同じ花火を見ていた3

 夏花は祐樹の両親、特に母親が反対するだろうということは予想していました。

夏花は自分が身を引けばいいのだと思いました。

「園長先生。私はこの幼稚園を辞めたいと思います。」

「何?結婚退職?」

「そうではありません。実家に帰ろうと思っています。」

「実家って仙台?」

「そうです。」

「彼氏は?」

「学校があるので、私、一人で帰ろうと思います。」

「後悔しない?」

「私は無理やり結婚した方が後悔すると思います。」

「そうだけど・・・。」

「今月一杯でお願いいたします。」

「分かったわ。」

「それから、このことはご主人にも内緒でお願いいたします。」

「そうね。」

祐樹に知られる訳にはいきませんでした。

 「お母さん、仙台に帰るわ。」

「どうしたの?急に。」

「いろいろ疲れたから、何も聞かないで。」

夏花の母親は何となく分かっていました。

「うん、じゃあ、聞かないわ。帰っておいで。」

「ありがとう、お母さん。」

そうして、夏花は仙台に帰ることにしました。

丁度、良いタイミングだわ。

幼稚園も卒園式が終わった頃の事でした。

大学に入学してからずっと、同じ町で過ごし、気が付いたら20年以上の月日が経っていました。

 仙台のこの春はいつもより寒い天候でした。

「こんなに東北って寒かった?」

「今年は特別に寒いのよ。」

まるで、自分の心だなぁと夏花は思いました。

 夏花は地元の幼稚園に再就職をして、祐樹の事を忘れようと夢中で仕事をしました。

「先生と結婚する。」

そう言われる度に祐樹の事を思い出してしまうのでした。

「そう言えば祐樹君も言っていたなぁ。」

小さな約束でした。

 それから、1年半経った頃でしょうか、元の幼稚園の園長先生から電話がありました。

「夏花さん?正木です。」

「えっ?園長先生?どうしてこの電話番号が?」

「夏花さんのお母様から聞きました。お元気でしたか?」

「はい、おかげさまで、地元で幼稚園の先生を続けています。」

「良かったわ。夏花さんにお願いがあります。8月5日に掛かって来る電話に必ず出て下さい。無視しないでください。」

「そんなに大事な電話なんですか?」

「夏花さんの今後の幸せに関わる電話です。」

「分かりました。」

「じゃ、お願いね、必ずよ。」

「はい。」

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なないろびと

水彩画中心に絵を描いています。 先ずはやってみることが、私流です。 日々感謝の毎日です。 少しでも、みなさんに幸せを届けられますように・・・。

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