気を引き締めてまいります

「私、SサポートセンターのSと申します。本日お部屋をご利用された際にマーカーペンの忘れ物があったかもしれないのでご連絡差し上げました。失礼いたします」

 留守番電話のメッセージはここまでだ。いやまさか、うちに限ってと疑いつつソファに乗せていた紙袋を開く。……ない。確かに油性ペンがない。留守電に気付いた時刻は午後の十時を回ったところなので、折り返し電話をかけるのは明日にするしかない。

 四月最後の日曜日に当時者会を開催した。その際、名札にハンドルネームを書いてもらおうと持っていったペンを会場に置いてきた。何が恥ずかしいって「忘れ物のないようにお帰りくださいね」と参加者に伝えた主催者が忘れているのだ。次回から自虐ネタのように取り扱おう。また私に電話がかかって来ないように忘れ物をしないでください、と。

 しゃんとしてるつもりの、どこか抜けてる私。昔からそうで、部活を引退する先輩と最後にすごす日に皆で書いた色紙を家に置いてきたり、センター試験当日に筆箱を家に置いてきたり。さらには黒のジャケットを忘れたのに気付かぬまま葬式に行ってしまったり……と不注意が祟ってとんでもない失敗を味わっている割に、まるで成長できていない。

 そんなだから他人様にとやかく言える立場ではなく、しかし、言える立場でなかろうと言わざるを得ない場面とどうしようもなく遭遇する。

 「帰ったら手洗いやうがいを徹底的に」とか「薬は忘れずに飲みましょう」などと偉そうに伝えても自分はそんな殊勝な奴じゃないし、忘れるときは普通に忘れる。そんなんじゃないのを承知の上で話すので、我ながら馬鹿馬鹿しくなる。そういうあなたはどうなんですか、って話です。全然です。全然なので、言ってる本人も気を引き締めてまいりますのでお互い頑張りましょう、と、そんな気持ちで呼びかけるほかないのだ。

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行谷いさご

たまに講座を受けながら十年ぐらいエッセイを書き続けています。くどい言い回しが表れたり、感情を挟む以上に説明文が長かったり、その辺を何度も読み返して反省を繰り返しながら一作品、また一作品……と、丁寧に、少しずつ作り上げていきたいです。

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