観戦

「……放置しちゃったけど?」母は疑問を投げかける。

「▲3四歩△同歩だと▲4三歩がやばいから。角の道が空いて王手かかるわけ。逃げるか角道を何か駒をあてて防いだら次の先手のターンで4三歩がまた一歩進んで金取るし、その歩はと金になっちゃう」

「だから放置?」

「そうするしかないよね」と私は応えると、母は黙り込んでまた画面に集中した。

 十年以上使っていたテレビを最近買い替えた。そこで驚かされたのが、地上波と別に、リモコンに動画配信サイトに飛べるボタンが付いていたことで、人によってはそちらが主になりうるのだろう、時代の変遷によってこうも変わるのだと本当に驚いた。私は土曜の夜に楽しみがあり、二階の自室にこもり、ある配信サイトで将棋を観戦するのが日課ならぬ週課となっていたのだけれども、母が下で見てもいい、というので夕飯を早めにとってそのまま茶の間で見るようになった。

 で、最初こそ軽く横目で見ていただろう母がハマったのである。

 最近の将棋はわかりやすい、とのこと。複雑に移り変わる盤面全体をしっかり把握できていなくともAIが示す勝率ゲージでどちらが優勢なのか伝わる。先手も後手も50%ずつだと、当然互角、スポーツらしく言えば同点のように捉えられるのだろう。これが例えば先手99%に対して後手が1%となれば先手が勝つ流れだと察せるし、しかしそれが突如反転したとなれば大逆転が起きたとはっきりわかる。数値で状況判断ができるのは楽だ。

 また、土曜日の配信は終局が早いので飽きにくいのかもしれない。普通のタイトル戦とは異なり、1手指す度に5秒加算されるものの持ち時間が1人5分の団体戦なので、20分もあれば一局が終わり、終わり次第また別の対局がはじまる。理解が追いつかないくらい早いペースで指されてもそれでいいのである、勝敗や、味方が指した手に一喜一憂する待合室での棋士の様子を中心に見たいわけだから。しかしそれにしても、テレビが変わっただけで観戦を楽しむ人数が増えるとは思っていなかった。

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行谷いさご

たまに講座を受けながら十年ぐらいエッセイを書き続けています。くどい言い回しが表れたり、感情を挟む以上に説明文が長かったり、その辺を何度も読み返して反省を繰り返しながら一作品、また一作品……と、丁寧に、少しずつ作り上げていきたいです。

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