車とわたし

No.5(2025年12月22日)

 夫が新車を購入しようとしている。

 しかし、人気の車で納車がかなり先になるらしい。半導体不足、部品不足、人気車種への需要の集中ということらしい。なので販売店も売るものがなくて困ってるぐらいで、本部が地域ごとに販売できる台数を決めている。例えばこの県はハイブリッド30台だの、この県は35台だの。生産調整や枠というやつだそうだ。

 で、ハイブリッド車は12月に販売できる台数に達してしまったらしいので、1月に契約できても納車は8月以降になるらしい。たった2週間で12月に設定されていた7月の納車分も終わってしまったのだ。遠大な話だ。早めの初売りセールをしていた影響だろうか。車種によって12月のクリスマス前で初売りが終わっているなんて。

 そもそも車は快適に暮らすための道具だ。奥田民生もそう歌っていた。わたしは縁があって宮城県に暮らしているが、住んでいるのは100万都市仙台市のベッドタウンなので車がなくても生活はできる。駅が近い。バスもある。駅前には常にタクシーもいる。配車を頼めばすぐ来てくれる。免許を返納するだろう老後を見越して駅の近くに引っ越した。

 それでもいまは、車が必要だ。子供が小さいことも、いざ買い物にいこうとすると、より郊外に行かなくてはならないことも理由だ。

 よくこういうのをドーナツ化現象なんて社会の時間に習うのだろう。駅の周辺の商店街などの中心部に比べて、郊外に大きなショッピングモールと住宅街が増え、中心部は衰退していき空洞化が起こっていく。別に駅の周辺で用事が足りればいいのだが、日本では新築マイホームが素晴らしいという風潮も強いので、なかなかそうもいかないらしい。

 と、いうのは家側の話で今回は車の話だ。納車に8~9カ月かかる車を購入するかは正直悩む。いま乗っている車を下取りしてもらおうにも、そんな先では下取り価格も下がるだろう。じゃあどうするか。営業マンのお姉さんはとてもいい人で、初売りのキャンペーンで適応されるはずだったオプションやローンの金利を、なんとか引き継いで契約できないか本部にかけあってくれた。いや、そもそも初売り前に初売りが終わっているし、売るものがないなんて考えもしないことなのだが……。

 このことを実家の父に話したら「それだけ人気なんてすごいね」「まあ人気がある車は1年待つってこともあるからな」と笑い飛ばされた。

 わたしの父は車好きだ。自宅と職場の間に本屋さんが多かったあの頃、父は日本に限らず国内外のあらゆる車雑誌を買っていたし、それをわたしも眺めていた。週末はとにかくいろんな所に出かけた。気分転換のドライブや日帰り温泉、モータースポーツの大会観戦や古いクラシックカーのイベントにも連れて行かれた。

 自家用車は、わたしが幼いころに購入した日産・K11マーチで20年以上乗った愛車だった。途中であちこちガタも出た。助手席側の足元で雨漏りもしたし、運転席のシートもくたくたになった。フロントガラスも飛び石か経年劣化で小さなひび割れを起こした。ほかにも細かい不具合はたくさんあった。

 そのたびに父は雨漏りを直そうとシリコンコーキングを手にうろうろしたし、運転席のシートも海外から輸入した正規部品を自分で交換した。さすがにフロントガラスの交換は個人ではできなかったので専門店にお願いしていたと思うが、その時も自分で輸入した互換性のフロントガラスを持ち込んでいた気がする。だから最後は韓国製のフロントガラスが入っている世界でも珍しいマーチだったと思う。

 いまになって考えると、母もそんな車好きの父と結婚して大変だっただろう。車検も自分で車検場に持って行っていたし、季節のタイヤ交換はもちろん自分でやっていたので、そういうメンテナンスが安く済んでいたことだけが救いだろうか。毎週のようにつなぎ姿になってオイルに汚れていた父はなかなか若かった気がする。子どものころの思い出だ。

 そんな父が車を買い替えるのは本当に大変なことだった。マーチがどんどん古くなり、車検を繰り返していく中で何度もいろんなディーラー販売店に行った。日産も、トヨタも、三菱も、マツダも、ホンダも、スバルもスズキも。ほとんどどのディーラーにも行ったと思う。最後に家の財布を牛耳るのは気の強い母だったので、父も簡単には選べなかったのだろうが、本当にいろいろな車を見に行った。

 わたしも付いて行って、いろんなディーラーでジュースを飲んだりカタログを眺めた。どの販売店も新しい車の匂いとインクをたっぷり使ったカタログのケミカルな匂いでいっぱいだった。所詮、決定権も何もないのでただの散歩だったが、いまでもディーラーに行って懐かしい気持ちになるのはその頃の影響だろう。普段のおんぼろマーチとは違う試乗車に乗るドキドキ感は、わたしを車好きにしたのかも知れない。

 結局父が新車を購入して落ち着いたのはわたしが30歳すぎてからなので、かなりの年月がかかった。途中で2002年式の日産・キューブにも乗ったが自分の意志というより母の意思で“買ってしまった”中古車だったので、結構故障してそのまま手放していた気がする。まあ、こだわりが強くてめんどくさい人なのだ。

 最近は紙のカタログを置いていないディーラー販売店も多い。タブレットで電子カタログを見る。飲み物も自分で取りに行くディーラーが増えた気がする。昔は女性社員がさっと横からコーヒーとジュースを出してくれた覚えがある。そもそも営業マンなんてこともなく、営業職の女性も増えた。昔のようにあちこち調べる点検もあるが、車もコンピューターを内蔵しているので、そこに端末を繋いで調べるような点検が中心のようだ。電気自動車や水素自動車、車間距離が近いと警告を出してくれたり、ソナーで視覚に障害物がないか検知をしてくれたり、現代の車はハイテクのかたまりだ。

 今年2025年の大阪万博では空飛ぶ車も公開されたそうだが、空を飛べても欲しい車は納車されない。ハイブリットやセンサーなどの先進技術が進んだ結果、作るのに時間がかかるのも確かなようだ。

 遠い先の未来の車より、次に乗る未来の車がわからない。早く契約して早く乗れるように考えるべきなのか、同じぐらいの内容でほかの車を探せばいいのか。ディーラーに行って相談しようにも年末は忙しくて予定も立たない。今年中に決断できるか、なかなか難しい。しばらくスマホで車のカタログとにらめっこだ。

※追記※

 家族会議の結果、ハイブリット車を諦めた。1月に入ってからガソリン車で欲しかった新車を購入した。納車は6月以降になるらしい。早く納車されるのを願っている。

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われモコ

われモコ。お腹は三段にわれている。宮城県在住。1989年生まれ。女性。精神疾患あり。だけど元気がとりえ。趣味は古着と料理。現在子育て中。エッセイ、コラムを中心に活動をしながらタイピングスキルのアップと、パソコンに慣れていくのが目標です。アイコンのイラストはサインペンとクレヨン、色鉛筆で作りました。頭に乗っているのは息子的なマスコットのひよこです。

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