中国茶とコーヒーと、

No.4(2025年12月22日)

 めっきり寒くなり、本格的な冬になろうとしている。

 毎年この時期の服装がわからない。記憶はどこに仕舞ったのか。去年どんなコーディネートをしていたのか、クローゼットをひっくり返してもちんぷんかんぷんだった。たぶんスウェットにジーンズ、オーバーサイズの上着などの楽な服装だったが。本当に去年もそうだったのか定かではない。

 さて、こうして寒くなると温かい飲み物がほしくなるもので、わたしもお湯を沸かす回数が増えた。朝早くに起きて電気ポットに水を入れ、ブレーカーに気を付けながらお湯を沸かす。服装を思い出せなくても、去年よくブレーカーを落としてしまったことは覚えている。朝のピークタイムには気を付ける。

 今回わたしは好きな飲み物の話をしたい。とくに温かい飲み物についてだ。

 わたしがハッキリと「この飲み物が好き」と思ったのは中学2年生で出会った中国茶『黄金桂特級』だと思う。いまはお茶の専門店も増え、コンビニでも色々なお茶を買える。わたしが中学生だった2000年ころよりは、茶葉や産地にこだわる人もそれだけ増えたのだろう。数年前にはステイホームなんてこともあったことだ。

 わたしの母は派手な値引きのシールに弱かった。「よくわからないけれど値引きされてるから普通じゃ買えないよいものが買える」という感覚で、“よくわからないけれど”いろいろ買ってくる。それは大体評判も聞かない期間限定のお菓子などのことが多いが、その時は茶の間の小さな戸棚に見慣れないお茶があった。それが中国茶の『黄金桂特級』だった。

 少なくともわたしの母はお茶にこだわりがなかった。若いころにバブルを経験している割には化粧っけもない地味な人で、紅茶=イギリスの百貨店のがよい物らしい、ぐらいの知識はあっても普段飲むのは日東紅茶のデイリークラブだ。それも土日にちょっといい洋菓子を買えた時しか淹れないので、1年がかりで飲まれるためにほとんど湿気っていたデイリークラブ。「そのお茶筒はウーロン茶よ」といいつつ長年プーアル茶が入っていたりもした。それだっていつ買ったのか、頂きものなのかもよくわからないプーアル茶だった。1960年代生まれの古い人なので、中国のお茶はみんなウーロン茶ということになっていたのだ。

 そんな母なのにどうして『黄金桂特級』などを購入したのかはわからない。きっと安かったから、それだけなのだ。思春期になったわたしがどうして最初にそれを飲んだのかもハッキリは覚えてないのだが、きっと年頃だったのだ。夜落ち着かなくていい飲み物がないか探していた時。母によさそうなお茶があるといわれて飲んでみた気がする。確かによいお茶だとすぐにわかった。

 淹れ方もなにもわからないので急須でテキトーに淹れたにも関わらず、そのお茶はとても透明感があり、それでも味が薄い訳ではなくとてもいい香がした。あとで調べてみると桂=桂花というのは『金木犀の花』を表しているらしい。水の色も金色で本当にいいお茶だったと記憶している。

 その当時わたしは少女漫画『紅茶王子(山田南平/白泉社)』を読んでいたのでその影響も強かった。外には寒空に綺麗な月が出ており、中学生のわたしはすっかり酔っぱらっているようだった。

 それから仙台の書店をいくつかまわって中国茶の本を探した。お茶の知識もその時それなりに増えた。それほどお小遣いはなかったが、茶器も石巻の老舗の瀬戸物屋でねだってどうにか集めた。中国語ができれば将来中国茶専門のカフェを開けるんじゃないか。そんな発想でどの本がいいのかもわからないまま、CD付きの中国語の本も買った。中国語に同じ読みでも4つの発音があることぐらいは最初のページで覚えた。

 ただ結局、中国茶のマイブームも高校生になり、急激に冷めた。新しい家に引っ越して自分の部屋ができて、激しい烈火のような思春期を迎えた。わたしは母のいる1階のリビングでお茶を淹れることもなくなったし、意味不明のままだった中国語の本を開く気力もどこかへ行ってしまった。あれは引っ越しの時に古い家にそのまま置いてきたのだろうか。あのまま中国語をマスターしていたら、なかなかデキるオンナになれたのに。

 次にわたしの中で流行ったのはコーヒーだった。といっても、そのころわたしは30歳をすぎていた。それまでの間に紅茶を好きになったりもしたが、中国茶の時ほどの熱量はなかった。

 いまもコーヒーを飲みながら作業している。最近買って一番美味しかったのは東京駅の中にある、有名なコーヒー専門店の量り売りの豆で淹れたコーヒーだ。まだまだ初心者なのでどこの産地がこうとか、これぐらいの煎り具合がいいとか具体的なことは語れないが、自分が好きなのはエチオピアなどの産地のやや酸味が強いスッキリとしたコーヒーだなとは思っている。酸味を示す星印の多いインスタントの方が減るのが早いからだ。

 このままずっとコーヒーは好きだと思う。朝食を用意する前にブラックコーヒーを淹れるのがルーティーンになっている。40歳の夫はブラックはあまり好かないので、飲むときは砂糖を入れずに牛乳と1:1で混ぜて飲んでいる。ただのブラックコーヒーよりも乳脂肪でコップが汚れるので、飲んだ後はカップをさっとすすいでほしいとわたしはこっそり思っているけれど……。

 人の味覚は何歳で完成するのだろう。2歳の息子はいま牛乳が大好きだ。食事でもおやつでも寝る前でも、とにかく牛乳を飲みたがる。いま冷蔵庫には牛乳が4本並んでいる。このままずっと好きかはわからないが、いつか一緒にコーヒーを飲める日も来るだろう。

 その時は、このエッセイを書いたことをわたしは思い出し、一周回って中国茶を飲むのかも知れない。「どうしてそんなお茶買ったの?」と息子に尋ねられるのだろうか。そんな穏やかな日を思いながら筆を置きたい。

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われモコ

われモコ。お腹は三段にわれている。宮城県在住。1989年生まれ。女性。精神疾患あり。だけど元気がとりえ。趣味は古着と料理。現在子育て中。エッセイ、コラムを中心に活動をしながらタイピングスキルのアップと、パソコンに慣れていくのが目標です。アイコンのイラストはサインペンとクレヨン、色鉛筆で作りました。頭に乗っているのは息子的なマスコットのひよこです。

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