TRPGのシステムを解説していきます。
今回は日本で大きな知名度を誇る”Call of Cthulhu-クトゥルフの呼び声-”(以降CoC)について解説します。
解説は最新版の第7版である”新クトゥルフ神話TRPG”を基準としています。
CoCとは?
普通の人間が神秘的な恐怖に立ち向かうホラーのシステムです。とある事情から日本では”クトゥルフ神話TRPG”という名称が使用されています。
CoCはクトゥルフ神話と呼ばれる創作神話を原作としており、これはアメリカの作家ラヴクラフト氏が友人の作家たちと架空の神や地名、物品などの固有名詞を共有することで作られました。
日本ではとある動画サイトに投稿されたリプレイ動画の影響で大きな知名度があり、TRPGの代表的なシステムとして扱われています。ですが実態は独特なルールや判定方法、PCの立ち位置など特異的な要素が多く癖が強いため、かなり特殊なシステムであると言えます。
基本的にPCは神話の存在に対して無力であり、脅威となる存在を避けながら事件の解決を目指すことになるシステムです。
世界観
一見現実と変わらない世界ですが、その裏では旧支配者の信者たちによる暗躍や神話生物の存在、魔術師の研究など多くの脅威があり、それらが引き起こす事件にPCが巻き込まれて行くこととなります。
世界背景として、地球には”旧神”と呼ばれる善神と”旧支配者”と呼ばれる邪神が存在し、地球の支配権を巡って争い、最終的に旧神の勝利で終わりました。その後、旧支配者たちは各地に封印されることとなりますが、封印を逃れた旧支配者や眷属が存在し、それらが人間社会に影響を与えています。
そしてセッションでは神話の存在を知らない一般人がPCとなり、未知の恐怖に精神を削られながら事件の解決を目指します。基本的にPCは神話の存在に対して無力なことが多いため、死亡率が高く生き残ったとしても精神的な後遺症が残ることがあります。
システムの特徴
CoCの特徴を解説していきます。
想像以上に要素ごとの解説が長くなってしまったため分割することにしました。
- GMとPCの呼称
CoCではGMをキーパー(KP)、PCを探索者と呼称します。
- 判定方法
CoCでは判定を1D100で行います。
判定する技能や能力値の成功率以下の出目が出れば成功します。
他のシステムと違い目標値を超えるのではなく、下回ることで判定が成功するため、困難な状況での判定には後述の難易度として成功率にマイナスの修正が入ります。
判定は1D100で行いますが、100面ダイスは大きく値段が高いため、用意するのは大変なので、普通は色違いの10面ダイスを2個用意して片方を10の位、もう片方を1の位として振り判定します。この時、両方0が出た場合は出目は「0」ではなく「100」として扱います。

- 難易度
判定の難しさです。
何か判定を行う際にどれほど難しいかを表し、それによって成功率に修正が入ります。
難易度には以下の3つがあります。
レギュラー:通常の難易度で成功率に修正は入りません。
ハード:難しい判定で成功率を1/2にして判定します。
イクストリーム:とても難しい判定で成功率を1/5にして判定します。
基本的に難易度はレギュラーであることが多いですが、探し物をするときに対象が隠されているなどの状況で難易度が高くなることがあります。
- 成功度
判定した行動がどれだけ上手くいったかを表します。
判定した際に成功率に対して出目が低いと成功度が高くなります。
成功度には以下の3つがあります。
レギュラー成功:普通の成功です。
ハード成功:成功率の1/2の出目での成功です。
イクストリーム成功:成功率の1/5の出目での成功です。
基本的に戦闘や後述する対抗ロール以外では処理をする必要はないと明記されているため、高い成功度が出たからと言ってKPに報酬を要求したりしないようにしましょう。
- クリティカル、ファンブル
判定の大成功と大失敗のことです。
クリティカルとファンブルは以下の条件と効果を持ちます。
クリティカル:条件は判定で「1」の出目が出ること。効果は何らかのよい結果を得ます。これは、KPの裁量に一任されます。例としては、別の判定で失敗して得られなかった情報を得たり、よいアイテムを見つけたり、別のPCの失敗を打ち消したりなどです。
ファンブル:条件は判定する技能や能力値の成功率が50未満であれば「96〜100」、成功率が50以上であれば「100」の出目が出ること。効果は何らかの悪い結果を受けます。これは、クリティカル同様KPの裁量に一任されます。例としては、転んでダメージを受けたり、使おうとしていたものを壊してしまったり、敵から受ける効果が最悪になったりします。
これらは成功度と違いその場で適用しなければならないため、たまにKPが想定していない状況で出てしまい、処理に困ることもあるので、PLは受ける効果の要望を伝えてみてもいいと思います。その時はKPにダメと言われてたら文句を言ったりせず大人しく引き下がりましょう。
- 対抗ロール
キャラクター同士が互いに影響を与える判定のこと。
キャラクター同士が判定で勝負するときに発生し、対応する技能や能力値の成功度が高い方が勝利します。成功度が同じ場合は元の成功率が高い方が勝利し、それも同じ場合ダイスを振って出目が高い方が勝利します。
対抗ロールの例としては、逃げる相手を追う時や戦闘時に攻撃に対して応戦する時などがあります。
- プッシュ・ロール
一部の判定に失敗したときにもう一度判定に挑戦できます。
戦闘以外での技能と能力値での判定では失敗したときにPLがプッシュ・ロールという失敗を挽回するための判定を要求することができます。
プッシュ・ロールを行う際には1回目の判定で失敗した行動をカバーする行動を取り、それが認められればもう1度判定を行えます。
プッシュ・ロールにも失敗してしまった場合、ファンブルのように通常の失敗よりも悪い影響を受けることになります。そのため、より追い詰められてしまうので使用には注意が必要です。
KPはプッシュ・ロールが失敗した時にどのような事が起こるかを事前にPL知らせることが推奨されており、PLにどのような危険が伴うのかを知らせて、本当にプッシュ・ロールするかの選択をさせることで緊張感を持たせることができます。KPが事前に結果を明言したくない場合は危険があることをほのめかす程度でも問題ありません。
- 幸運
PCの運の良さを表していてポイント制となっておりいくつかの場面で使用します。
PCを構成する要素である次回解説する”属性”の1つで、値を成功率として判定する”幸運ロール”やポイントを消費して技能と能力値の判定で出目を操作したり、戦闘中に気絶しないように耐える際に使用します。
幸運ロールはPCが直接関係のない事に対して判定するものであり、例えば聞き込みの際に適当な民家に訪問した時、家に住民がいるかなどPCが干渉できない事を対象にします。
幸運を「1ポイント」消費することで「出目を1」操作できます。これは、技能と能力値の判定にのみ使用することができ、戦闘中でも行えます。例えば「成功率50」の判定で「出目が52」だった場合に「幸運を2消費」することで「出目を50」にして成功したり、逆に成功したときに出目を増やして失敗することもできます。ですが、プッシュ・ロールの判定やクリティカルとファンブルが出たときは操作できません。
戦闘中に気絶の条件を満たしたときに幸運を消費して耐えることができます。この時、即座に「幸運を1」消費し、さらに耐え続ける場合は「ラウンド開始時に1」消費します。ラウンド開始時の消費はラウンドが進むごとに「1→2→4→8」と2倍になり消費できない場合気絶します。
幸運は次回解説するアフタープレイで増やすことができる可能性があります。
- 正気度
PCの恐怖や異常に対する精神的な強度を表します。
属性の1つで”SAN値”とも呼び、CoCの最大の特徴で重要な要素です。これはPCが恐ろしい存在や異常事態に対してどれだけの耐性があるのかを表しています。
PCが次回解説する神話生物に会ったり、急に停電するなど恐怖を感じる時に”正気度ロール”と呼ばれる判定を行います。判定時の残り正気度を成功率として判定し、成功した場合は成功時の減少値を適用し、失敗した場合は失敗時の減少値を適用します。
正気度ロールには難易度は無く、成功度とクリティカルやファンブルの影響も受けず、通常の成功と失敗として扱われます。
一定量減少などの条件を満たすとPCは”発狂”という状態になり、ランダム表を振りそこで出た特定の行動しかとれなくなります。例えば、その場から逃げ出してしまったり、うずくまったり、叫び声を上げたりなど基本的に不利になってしまうことが多いです。
正気度は多くの事象に遭遇すればするほど減少していき、成功率が下がっていきます。そのため、同じPCをたくさんのシナリオに参加させているといずれ正気度が「0」になってしまい、”永久的発狂”となりキャラロストしてしまうことが多いです。一応アフタープレイで回復することは可能ですが、減少量のほうが圧倒的に多いため、セッション終了で正気度が増加していくことは基本的にありません。
CoCはこのルールがあるため、キャラロストの危険が他システムより多く、慎重なRPが求められます。
最後に
CoCは独特なシステムであるため、特徴を解説しようとすると膨大な量の説明が必要となってしまいます。本当は1回で収めようと考えていましたが断念しました。
非常に個人的な意見ではありますが、CoCはTRPG初心者にはお勧めしません。というのも解説の通り独特なルールが多いため把握が難しく、RPが重視されるため慣れていない初心者には取っ付きにくいうえ、遭遇する敵が基本的にPCより強いためにこそこそと隠れて行動しなければならず爽快感が無いからです。
TRPGは自由にPCを作成し、自分で行動を考え描写して行くことで進行します。そのため、PLはPCに感情移入したり愛着を抱きやすいです。それなのにルールが難しくて把握できずに失敗してしまったり、RPがうまくできず状況が悪くなってしまったり、危険な場所が分からず敵に遭遇してしまうことで、折角自分の作ったPCが何も分からないまま無残にやられるのを見るだけという状態になるとほとんどの人は面白くないと感じると思います。
そのため、初めてのTRPGでCoCをプレイするとよくわからないままやられて面白くないと感じやすく、TRPG全体が面白くないという印象を抱いてしまう事にもなりかねませんので、最初は他のシステムをお勧めします。
ルールが独特なため他システムをプレイするときにほとんど参考にならないこともお勧めしない理由の一つです。
ですが、CoCが面白くないということでは決してありません。ジャンルがホラーであり、PCが無力な一般人で、危険が多くキャラロスト率が高いことを理解してプレイすればとても面白いシステムとなっています。独特なルールが多いということは特別なセッションが楽しめることでもあり、正気度やPCの弱さなどから事件解決と自身の安全を天秤にかけるような状況も多く、他のシステムにはない強い緊張感を味わえるシステムです。
あとがき
今回は知名度の高い”クトゥルフ神話TRPG”の解説をさせていただきました。
考えていたよりも1つ1つの説明が長くなってしまったため、少々見づらいかもしれません。
一応動画などでリプレイを楽しむだけであれば、理解するのは判定方法と正気度の2つだけで大丈夫だと思います。世界観は現実をベースとしているので、後はざっくりと超常的な生き物や物品が出てくる事だけ分かっていればリプレイは楽しめます。
ちなみに第7版以前の旧版ではいろいろなルールが異なっているため、今回の解説はあまり参考にはなりません。例えば、幸運は幸運ロール以外で使用することはありませんでしたし、対抗ロールもやり方が全く異なり、プッシュ・ロールに至っては存在しませんでした。
次回はCoCの特徴解説の続きを行いたいと思います。
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