火を貸す人

 紙から加熱式煙草に変えて一年半が経つ。吸いごたえは劣るけれども髪や服に臭いがつかないので、その点に関しては、本当にいい。

 紙巻き煙草を吸っていた時期は、よく、見知らぬ人に声をかけられた。ライターを貸してもらえませんか、と。例えばそれは自前のライターに火がつかず、かといって貴重な休憩時間を無駄にしたくない気持ちから思い切って頼むパターンが大半だろうけれども、喫煙所に入るなり開口一番にお願いされることもあって、あまりにも堂々としすぎていたので清々しささえ感じた。ないのを自覚したうえで来てるなこの人、と内心驚きつつ、頷いて手渡していた。愛用してたのが金属製のオイルライターだったのでその辺の趣味で軽く盛り上がることも。ただ現在は火を貸す人を卒業して自己完結してるため会話のきっかけが無くなってしまった。で、他の誰かがライターを貸してる瞬間に出会うと焼き餅を焼きそうになる。

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行谷いさご

たまに講座を受けながら十年ぐらいエッセイを書き続けています。くどい言い回しが表れたり、感情を挟む以上に説明文が長かったり、その辺を何度も読み返して反省を繰り返しながら一作品、また一作品……と、丁寧に、少しずつ作り上げていきたいです。

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