消える魔球

 自助グループに所属して活動しています。精神疾患を抱え、ストレスや生きづらさを感じている方を対象に募集し、いくつかグループを作って参加者同士で自由に喋ってもらい、そこで悩みを共有、共感し合うピアカウンセリングである。

 で、本題はここから。会が終わり、片付けを済ませた後はスタッフ全員で会場近くのカレー屋に寄っていき反省会をはじめるのだが、どんな経緯だったか明確に思い出せないが、話題は野球盤になり、私は、うわ懐かしい、と思った。が、その直後には、懐かしいと思えるくせにこれまで一度として触ったためしがないな、と内心笑った。小学生の頃に読んでいた雑誌の裏表紙に広告として載っていたのをひたすら眺め憧れていただけだが、実際に、現物を手に取った過去がなくてもノスタルジックな気分に浸れるのだ。

 このようなことはたまにある。最近だと、SNS上でシールやラインストーンで装飾がなされたガラケーの写真が回ってきて、そういえばそんな時代もあったなあ、と。連想的に、動く絵文字や着メロの記憶が蘇ってきて、余計に回顧の念を催させる。

 脱線しつつあるので話を元に戻すと、当時、消える魔球の存在に子ども心がくすぐられた。ホームベースの前に隠し段差があって、スイッチを押すと、底がストン、と抜け、放たれた金属の球がバットの手前で落ちる仕掛けが施されているのである。念のため、補足しておくと、ルール上ボールの扱いなのでその投球方法を延々使い続けても勝てはしない。だから心理戦を楽しめてる、通常の野球とも異なるリアルから少し離れた玩具らしさが好きだ。

 家へ帰った後、ノートパソコンを開いてインターネットブラウザを立ち上げて「野球盤」で検索をかけた。果たして娯楽で溢れかえっている現代でも売られ続けているのだろうか、といった疑問が脳裏をよぎったせいだ。結果から言うと、普通に売られてて、それどころか進化を遂げている。ストレートでもコースを選べるし、様々な変化球を使い分けられる。消える魔球も健在で、少しほっとした。

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行谷いさご

たまに講座を受けながら十年ぐらいエッセイを書き続けています。くどい言い回しが表れたり、感情を挟む以上に説明文が長かったり、その辺を何度も読み返して反省を繰り返しながら一作品、また一作品……と、丁寧に、少しずつ作り上げていきたいです。

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