あたしの名前は、スコっていうの。
あたしの大好きなあの子が、付けてくれた名前。
あたしね、どうやら死んでしまったみたい。
いつもの窓辺でお昼寝してたら突然身体が動かなくなって、痙攣したと思ったら
ぽっくりよ。
確かに、数日前から息が苦しくておかしいとは思っていたの。
あの子が、即座に気付いておかーさんに電話してたの。
「もしかしたら、スコちゃんの最期が近いかも」
なんてね。
その時は、
「割に合わず、酷い冗談だなー!」って、
怒っちゃったよ。
でも、すごいわね。あの子は。
あたしの最期が近いことを予測できていたなんて。
あたしなんて自分のことなのに分からなかったわ。
それにしても、心配だわ。
あの子、突然亡くなったあたしのこと、
今でも、探してるみたいなの。
お仕事中に右手をいつもあたしが居るところに伸ばして、
「スコちゃんは・・・もういないんだったね。」って、
お骨になった骨壺の中の私に笑顔で言うのよ!
心配でたまらないわ!
あたしが亡くなって、火葬の時もおかーさんは、少し離れた場所から泣いて
見ていたのに、あの子ったら、いつもあたしにおやつをくれるみたいに
頭を撫でたりしながら
「お腹が減っては虹の橋に行けないもんね。
今日は、特別にシーバをあげるね。あぁ、大好きなおやつも置かなきゃ!
おやつもないと寂しいもんね。」って。
おかーさんが、見かねて
「スコちゃんが、安心して逝けなくなるわ。
もう・・・ね?」
何度も、何度も目元をハンカチでおさえてしゃくりあげるおかーさん。
あの子は、全く理解してないような顔でおかーさんに引っ張られて。
お骨になった私は・・・、火葬をしてくださった火夫さんが
「こんなお骨は、ここに務めて4年間の中で初めて見た」
何て言われるような・・・ものだったみたい。
火夫さんも目を細めて、
「本当に頑張った猫ちゃんだったんだね。すごいよ。」
なんてね。えへへ。褒められちゃった。
確かに、生きている間は、手足は痛いし、階段の上り下りは出来ないし、
他の子たちと追いかけっこも出来なかった。
でもね、すごく幸せだったよ。
優しい温かな陽だまりのような
「おかーさん」
大柄の体には見合わないような優しい声で名前を呼びながらナデナデしてくれる
「おにーちゃん」
そして、生後半年で引き取ってくれてからずー――――っと一緒だった
「あの子」
一緒に歳を重ねていたつもりが、いつの間にかあの子の歳を超えて。
何なら、おにーちゃんの歳も、おかーさんの歳も超してしまった。
それを知ったとき。悲しかった。
もう、一緒の足並みでは生きていけないんだ。
誰よりも早く、虹の橋に向かって旅立たなければいけないんだ。
ごめんね。みんな。
あたしは、猫だから寿命が短いの。
誰にでも、遅かれ早かれ最期が来る。
生後半年の時点で殺処分されるはずが、17年も生きれた。
「10歳は越えられない。」
そう言われてきたのに。
生きることに執着がないあたしでも、
「もっと生きたい!あの子と一緒に居たい」
そう思っていたのに。
突然すぎて、あの子は苦しんでる。
あたしの死が理解できない。実感が湧かない。
なのに平然と過ごし、ちゃんと休まずにお仕事をしてる。
偉い子ね。とっても頑張り屋さんなの、あの子。
だから、心配で仕方ないの。
大丈夫かしら?
でも、あの子だったらあたしの死を乗り越えたら
もっと素直な感情豊かな子になるかもね。
あの子は、気遣いで、優しくて、笑顔が可愛くて、
一緒にいるととても落ち着くの。
その反面、なかなか言いたいことが素直に言えなかったり、
自分の中に押し込んだり。悩むことも多い子だったけど、誰かに相談するのが
とても下手で。何度も冷や冷やしたわよ。
涙をあまり流さない子だったから、苦しいよね。きっと。
思い余ってあたしのいる世界に来そうだから、あたしだって、
心安らかにいれないのよ。
でも、あたしは信じているの。あの子の強さを。
どれだけ時間がかかってもいい。
だから、あたしとの思い出を沢山思い出して!
沢山泣くの!
あなたからたくさんの幸せと大切な思い出をもらったからこそ、
あたしは虹の橋に向かってゆっくり歩きだすわ!
いい?ちゃんと聞くのよ?
あたしの最後の言葉だと思って、聞きなさい!
「実感や理解が出来なくてもいい!
たくさん、たくさん泣いてもいい!
どんなに時間がかかっても、必ずあたしが居ないことを理解して!
そして、その優しさや気遣い、悩みやすさを武器にしなさい!」
最後に、理不尽なお願い。
「あたしのことを、忘れてもいいからね。
あなたの幸せの足かせにはなりたくない。
どうか・・・
幸せになって!
あたしの大好きで、大事な水鈴」
2006.08.25~2023.09.29
享年18歳
愛猫 スコ