ある村にジュリという少女がいました。
ジュリの家は貧しく両親は休むことなく働いていました。
幼いジュリも森に行って薪木を拾い両親の手伝いをしていました。
そういった生活が何年も続き、両親はとても疲れてきっていました。
特に、父親は昼夜問わず働き詰めで疲労が溜まりに溜まっていました。
そんなある日のこと、とうとう父親が倒れてしまいました。
「お父さん・・・。」
少女は何度も父親に話しかけましたが、二度と話すことはありませんでした。
父親が無くなって、今度は母親が倒れてしまいました。
母もまた、二度と話すことはありませんでした。
悲しみに捕らわれたジュリは毎日、森に行っては泣いていました。
「ここで泣けば、誰にも見られないわ・・・。」
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毎日、ジュリが泣いているといつの間にか、手は幹になり足は根になり髪は生い茂る葉になってしまいました。
「なんてことなの?私・・・樹に…なっちゃった・・・。」
少女の涙はいつからか栄養分になり、少女が泣けば泣くほど樹の栄養分となり、少女はいつしか大木になっていました。
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そうすると、少女の木陰に一人の青年が昼休みに来るようになりました。
「ああ、なんてここは居心地がいいのだ?」
少女はいつしか青年が昼休みに来ることを楽しみにするようになりました。
少女は夏には木陰を青年に提供するだけで無く、春には白い花を咲かせ
秋には赤い実を付け、青年を一年中楽しませていました。
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そんな楽しい時間を毎日、過ごしていた二人でしたが、季節が冬になって、樹に
は何もなくなった時から青年が少女のところに来なくなりました。
少女は
「私に何もなくなったからだわ。」
と思っていました。
少女が風に乗って聞こえて来た噂によると、遠くに働きに行った青年に彼女が出
来てしまい今度、結婚することになったようでした。
少女は
「仕方がないよね?だって、私の体は人間じゃないもの・・・。」
また、少女は一人になってしまいました。
ある日、少女がシクシク泣いていると、樹の下から自分では無い泣き声がしてきました。
「誰?」
少女が泣くのを止めて、下を見るとあの青年が泣いているのです。
少女はどうしていいかわかりませんでした。
「そうだ、私が泣いているとお母さんがいつも歌ってくれた歌を歌えばいいのだわ。」
少女は歌を歌いました。
声は歌にならず。葉のこすれる音や幹のきしむ音になり、青年を励まし続けました。
青年は樹が自分を励ましていることに気が付き、樹にしがみつき
「ありがとう。僕は彼女に振られてしまい、傷心で故郷に帰って来たけれど、辛くてなってしまい、ここに来れば誰にも見られないと思い来てしまった。君のおかげで忘れられそうだ。」
と言いました。
それを聞いた少女はうれしくなって、久しぶりに微笑みました。
すると、どうでしょう。少女の姿は元の人間の姿に戻っていきました。
幹は手に根は足に葉は髪に戻っていきました。
それを見た青年は驚きましたがどうして少女が樹になってしまったかを聞くと
「ボクも一人になってしまったから、これからずっと一緒にいよう。」
青年はそう言って微笑みました。