星野 白群に恋している事に瀬良 光音はまだ、気が付いていなかったのだった。
光音が自分の気持ちに気が付いたのは同僚の文也といつものように、話をしていた時の事だった。
「みーちゃん、みーちゃんたらー飲みに行こうよ~。」
「また、文也君たらそんな事を言って・・・。」
丁度その時、来ていた白群が
「キミたちは付き合っているのか?公私混同は止めてくれないか?」
と言った時だった。
「付き合っている?公私混同?誰がですか?」
「キミが。」
「私?勘弁して下さいよ。文也は誰にでもこういう態度をとるんですから。」
「あれ?あれあれ?星野さんヤキモチですか?」
「ヤキモチ?誰に?」
「光音ちゃんにですよ。」
「ぼ、ぼくが?」
「そうですよ。気付いていないんですか?」
「えっ?えっ?星野さんが私に?」
信じられないという目で光音は星野を見つめた。
「そんなことあるわけないじゃないか。」
「そうですよね?」
「そうだよ。」
慌てて、星野はその場から立ち去った。
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そんなことが有った翌日の土曜日、光音に1本の電話があった。
「もしもし、瀬良です。」
「あー俺、星野。」
「星野さん?どうかしましたか?」
「いやー、猫が何も食べなくて・・・。」
「ぁ、あの時の猫ちゃんですか?」
「そうなんだ。」
「猫の餌、何を食べさせていますか?」
「餌は・・・何ていうか普通のキャットフードを・・・。」
「何歳用ですか?」
「えっ?」
「まさか、対象年齢が違ってたとか?」
「面目ない。どうやら、間違っていたようだ。」
「完璧な星野さんらしくありませんよ。」
「そうなんだ。最近、俺、変なんだ。」
「そんな弱気な星野さん変ですよ。」
「だよね?で、相談なんだけど、俺と一緒に猫の餌を選んでくれないか?」
「私とですか?」
「キミとです。こんなことキミにしか頼めなくて。」
「はぁー、しかたが無いですね。」
「ありがとう、会社の前に5時で良いか?」
「はい。」
こうして、2人は猫の餌を買うという目的で、会う事になった。
「瀬良君!今日は来てくれてありがとう。」
「星野さん、これは業務命令ですか?それとも・・・。」
「仕事の訳ないじゃないか。」
「と言う事は、プライベートですか?」
「そうだけど?」
「じゃあ、用事が終わったら、すぐ、私は帰りますね?」
「はぁ。」
「じゃあ、行きましょう。」
「は、はい。」
2人はペットショップに向かって歩いていた。
♪~♪~♫~♪~
「この曲、なんでしたっけ?」
「ああ、この曲?」
「あー思い出せない。父が良く口ずさんでいたんですよ。」
「バグダットカフェのコーリング・ユーだろ?」
「何で知っているんですか?」
「俺、昔の映画好きだから、良く見るんだ。」
「そうなんですかぁ。」
「今そこの名画座で、丁度、バグダットカフェを再演しているんだ。良かったら、今日のお礼に一緒に観に行こうか?」
「えっ?はい。」
そんなこんなでペットショップの帰りに2人で映画を観る事になった。
主人公の前向きな生き方に共感した光音は
「すごく良かったです。感動しました。」
「そうか、良かった。喜んでもらえて。」
「星野さんはいつも一人で観に来るんですか?」
「こんな面白くない男と一緒に映画を観に行ってくれる人なんていないよ。」
「えっ?じゃあ、私は?」
「キミにとって仕事として義務みたいなもんじゃないの?」
「星野さん、プライベートだって言いましたよね?だったら、私もプライベートです。」
「えっ?じゃあ、また一緒に映画を観に行ってくれる?」
「あたりまえじゃないですか?こんなに良い物を今まで知らなかったなんて。」
「そうか・・・。それって、俺と付き合うという事?」
「だめですか?星野さんみたいな不器用な人、ほっとけないじゃないですか。」
「はぁ、まあ、そうですけど・・・。」
「じゃあ、そう言う事で。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
こうして、2人は勢いに任せてカップルになってしまいました。
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月日が経ち、それから5年後・・・。
「みーちゃん、ホントに結婚しちゃうの?」
「するよ。」
「それも星野さんとなんて、ずるくない?」
「ずるくないよ。私、星野さんのこと好きだもん。」
「えーっ!それ、俺の前で言っちゃう?」
「当たり前でしょ?」
「おれ失恋したー。」
「ほらほら、受付の玲ちゃんがいるでしょ?」
「えー、あの子?お母さんみたいなんだもん。」
「アナタの様な、自由奔放な人には優しく包んでくれる人が丁度良いのよ。」
「んー。」
「ほら、式が始まるから、席について。」
「はーい。」
バージンロードを歩く2人には未来がいつまでもいつまでも続いて行くようでした。
絆の糸―― episode 3 宇宙へ―― に続く