蝉時雨の夏 終章

 あれから、何度目かの夏を迎えた。
 僕は高校生になった。

 部活は、オカルト研究部に入っている。

「悠弥!今年の夏休みなんだけどさ、どこに現場検証に行く?」

 屋上でお昼ご飯を一緒に食べていた岡村が声を掛けてくる。

 僕と岡村、鬼怒川、大田は揃って名取北高校に進学し、小学校と中学校のときもいっしょに立ち上げたオカルト研究部を高校生になっても続けている。

 僕たちは、小学校最後の夏休みに、思い出作りとして、岡村の提案で逢九魔駅に行こうってなって、夜に出掛けて行った。
 だが、逢隈駅はあったけど、逢九魔駅はなく、それはただの都市伝説、という結論にいきついた。
 そこからが不思議で、僕たちは気が付いたらなぜか、岩沼駅の広場に立っていて、時間が2時間ほどしか経っていなかったけど、どこのお店にも寄っていなかったのに、お腹がいっぱいになっていた。
 そして、岡村のメモ帳には、どこで聞いたのだろうか?妖怪に関することがずらっと書かれていた。
 さらに、首には青い勾玉が掛かっていて、これはなんだろうと、さらにわけが分からなかった。
 その青い勾玉は、今でもオカルト研究部の友情の証として、僕たちの胸にひっそりと輝いている。

「悠弥!もちろん、八木山の吊り橋だよな!?」
「えぇ~?夜中に山まで行って大丈夫かなぁ……?」
「大丈夫だって!オレたちはもう高校生だぞ?少しの遠出くらいなんてことないって!」
「そうそう!オマエは相変わらず心配性だな~」
「それよりさ、この勾玉っていつ買ったんだろうね?気付いたら僕たち持ってたよね」
「たしかに!まさか、本当に逢九魔駅に行った……とか?」
「ないない。もし行ってたら戻って来れてなかったって!」
「だよな~!」

 みんな、ハハハ、と笑ってお弁当を食べ続けた。
 
 僕もまぁいいか、と、お弁当を食べた。

 その時だった。
 風が吹いて勾玉が小さく揺れると、ちりん、と鈴の音がした。
 すると、白い狐のような薄い影が見えた気がした。

 僕は、ハッとして向こうを見やるが、そこにはなにもない。

 見間違いだったのかな……。

 そしたら予鈴が鳴り始めたので、僕たちは急いでお弁当を食べた。

「うわ~。次の時間、数学の小テストあるわ。だりぃ~」
「今学期こそ赤点取らねぇようにしねーと」
「オレ、こないだの小テスト93点w」
「うわっ!てめえ裏切者!」

 そんな話をしながら、僕たちは教室へと戻っていく。

 外では、蝉たちがジワジワと鳴いている。

 うだるように暑い夏。

 僕たちがあの時経験した不思議な出来事は、こんな蝉時雨の鳴く、ひと夏の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ヨウルクー

12月生まれなのでフィンランド語で12月です。 読書したり、カフェに行ったりと街中を散歩するのが趣味です。 神社が好きです。

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