宇都宮の居酒屋さん

No.10(2026年3月16日)

 3月14日土曜日。わたしは1人で宇都宮にいた。東京の友達と待ち合わせをしていた。宇都宮駅は自宅から電車と新幹線で1時間半。東京にいくとき新幹線で通るが、降り立つのは今回が初めてだった。餃子と季節のイチゴは絶対に楽しもう。それぐらいの話をしてあまり下調べをせず、ざっくりとアイディアを出し合って集合した。毎回そうだが、そういうことができる友達には感謝だ。

 結論からいうと、宇都宮はかなりいいところだった。天気が良かったせいもあるが、明るくて暖かくて感じのいい街だった。1番印象に残っているのはレトロなオリオン通りの居酒屋さん。思いがけず、ここが今回の遠足で1番印象に残った。

 オリオン通りは3つの町がつながっている通りで、三つの星が並ぶオリオン座にちなみ1948年に名付けられた。大きなアーケードの中は居酒屋さんが多く、昼から営業しているお店も多い。お店の前にビールケースをひっくり返したようなテーブルを置いて、のんびりと営業している店が多かったし、そういうのを目当てに散歩しているグループが多かった。

 「お姉さんたちどうですか!飲み放題やってますよ!」っと声をかけられた。こんな時間から飲み放題なんて仙台には多くないからそれだけで面白い。「1、2杯飲むだけでもいいですか?」と尋ねると「全然いいですよ!ぜひどうぞ!」とのこと。16時から開くお店も多く(それでも早い方だが)ここまで空振りしていたので、2軒目にそこへ入った。1軒目は駅ビルの中の餃子屋さんで、グラスビールとしっかり餃子を12個食べていた。

 冷たいおつまみを食べたい気分だった。わたしと友達は本日のお刺身と冷やしトマトを頼んだ。友達がシークワーサーサワーで、わたしが白ワイン。ビールを飲んだ後で、わたしは炭酸を避けた。

 お店を探しながら話していた、マンションか持ち家かの話を続けた。友達は女一人で気ままに生きていく決断をしていて、わたしは自分の妹とタイプの似ている友達を応援していた。いますぐ買うわけじゃないけどやっぱりマンションかも知れない。友達の考えがまとまったころわたしはやげん串焼きを追加注文して、友達はきゅうりの一本漬けと梅干しサワーを注文した。

 気づくとその時点でお互いに3杯は飲んでいた。いま思うと飲み放題でもよかったのかも知れない。友達が化粧室に行ったとき、1人になったところで声をかけられた。「ちょっとお姉さん」。最初は店員さんを呼んでる声かと思った。しかし店員さんは全員男性だ。はて、っと思って声のする方をみるとパチリと目が合った。「そうそう、お姉さん!」。

 「わたしのことですか?」「いやーすみません、気づかなくて」っと返事をするとニコニコと女性二人組が笑っている。「お姉さんお酒強いですね。白ワインめっちゃ飲んでて」「話しかけたいと思ったんですけど、そろそろ帰っちゃったりしますか?」「よかったら一緒に飲みませんか?」。思いがけない展開にびっくりした。若い頃だったらバーで隣の席のお客さんと話すことはあったが。びっくりして少し酔いがさめたかも知れない。

 そうしていると友達が戻ってきたので説明した。すると「全然大丈夫ですよ」「一緒に飲みましょう」とのこと。そこで急な相席が決まった。

 楽しい時間だった。5人での相席。相席になった2人はシングルマザーで、5か月の女の子の赤ちゃんのママに小学2年生になる男の子のママ。5か月の女の子の赤ちゃんのママのその横にはそのプリンセスの乗ったベビーカー。昼間に、知らない土地で、5か月の赤ちゃんと相席。なかなか出来ない素敵な時間だ。

 とても大人しい女の子だった。よかったら抱っこしてくださいといわれた。2人が飲みやすいように抱っこさせてもらった。かなり緊張して抱っこした。自分の子供を抱っこする感覚とはかなり違った。女の子と男の子でも抱っこの感じ方が違うような気がした。すっかり酔いがさめてしまった。自分の子供にもこんな小さな頃があったのかとしみじみ考えた。

 相席になってから、またいろいろな話が出てずっと笑った。前の職場で知り合った関係だそうで、煙草の銘柄が同じの、姉妹のような雰囲気だった。

 子育ての話題が多くなってしまったが、友達も嫌な顔一つせず付き合ってくれた。離乳食をいつはじめるか。7万円のベビーカーが優秀なこと。佐野のアウトレットがオススメなこと。ランドセル活動、いわゆるラン活にげんなりしたこと。ランドセルには100円ショップの透明なカバーをかけるようにと強めに指南。わたしは頭の中のメモ帳に書いておいた。

 4人と小さな1人で席には連帯感が出来た。店員さんに赤ちゃんのためのおむつ替えの場所を提供してもらったり、その間席を守ったり、熱いミルクを冷やすためのシャンパンクーラーを出してもらったり。思いがけない出会いに時間はあっという間だ。お店も混んできた。壁に貼られた「2時間制」の文字が気になってきた。

 「せっかく宇都宮に来たらかぶと揚げを食べた方が良いですよ」っという話をされた。しかしわたしは16時半の新幹線に乗らなくてはいけない。知り合いがやっているお店があるから開けてもらえるか聞いてみると、相席になったママさんが電話をかけてくれた。無理なことだったけれど、ありがたくて嬉しかった。次回の楽しみになった。

 帰り際にLINEのグループを作った。またみんなで飲もうと話した。酔った勢い、ノリで決めたことで実現しなさそうなことだったけれど、そういうご縁があった証拠が嬉しかった。ここに来る前に神社に行ったのが良かったのかも知れない。小さな赤ちゃんの足を靴下の上から触らせてもらってお別れをした。西日が傾いていた。

 そこからバス通りに出て宇都宮駅に戻り、お土産を買ったりしていたらもう新幹線の時間だった。バタバタと友達と別れて新幹線に乗った。道が同じでも行きより帰りの方があっという間に感じる現象に名前はあるのだろうか。

 餃子屋さんを最低2軒行こうとか、ヨーグルトデザートのお店に行こうとか、かっこいい路面電車に乗ろうとか一応事前にいろいろ話したのに、ほとんど達成できないまま、満ち足りた気持ちになっていた。仙台駅に着いた時にはもう薄暗くなっていたが、心はちっとも寂しくなかった。

 大量に買った宇都宮デザインのTシャツを抱えて家に帰った。家に帰ると1日家事を頑張ってしまった夫がぐったりしていた。わたしはなにも圧をかけてないのに。なにを頑張ったのか聞いて、わたしがその日の出来事を話すとまた行ってきたらと言われた。都合もあるのでもちろんすぐには行けないが、また行ってみたいと思う。2日経って、餃子のキーホルダーの入ったガチャポンのケースを眺めながら、わたしは次いつ宇都宮に行けるか考えている。

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われモコ

われモコ。お腹は三段にわれている。宮城県在住。1989年生まれ。女性。精神疾患あり。だけど元気がとりえ。趣味は古着と料理。現在子育て中。エッセイ、コラムを中心に活動をしながらタイピングスキルのアップと、パソコンに慣れていくのが目標です。アイコンのイラストはサインペンとクレヨン、色鉛筆で作りました。頭に乗っているのは息子的なマスコットのひよこです。

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