THRILL SHOCK SUSPENSE #02
2022年12月 変わらない評価を受ける名作推理ADVを紹介 愛及屋烏
TRICK×LOGIC
Continuation from last page. 02-3 https://no-value.jp/game/34334/
各話あらすじ+一言感想・2
事件ファイルNo.6「ブラッディ・マリーの謎」
作者:竹本健治
雪に閉ざされた温泉ホテル「チルド」で人嫌いで有名なミステリ作家が刺殺されてしまう。
犯行現場は一面血の海で、犯人も返り血を浴びたと思われるが、宿泊客や従業員の中にそんな人物はいなかった。
さらに、血の付いた衣服が捨てられたり処分された形跡はなく、返り血を浴びたはずの犯人が誰にも気づかれずに逃走した方法もわからない。
雪に覆われ、外部からの侵入が不可能な状況。姿無き犯人が潜んでいるのだと、宿泊客たちは恐怖する。
〇関係者の動きの中で誰なら目撃されない、という条件を満たせるか。返り血については被害者の事情に辿り着けば、気付きは近い。
事件ファイルNo.7「ライフリング マーダー」
作者:麻耶雄嵩
湖の中に浮かぶ小島に建てられた小さなログハウス「湖上庵」で、高名な幻想作家がライフルで射殺されているのが発見される。
原稿にはただ二文字「奇蹟」と記されていた。
しかし奇妙なことに弾道を調べると、ライフルは天空から撃ったとしか思えない状況だった。容疑者は全員ライフル部のメンバー又はその関係者の為、硝煙反応からの特定は不可能。
犯人は一体どこから、どのように犯行に及んで、この「奇蹟」を起こしたのか?
〇とんでもないトリックではなく、とんでもない状況下で犯行に及んだ為に迷走してしまう犯人は誰か? 容疑者の中から致命的な勘違いをしてる犯人を追う。
事件ファイルNo.8「目の壁の密室」
作者:大山誠一郎
土曜日の午前、とある商業ビルで不可解な事件が起きた。
ビルにただ一つしかない監視カメラは、ビルのオーナーやテナントを借りている人たちの動向を映し出し、警備員がそれを見つめていた。
そんな状況の中、ビルのオーナーが自室で死んでいるのが発見される。
しかし、監視カメラの映像を再生すると彼が殺されたと思われる時間には誰もオーナーの部屋に出入りをしていない。
監視カメラと人々の視線が見つめる「密室」状況で、いかにして凶行が行われたのだろうか。
〇不審な動きをする人間が犯人とは限らないし、犯人以外が現場を偽装する事もある。密室の解明では無く、個々人の事情を探る展開。
事件ファイルNo.9「Yの標的」
作者:綾辻行人 & 有栖川有栖※⑥&⑦
太陽に祈りを捧げる儀式の最中、太陽を神と崇める宗教団体<拝陽(はいよう)>の二代目教祖が撲殺された。
儀式の舞台となった中庭には、鍵がかけられており、被害者のほかに側近である二人の信者が中庭にいた。
二人のうちのどちらかが犯人なのは間違いない、簡単な事件だと思った丸ノ内刑事だったが、二人それぞれに犯人であることを否定する事実が浮上。
さらに撲殺した時の力は人間業ではないことが判明、そのほか二人の側近以外のほかの信者にも怪しい行動をとっている者がおり、事件は迷走していく。
〇遂に来てしまった驚異のギミックトリック。正直、某マジシャンと物理学教授のコンビが探偵役でも違和感は無い。
※⑥「館シリーズ」やアニメ化された『Another』の作者。 ※⑦「学生アリス」や「作家アリス」シリーズの作者。そこに登場する探偵役『臨床犯罪学者 火村英生』はドラマ化されている。
事件ファイルNo.10「完全無欠のアリバイ」
作者:我孫子武丸
高級な品をリーズナブルな値段で買えるのが魅力のスーパーマーケット「プレミアムデリSAEKI」の20周年パーティは、滞りなく行われた。
しかしその翌日、社長が自宅で殺害されているのが発見される。
容疑者として浮上したのは社長の四人の息子たち。
だが、全員に死亡推定時刻のアリバイがあった。
長男は自身が店長を務めるスーパーの支店で仕事。次男は、カジノバーで朝までゲーム。三男はパーティの後片付けの後に家族の待つ自宅へ、四男はパーティの二次会に参加していた。
そんな中、アリバイを崩そうと躍起になっている丸ノ内刑事の元に、犯人が出頭したという連絡が入る。
〇犯行が可能だった人間が居ないのなら、「誰」に「何」が可能だったのか?を考える必要がある事件。主人公の事件はものの序に解決される。
後述
本作は、読み手自身で論理を組み立てて犯人を当てるオムニバス推理小説ゲームである。とにかくロジックを重視した新感覚謎解きADVが見事に形になっている事、複数の有名ライターによる事件シナリオを個別配信してクイズキャンペーンを行った事など、新しい試みの数々が評価された。
ただし、小説本来の姿を尊重した地味めな演出やキーワードシステムのとっつきにくさなど、幅広い層へアピールした親切設計とは言えない部分が多い。どちらかというと、推理小説や謎解きADVを元々好きな人がハマるタイプのゲームデザインである。
また、一応ノベルゲームに分類される本作だが、(タイトルに暗示されているとはいえ)意外にも「物語を楽しむ作品」ではない。提示される事件の掘り下げ、というか動機解明や解決後の描写には不満が残る事も多いだろう。 等々含めて好みには大きく個人差が出るものの、この奥ゆかしくも先駆的な娯楽作品に、とりあえず無料チュートリアルだけでも触れてみて損は無いだろう。
2022年において、本作のゲームシステムを基にした、推理ADV新作の「春ゆきてレトロチカ」が発売された。
END.