。カップ焼きそばならわたしは『一平ちゃん』の塩味が好きだ。ナンプラーの効いたタイのパッタイ風の焼きそばもたまに食べると美味しい。海老を入れたら間違いない。屋台の焼きそばも美味しい。香ばしいあの匂いはお祭りの主役だ。

 そこに目玉焼きが乗ったらどんなに良いかと思う。

 子どものころ、ちゃぶ台にホットプレートを置いて作っていたわが家の焼きそば。家族全員がそろう土曜日や日曜日は焼きそばの日が多かった気がする。わたしの両親は宮城県石巻市の出身で、石巻市には麺を二度蒸ししたローカルフード『石巻焼きそば』がある。その特徴が目玉焼きだ。そのためだろうか、子どものころはホットプレートを半面空けて必ず目玉焼きを作っていた。目玉焼きを作るためにさっさと焼きそばを取り分けろとさえいわれた。そこで作るカリカリの目玉焼き。余りのくっ付いたそれを焼きそばの上に乗せれば完璧な焼きそばが出来上がる。

 わたしが目玉焼きが乗っていない焼きそばを寂しく思うのはきっとそんな原体験の影響だった。

 思い出の焼きそばといえばもう一つ。わが家には定番の焼きそばがある。納豆焼きそばだ。具材は納豆とゆでた刻みオクラ。さすがにそれは大きなホットプレートでは作れないのでフライパンで作る。味付けは納豆に付属するタレと足りない分はめんつゆ。味の素で整えたら完成だ。関西の方には嫌われるかも知れない。だが意外とこれも食欲をそそる匂いがする。好みでもやしなどを入れても触感がよくなる。母がたまたま、どこかで見つけたレシピを試したのがきっかけだったと思う。

 そういった家庭の思い出も含めて、やっぱり焼きそばが好きだ。スーパーのお弁当売り場では、わたしはかつ丼とソース焼きそばの二択で悩んでいる。コンビニや冷凍食品も便利だが、やや味が濃い。実家では粉末ソースが3つ付属していれば2つしか使わず、その分具材を炒める時に塩コショウをしっかり利かせて水分も飛ばす。粉末ソースがない時、安くなった蒸し麵だけを購入したときは中農ソースとお好み焼きソースを合わせて使う。そういった工夫も家庭の味だったのかも知れない。

 地球最後の日はどうか。わたしはマンションのキッチンで、自分で焼きそばを作るかも知れない。ついにきてしまった地球最後の日の台所。テレビはにぎやかだろうか。テレビは映るだろうか。食べおわれば洗わずに放置した、それでもあしたがあると信じて、習慣で水に浸けたソースのお皿がシンクに置かれているのだろうか。もしほかに一緒にソース焼きそばを食べてくれる人がいたら一緒に食べてほしい。その時はホットプレートで作ろう。その時は地球最後の記念に、目玉焼きを乗せることを許してほしい。丸くて綺麗な目玉焼きを。

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われモコ

われモコ。お腹は三段にわれている。宮城県在住。1989年生まれ。女性。精神疾患あり。だけど元気がとりえ。趣味は古着と料理。現在子育て中。エッセイ、コラムを中心に活動をしながらタイピングスキルのアップと、パソコンに慣れていくのが目標です。アイコンのイラストはサインペンとクレヨン、色鉛筆で作りました。頭に乗っているのは息子的なマスコットのひよこです。

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