楓と洋介の付き合いは友だちでもあり、それ以上でもあり、二人はあえて曖昧な関係を続けていました。
その関係を壊す出来事が起こったのは洋介が楓の昔、東京でデビューを目指していたことを聞いたからでした。
洋介は実はレコード会社の役員で、かなりの実力者で、楓の歌を録音してレコード会社に売り込んだのでした。
興味を示した会社が楓のデビューに乗り出しました。
実は洋介は仕事のことで、楓にかかわらないようにしていましたが、彼女の夢を知ってかかわってしまいました。
「楓さん、デビューおめでとう。」
「ありがとうございます。洋介さんのお蔭です。」
「ああ、そのことですが今後、楓さんとの個人的な付き合いは出来ません。」
「なぜですか?」
「私はレコード会社のものですから、公平な目で見ないといけません。」
「そうですか・・・分かりました。」
「すみません、こんな私と仲良くしてくれたのに。」
「いいえ。」
楓がデビューの話を蹴ったことを知ったのはそれから1カ月頃のことでした。
しかも、店も辞めていました。どこに行ったか分かりません。
洋介はまた、大事なものを失ってしまったと思いました。
それから5年後、今年も「jazzフェス」の季節がやって来ました。
洋介はすっかり退職して、「jazzフェス」の企画を担当することになりました。
「jazzフェス」の参加グループの中に気になる名前を見つけました。
「スマイルズ」。
女性ボーカルのユニットだと聞きました。
「何か気になる。」
洋介はそのグループを聞きに行く事にしました。
聞こえて来た歌声と歌詞に聞き覚えがありました。
「楓さん・・・。」
まぎれも無い楓でした。
「洋介さん。私、歌いに来てしまいました。」
「楓さん・・・。」
二人は会えない間のことを時間を取り戻すようにゆっくり見つめ合いはなすのでした。
その後、どうなった?
ひ・み・つ