No.8(2026年2月16日)
冬になるとテレビでラーメン特集が増える気がします。日本三大ラーメンといえば「札幌ラーメン」「博多ラーメン」「喜多方ラーメン」の3つが挙げられます。
この中で一番街の規模が小さいのが喜多方ラーメンです。冬になるとラーメン特集が~、っと話しましたが正直冬の喜多方は同じ東北民から見てもいくのが大変です。
喜多方は福島県の会津地方の北側、会津盆地の端っこに位置します。山形県との県境に位置し、新潟県との県境にも近いといえば伝わるでしょうか。東京駅からだと新幹線+在来線で3時間半前後かかる計算です。そして一冬で雪が1〜2m降る盆地特有の豪雪地帯なのです。
そんな喜多方市は2020年の国勢調査の統計で人口は44,760人の減少傾向。2026年現在は40,600人程度の人口と計算されます。そんな喜多方市全体の観光客数はコロナ前で年間で180万人といわれていますから、どれだけ多くの人が来ているのかイメージできると思います。計算上はその内の8割がラーメンを食べているそうなので、本当に喜多方ラーメンは街の魅力です。
喜多方市は、わたしにとって修学旅行の行先でした。会津若松市で鶴ヶ城を見学し、飯盛山で白虎隊の伝承を見聞きし、喜多方市で自由研修をしました。事前学習で調べた蔵を見学して、お昼にラーメン屋さんへいくのです。
修学旅行でわたしが行ったのは「まこと食堂」。王道の喜多方ラーメン店です。臭みのない澄んだ醤油スープにもちもちの平打ち熟成多加水麺。脂が少ないしっかりとしたチャーシューは毎日食べられそうなすっきりとしたラーメンにぴったりの肉質でした。
「まこと食堂」には2つのドキドキがありました。1つは当たり付きのどんぶり。スープを飲み干すのが暗黙の了解で、どんぶりの底に「大当り」が出るとお土産用箱ラーメンがもらえるのです。わたしたちのグループでは4人中1人が大当りだったのでなかなかの確率です。
もう1つのドキドキは入り口がわかりにくいところ。お店はすぐに見つかるのですが、母屋の入り口にものれんがかかっていてわかりにくいのです。小学生にはかなりの難関でした。いい思い出です。
ちなみに、わたしは修学旅行にいく前から喜多方ラーメンが好きでした。我が家のお気に入りは「食堂なまえ」。ここはうどんのような極太の手打ちの麺で、行列ができる名店。ラーメン屋さんの集中した中心部からは少し離れた場所にあるのですがファンの再訪も多く、狭い駐車場は開店前から並びます。
食堂なのでかつ丼やもつ定食などいろいろなメニューがあるのですが、ほとんどのお客さんは「極太手打ちラーメン」か「極太手打ちチャーシューメン」。値段が変わってなければ、それぞれ670円と770円。メンマの太さと変わらない麺が本当にもちもちで魅力的。唯一無二のお店だと思います。
ほかにも喜多方ラーメンといえば「坂内食堂」や「老舗上海」「松食堂」が有名です。「坂内」は岩手県から福岡県まで各地に店舗があるので知っている人もいるかも知れません。
しかしここ何年かで喜多方ラーメンを取り巻く状況は変わってきました。なんとわたしが修学旅行で食べた、喜多方ラーメン発祥の店といわれる「まこと食堂」が2023年に閉店。2025年には同じく喜多方ラーメン発祥の店といわれていた「源来軒」が101年の歴史に幕を閉じ、駅前で93年続いた「丸見食堂」も閉店してしまったのです。
課題になっているのは店主の高齢化や後継者不足だそうです。昔は市内に120店ほど喜多方ラーメンの店があったといわれていますが、いまは90店ほど。街の広さに対してかなりの密度ですが、それでも閉店する店は増えています。
ライフスタイルの変化から肉体的にキツイ飲食の道を選ぶ若者が減っていることはそうですが、素材を吟味した伝統の製法も結果として原価が高くなり、利益率が下がる現状もあるようです。
さきほども書いたとおり、超人気店の、手間のかかった手打ちラーメンでも670円です。博多とんこつラーメンチェーンの「一蘭」はオーソドックスな「天然とんこつラーメン」で1080円。それに210円の替え玉の文化もあります。店内もカウンター中心で効率重視。回転が速い。札幌ラーメンの超有名店「すみれ」の「味噌ラーメン」は1300円。「味噌チャーシューメン」にすると1800円。
一方全国にチェーン展開している「坂内」の「喜多方ラーメン」は890円と明らかにリーズナブルです。この価格の差はなんでしょう。
わたしは喜多方ラーメンをもっと世の中に広めたい。そういう人間です。どうして今回喜多方ラーメンをエッセイのテーマに選んだのかといえば、布教活動にほかなりません。
「ほかのラーメン屋さんはいくらでも値上がりしているのにどうしてそんな控えめな値段なの!光熱費だって馬鹿にならないじゃない!あなたはもっと堂々としていいのよ!わざわざ電車に乗っても、高速道路に乗っても、あなたは食べにいく価値があるラーメンなのよ!」
もし喜多方ラーメンが擬人化したら、わたしはお説教モードになると思います。全国に広がった朝ラー文化の起源のひとつともいわれているのに、喜多方ラーメンは日本三大ラーメンの自覚が足りないんです。良いやつすぎるんです。おいしいのに、その見た目の通り飾ったところがなくてすっきりとしてて優しすぎるんです。
以前どこかで聞いたのですが、ラーメン特集というのは急に視聴率が取れるわけではないそうです。めちゃくちゃ視聴率が取れるわけではないけれど、極端に悪い数字にもならない。制作コストが比較的安くて、再編集再放送もきく。
めちゃくちゃな爆発もしないけれど安定して誰かが見てくれる。急に喜多方ラーメンブームが訪れることはないでしょうが、ひとりでもこのエッセイを通して喜多方ラーメンの魅力を感じてもらえたら幸いです。
2024年喜多方市に喜多方ラーメン・そば課が作られ、地元のラーメン会と協力してラーメンの魅力発信に努めています。
ミシュランガイド東京6年連続受賞店がプロデュースした新店も一昨年喜多方市内にオープンしています。そちらの「特製中華そば」はチャーシューが4枚にワンタン、味付け玉子も入って1300円と強気な値段設定。ちなみにスタッフの方が接客と調理に集中するため、喜多方市内の小さなお店では珍しい商品イメージの伝わる大きな液晶画面の券売機を採用しています。
そう、これぐらいどーんとしていいんです。喜多方ラーメンは引き算された後の完成されたラーメン。背脂もワンタンも煮卵もいいじゃないですか。素直なあのすっきりスープなら相性のいい足し算はいくつも作れるはず。
ラーメンも多様性の時代。長い歴史で完成されたうま味を守りつつ、作る人も食べる人ももっと食べ歩いて探求して楽しくなる喜多方ラーメンが増えていくことをいちファンとして願っています!
