ハチミツ

 別に汚れたって構わないから切りたてのコムハニーを手掴みで豪快に食べたい……とふと。日曜の夜。ビルの屋上で養蜂箱をせっせと作り上げて、引っ越ししたミツバチの様子をカメラを通して観察するアイドルの姿をテレビで見たせい。我ながら、よっぽど印象に残ったのか妙に興味が湧き、それが引き金となって、一度、新鮮なハチミツを巣ごと味わってみたいなあと、ぼんやり思った。野生の熊かよ、と、内心ツッコむ。

 私は影響を受けやすくて、この性質が祟って食事が左右されることがある。

 例えば本を読んでいる最中にサンドイッチを作る描写が出てきたら、駅前のコンビニエンスストアに足を運び、食パンとジャムを買って真似るように具をパンを挟むぐらいの、あくまでも自分が手だし出来る範囲でのみ、行動に移す。試しに通販で頼んだり、料理を作ってみる(当然、そうじゃなきゃ今頃マンモスの肉を追い求めてしまう)のだが、それにしても、よく憧れが作用する。別に絵や実写的な映像でなくとも、要するに、小説にしたって食べ物の質感や温度、そしてそれを、物語の登場人物が美味しそうに頬張る状況が事細かに描かれていたら、読み手の想像によって自ずと食欲がそそられませんか? 視覚に訴える表現の方が正確さはあって一目でわかるのかもしれないけれども、活字に触れてそれとなく思い浮かべる面白さも無視できない。

 主に輸入食品を扱うお店でハチミツを見た。ハチミツの中に小さな巣が浸かっている形なので、レジに持っていくかどうか、暫く周辺をうろつきながら考えた。

 我儘を言えば、逆なのだ。正確には巣にハチミツが入っていて欲しいわけで、私が求めているモノとは若干異なる。多少の妥協があってもいいところをこだわりを捨て切れない私は、悩んだ末、買い物かごに入れるのはやめた。後でちょっと後悔した。

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行谷いさご

たまに講座を受けながら十年ぐらいエッセイを書き続けています。くどい言い回しが表れたり、感情を挟む以上に説明文が長かったり、その辺を何度も読み返して反省を繰り返しながら一作品、また一作品……と、丁寧に、少しずつ作り上げていきたいです。

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